唇に乗せた言葉


 野球部も年末年始くらい休暇がある。寮もそのときばかりは閉まっているため、どうしても全員が実家に戻るのだ。原田も当然、そのために実家へ帰ってきた。実家があまりに近いため、ついつい帰ってくるのが少なくなってくるが久しぶりに実家のドアをくぐると、弟たち二人がこたつでくつろいでいて、母親がおかえり、と迎え入れてくれた。荷物をしばらく使っていないが定期的に掃除してくれている部屋に押し込んで、バッドを持って玄関へ向かった。
「兄貴、どこ行くんだよ」
「紅葉のところだ」
 バッドを振るなら紅葉の家のほうがいい。集中できるし、広さ的にも十分だ。事前に紅葉には帰ったらバッドを振りに行くと伝えてあるし、問題もない。了承の旨のメールはさっき確認した。
「右京さんち行くの?雅功」
 リビングから顔を出した母にああ、と返事をする。すると、包みを差し出された。
「なら、これも持っていって? おはぎ作ったから、紅ちゃん好きだったでしょ」
「ああ……絶対喜ぶな、あいつ」
 おはぎを差し出したらきっとあいつは満面の笑みで迎え入れてくれるだろう。それを受け取って、バッドと手荷物を持ち直した。
「もしかしたら、あっち泊まるかも」
「帰ってきてすぐそれなんだから……右京さんちにご迷惑かけちゃだめよ」
「分かってる」
 家を出て、徒歩五分。
 昔ながらの造りの塀がしばらく続いた先に、大きな木でできた門庭が見える。その前でうっすらと積もっている雪を払っている男が一人。こんにちは、と原田が声をかけると、彼はおや、とふわりと笑って、いらっしゃい、と原田を迎え入れた。
「おかえり、外は寒いだろうに。紅葉がほうじ茶を淹れてたよ、中に入りなさい」
「はい、すみません。お邪魔します」
「いいんだよ、雅くんは息子みたいなものなんだから。ゆっくりしていきなさい」
 幼馴染の父はこれでも剣道では日本ですごく強い人で有名人だとか想像もつかないくらい穏やかな笑みを浮かべて原田に家に入るように促した。原田は包みを見せて、母からです、というと、ありがとうと柔和な笑みで返される。とりあえずは玄関へ入ると、丁度幼馴染の――紅葉が活けた花を飾っているところだった。
「あ、おかえり、雅」
「……ただいまっていうの、おかしいだろ」
「いいんだよ、ただいま、で。あれ、それ、何?」
「ああ、母さんから。おはぎだってよ」
「おはぎ!」
 ほら、やっぱり、嬉しそうな顔した。包みを両手で受け取って、紅葉は抱きかかえるようにした。その嬉しそうな顔といったら、冬だと言うのに夏の太陽のような笑顔だ。ありがとう、といったあとに、はたと紅葉は気付いて、原田の手を引っ張った。
「寒かったでしょ、中入ってお茶飲もう?」
「……ああ」
 お前の手も冷てぇよ、という言葉は飲み込んで、家の中へ上がらせてもらった。バッドは玄関先に立てかけさせてもらう。後で時間を見つけて、縁側の軒下で振らせてもらおうと思う。居間へ紅葉と入れば、こたつが鎮座している。こたつの一辺には既に紅葉の双子の姉の葉夜が入っており、原田の姿を見ると、よ、とこたつの中から手を上げて挨拶した。
「野球部、国体でも大変だったんでしょー、おつかれ〜」
「ああ」
「夏は甲子園だったし……練習だってずっとあったんでしょ?」
「まあな」
 返事をしながら紅葉に促されるままにこたつに入る。じんわりとした暖かさがたまらない。この家はこのためだけに掘りごたつになっていて、床暖房も入っているからとても暖かいのだ。紅葉はこの掘りごたつだと、寝転がってこたつに入れないと愚痴っていたが、これはこれでいいし、何よりこたつに入ってそのまま寝落ちする可能性のある紅葉にはいいだろう。
「葉夜、雅のお母さんからおはぎ貰ったの、食べる?」
「食べる〜」
「ん、じゃあ、お茶と一緒に持ってくるね」
 紅葉はおはぎを取り分けるために台所の方へと入っていった。それを見送ったところで葉夜がにやり、と笑って、掘りごたつの中に入っている原田の足を蹴った。
「んで、紅葉とはどこまで進んだの?」
「……ちっ」
