その祈りは、懺悔にも似て愛おしく



 天族は永遠の生き物だ。
 未来永劫変わり続ける世界に、何一つ変わること無く生き続ける生物だ。

 セメア――愛する者と名前をつけてこの世界に降り立ったのはいつのことだったか。かつての同胞たちは多くのものがドラゴンとなり、その生命を終えた。人との共存は天界における神々の反感を買ったことだけは事実だった。天に生きるものとしてその生涯を終えればよかったものを、と侮蔑すら受けた。それでもアスナは人の世に降りてきたことを後悔はしなかった。

 変わり続ける世界を見守れることは、なんと楽しいことなのか。
 聖座で座り続けることも、そのための祈りを聞き続けることも、多くの命が育まれていく世界も、なんと美しいことか。
 とある日。
 懐かしい天族が聖座へやってきた。美しい真白の髪と、真白の衣装をたなびかせた彼女と会話をしたのは実に数百年ぶりのことであった。彼女はあまり人への干渉を好まない天族だが、世界を放浪して人の世界を眺めているようであった。その自由さは羨ましい限りのことであった。私の膝の上で眠る、生まれたばかりの風の天族の髪をなでて彼女はふと笑った。
「次に会うのはいつになるかしら」
「さあ。存外、人の世かもしれないね」
 それが"天族"としての彼女に出会った最後である。


* * *



 世界は移ろっていく。
 天族と人の生きる時間は当然のように違う。――そう、だから彼女との別れは当然の出来事だったのだ、とローティスは一つの墓の前に立ちながら思った。タバサとの出会いは既に数百年も前の出来事だが、ローティスには妙に真新しい記憶のように感じた。その移ろいはあまりにも突然であり、世界は――あの出来事から大きく変わった。
 人間の意志を守った彼女たちの行いが正しかったのか、今となってはわからない。人に意思が残り続けたが故に世界は今一度穢れに犯されかけている。多くの天族たちが、その穢れに犯されている現状をローティスはよく理解していた。

 世界は、今日も理不尽だった。

 穢れを生み出すのは人だ。
 そして、穢れによって生み出された災厄によってさらに穢れが生まれる悪循環。それは、いつの世界でも人が生み出した罰のようなもの。そして、その罰に巻き込まれるのが天族だ。天族自身は穢れを生み出しはしない。だが、天族は穢れに犯され、その末路は悲惨なものだ。救いのない、その最期をローティスは何度も見てきた。
 ざり、と地面を踏みつけた音が聞こえた。懐かしい男の気配だった。
「よぉ、元気そうだな」
 ――アイゼン。
 名前を呼ぼうとして、彼に腕を引かれた。ぽすり、と腕の中に収まり大人しくしているとぎゅう、と自分を抱きしめるその力が強まった。まるで、最後になるかのよう。と、ローティスは微笑みながら、アイゼンの背中にそっと手を回して、静かに寄り添った。
 その逢瀬は幾年ぶりで、永劫の時を生きる天族にとってはその幾年がとてつもなく長い時間になることは珍しいことではないし、今もおおよそ百年ぶりだ。アイゼンは今も世界を巡り続けている。人が天族を認識できなくなっても、人と天族が共存していたあの時を忘れないように。
 ローティスは久しぶりに感じたアイゼンのぬくもりと香りに少しだけ目を細めた。心地の良い時間が流れ、一つ風が流れてきたところで、突然の来訪者にとっさにアイゼンにかばわれるかのように腕を引かれてその背中に隠されてしまった。その突然の来訪者はわずかばかり着地に失敗したのか、男のほうが地面に寝そべる形になっており、もう片方の真っ白なドレスをまとっていた方はその上に座り込んでしまっていた。
「久しぶりね、アスナ」
 座り込んでいた方がローティスに向けて顔を上げた。困ったように笑いそして、差し出された手をとって立ち上がる。寝そべっている銀の長髪の男は――ザビーダだ。アイゼンが呆れたように肩から力を抜き、無理やり手を掴んで立