 ほら、きた、と言わんばかりに原田は顔をしかめる。紅葉は確かに幼馴染だが――恋人でもある。高校入学頃に付き合い始めて、今に至るわけだが……既にお互いの家族には知られているし、むしろ「紅葉ちゃんなら安心」「雅功くんなら大丈夫」とお互いの両親が揃って頷くくらいだ。反対されなくて何より、と思う反面、知られている分、からかいもひどい。特に、紅葉の双子の姉である葉夜は同い年という事もあって、からかいに容赦がない。
「もう、キスは? キスはした?」
「お前には関係ねぇだろ」
「あるよーー、毎日毎日雅がね〜、雅が〜って紅葉に聞かされるの俺なんだから」
 ネタの一つや二つは提供してもらわないと、と言いながらこたつの上に上がっているみかんの山からみかんを一つ取って葉夜は笑った。
「もう付き合って二年近くになるでしょ? なら、もうやることヤッてても……」
「……それ、おじさんの前でいうなよ」
「言わないよ、意外と口うるさい人だし」
 バレた時が意外と怖いわけだが、公認はされているがそのあたりはやっぱり知られたくないと思ってしまう。そう話をしていると紅葉が取り分けたおはぎとお茶を持って戻ってきた。まだまだこたつの辺は残っているが、原田の隣に入ってくる。体が小さいからできることだが――葉夜も原田も敢えてそれを突っ込むことはせず、紅葉から暖かい淹れたてのほうじ茶を受け取る。
「おばさんのおはぎ美味しいから、好き〜」
「伝えとく。喜ぶから」
「ん、伝えておいて!」
 おいしい、おいしいと笑顔で頬張る紅葉の頬についた餡は取ってやる。



* * *




「泊まっていきなさいな」
 紅葉の母にそう言われたのが夕食前。おはぎを食べた後、原田はバッドの素振りを庭でさせてもらい、紅葉は夕方からの剣道の最後の稽古を終わらせて、夕食前には御暇する、と紅葉と話していたところを年内最後の仕事を終わらせていつもより早い帰宅をした警察官である紅葉の母に引き止められた。
「原田さんの奥さんには私から言っておくから」
 そう言われて、結局、家を出る前に原田が母親に告げたとおりに泊まることになったのだ。大抵、いつもこんな感じになるし、紅葉が原田の家に来てもこんな感じになる。紅葉の父親特製の夕食はとても美味しかったし、やはり紅葉の料理のルーツはここからだな、と思う料理がずらと並ぶ。野球部の原田が大食いなのをよくわかっているからか、遠慮せずに食べてね、と丼でご飯を差し出されるのも見慣れた光景になっている。
「雅、お風呂沸いてるから、入ってきたら? 寝間着、浴衣でもいい?」
「ああ、大丈夫だ、悪いな」
「いいよ〜。こういうときじゃないと、雅に浴衣着せられないし」
 出しておくね、と紅葉は少し楽しそうに笑って奥へと消えた。紅葉と葉夜の自室になっているのは離れの方だ。母屋には道場などもあり、門下生が泊まっていくこともあるから、と中学生の時に二人は離れに部屋を移した。とは言っても、廊下でつながっている離れだが。というわけで、原田が泊まる時も離れだ。離れは小さくはなく、四室備わっているらしい(そのうち、二つは双子のそれぞれの自室。一つは荷物置き場らしいが)ので、原田は大抵離れの一室を借りる。
「俺、今日、母屋で寝るわ」
「あ?」
「……邪魔しないでおいてあげる」
 肩をぽん、と叩かれてにやり、と笑われる。これは、完全にからかわれていると分かったが、同じような顔を紅葉の両親もしているもんだから、原田はいたたまれなくなって立ち上がって風呂へ向かった。すると、途中の廊下で紅葉とすれ違う。その手にはタオルと浴衣だった。
「あ、雅、はい」
「……悪い。あー……葉夜が、今日、母屋で寝るって」
「え、………あ、あー……そ、っか」
 気まずい空気が一瞬流れて、原田は紅葉の顔を伺った。顔が紅い。暗がりでもわかるくらいには顔が赤い。する、と頬に手を当てれば、びく、と紅葉の肩が震えた。身長差があるせいで、紅葉が少しでもうつむくとその顔は見えなくなってしまうので、手で促して顔を持ち上げさせた。
「……お布団、引いておくね……?」
 おう、と短く答えると、紅葉の額にそっとキスをした。荷物を受け取ってそのまま風呂へ行く。

 紅葉は原田と入れ違いに風呂へ向かった。
 先に離れに戻ってるというと、うん、と紅葉が少し照れたように笑って風呂へ行くのを見送って離れへ向かった。葉夜が居ないせいもあってか、離れはしん、と静まっていて、紅葉の部屋に灯されている簡易照明の行灯(とは言っても、ろうそくなどを入れるものではなく、電気式のものだ)の明かりがあるだけ。紅葉の部屋を開けると、原田は動きを止めた。
「……あいつ……!」
 頭を抱えたくなった。敷かれている布団は二人分――ではなく二人用の大きな布団が一つ。普段、紅葉が使っている布団はどうやら、押し入れの中に押し込まれているようだ。おそらく、この布団自体は紅葉の案ではなく、母親か双子の姉辺りだろうが……原田はどうしたものか、と紅葉の部屋に入って、ふすまを後ろ手に締めながらはぁ、とため息を付いた。とりあえずは、これには一切触れず、紅葉の部屋の本を拝借して暇つぶししようと決めた。読書家の紅葉の部屋には色々なジャンルの本がある。そういえば、歴史小説はどこだったか、と勝手知ったる幼馴染の部屋の本棚を物色して、目当ての本を探し出すと、行灯を近くに引き寄せて本を開いた。
 ――しばらくして、離れの廊下をひたひた、と歩く足音が聞こえてきた。原田が顔をあげると、丁度部屋の襖が開く。
「あ、読んでたんだ」
「勝手に探したぞ」
「いいよ、出しておけばよかったね」
 紅葉は浴衣の上に羽織っていた羽織を部屋に入ると、丁寧に脱いで部屋の座椅子にかけた。家だとほとんど道着か和服かで過ごすことが多い紅葉はやはり浴衣を着ていても慣れているのか、動きがとても静かだった。原田の隣に腰掛けると、ひょこり、と本を覗き込んだ。
「前に読んだやつじゃない、それ」
「ああ。改めて読むと、面白い」
 ぴとり、と寄り添って来る紅葉に男として何か試されているような気がした。すると、紅葉がきゅ、と唇を一文字に結んだかと思えば、原田の肩に手をかけて布団の方へ押し倒してきた。
「紅葉、」
「あのね……俺が、するから、雅は、その……そのままで、」
 いてね、という言葉は小さくて聞き取りづらい。
 紅葉は原田の腹の上に馬乗りになると、帯をそっと外して、袷を緩めた。ひやり、とした冬独特の空気が原田の肌を撫でると少し身震いをする。ちゅ、ちゅ、と少し拙い動きで原田の首や鎖骨にキスをする紅葉の手はいつになく熱い気がした。
「ん……ふ……っ、ん」
 かすかにこぼれてくる吐息に正直興奮する。そのままで、とは言われたが何もするなとは言われてない、と原田は手を伸ばして紅葉の浴衣の帯を外した。ひゃ、と驚いた声が上がるが、ぱさり、と緩んだ袷がはだけて、下以外は下着もつけていない肌が晒される。大きいとも言えないが、小さいとも言えない形の良い胸にそっと手を添えると、こら、と咎めつつも、抵抗はしない様子だ。
「ん……っ、は……ま、さっ、」
「手、止まってるぞ」
「……雅、が、いじわる、してるのに」
 避難的な視線を向けられるが気にしない。紅葉はなんとか原田の手から逃れると、また唇で原田の肌をなぞっていく。少しずつ、下へ下がっていく。腹の下、股の間まで降りてきた紅葉は下着の上からでもわかる原田のそれに下着の上からキスした。そして、下着に手をかけると、少し硬さを持ってきているそれを取り出して顔に近づけた。
「……っ」
「……紅葉、無理だったら、別に」
「きょ、今日は、俺からする、って言ったの!」
 いい出したら紅葉が聞かない頑固者だというのはわかってる。原田は体を起こして、紅葉がしっかりと見えるように座り、足の間にいる紅葉の頭をなでた。最初は緊張していたのか、なれないそれに抵抗感があったのか、ゆるゆると手で抜くだけだったが、はっ、と吐息をこぼした原田の反応を見て唇を先端に近づけた。ちゅ、と唇が触れるとたまらない感覚になる。ちゅ、ちゅ、と原田の反応を見て、何度も唇を押し当ててくる紅葉の首裏、後頭部あたりを撫でる。手で竿をしっかりと持ちながら紅葉はゆっくりとその小さな口を開いた。あまり大きくない口で、原田のそれは先端を受け入れるのですら限界で、口いっぱいに咥えて舌を動かし始めた。
「んぐ……っ、ふ……」
 先端のくぼみや、鈴口辺りを舌を動かして愛撫すると、口の中でそれがびくり、と跳ねる。次第に苦味のある液体がじわりと染み出してくるようになり、唾液と合わさるとより口の中で動かしやすくなってきた。紅葉は一度、それを口から離すと、裏筋の血管が浮き出している部分に手を添えながら咥える。ちゅう、と強く吸えば、後頭部に添えられていた手に力が入った。
(ん……気持ち、よさそ)
 よかった、と再びそれを咥えようとして、甘い刺激が紅葉を襲った。
「あっ、や……っ」
 原田の両手で尻を開かれ、秘部をなぞられる。少し冷たい空気に触れるとひく、と入り口が動く。原田は指を添えて上下させるだけで、直接それらに触れることはしなかった。入り口を指で捉えると、片方の手は外して、胸へ添える。硬く主張している先端をきゅう、と押しつぶせば一段甲高い声が上がって、紅葉が少しだけ背をのけぞった。
「……紅葉、口はもういいから、こっちこい」
「ふ、え……?」
 手を引かれて、後ろから抱えられるように膝の上に乗せられる。原田は手早くゴムを取り出して、それを自分のそれにつけると紅葉の秘部にこすり合わせた。
「んっ、あ……っ、ま、さ」
「ちょっと大人しくしてろ」
「んあ、あ、こ、れ……こしゅ、れ、る……っ、あっ、ああ、」
 規則正しく律動するように腰を動かしてただこすり合わせるだけの行為を繰り返す。耳に舌を這わせれば、紅葉はぶるり、と震えていやいや、と首を横に振る。大粒の涙が溜まっていたのか、ぼろ、と落ちるがそれを舐め取りつつも、動きは止めない。片手は逃げないようにがっしりと紅葉を抑え、もう片手は胸の愛撫を続ける。次第に水音も大きくなってくると、紅葉が限界を訴えるように、自分を抱え込む原田の手を掴んだ。
「ひゃ、あ、ああ、ま、しゃ、ましゃ……ぁ、あ、あっ、も、あん、ん、ああっ」
 ぐしょぐしょに濡れた秘部からは厭らしい音しかしない。小さな体に、幼い顔立ちの幼馴染だが、こうした瞬間にふと女であることを再認識させられるし、たまらなく愛おしい気分になる。ぐるり、と振り向かせて唇を重ねながら、秘部の硬く主張し始めているそれを指でつまみ上げ、こね回すと紅葉はあっさりと達した。潮を吹きながら達しのがショックだったのか涙をぽろぽろとこぼしながら原田を不安げに見上げてくる。大丈夫だ、と言葉ではなく抱きしめながら額や頬、まぶたにキスをすれば体勢を変えて原田に腕を回して抱きついてくる。
「ふ……ん、まさ、ぁ、も、………ちょー、だい?」
「……煽んなよ」
 止めてやれなくなる、とは口に出さず、紅葉を押し倒す。浴衣は完全に脱がせてしまって布団の外へと追い出しておく。胸を口で吸い上げて、紅葉が背中をのけぞらせるのを見ながら、徐々に体をなぞって下へ降りる。
「あ、ま、さ、まさ、もう、いい、もういいから、雅の、雅のが、ほし、」
「もう少し慣らさねえと入らねえよ」
 体格差がありすぎるとこれが大変だな、と原田は紅葉の秘部に指を押し込む。一度達しているそこはあっさりと原田の指を二本受け入れるが、少しばかりきつい。これでは原田を受け入れるなどまだまだ無理な話だった。閉じかける脚を両手で抑えて、体をねじ込む。指を動かす度に中がうねっている。
「あ、ああ、や、っ、やらぁ、あ、ましゃ、まさ……っ、も、もう、いっ、」
 びくん、と足をつっぱらせて、紅葉が震える。敷布団をしっかりと掴んで、紅葉の口は閉まらず、はしたなく涎をこぼしていた。そろそろ、自分も一度達しておきたい気持ちもあるが、と紅葉をちらりと、見やれば、紅葉があー、と大きく口を開いている。紅葉の前にそれを差し出せばぱくり、と先程の緊張とは打って変わって、あっさりと咥えた。
「ふ……ん……っうぅん、はぁ……っ、ぁ、ん」
 咥えきれない部分は手でしながら、めいいっぱい口に含んで、紅葉は頭を前後させた。喉の奥に入りそうになれば、少しえづいたが果敢にそれに挑戦しようとする。無理するな、と頭をなでながら耳へ指を這わせる。ふるり、と震えた体。こくり、と小さく頷いて紅葉は愛撫を続ける。
「……っ、紅葉、」
 下腹部に走るぞくぞくとした感覚に逆らわず、原田はゴムの中で達した。紅葉は口を離して、原田を見上げる。そろそろお互いに限界だった。新しくゴムを付け直し原田は紅葉の足を掴んだ。しっかりと開かせたそこでは、入り口がひくひくとうごめいて、今か今かと原田を待ちわびている。そこに先端をあてがうだけで紅葉は甘い声を上げた。ゆっくり、ゆっくりと押し込んでいく。
「ひっ、あ……あ、ああ、んっ、んぅ……」


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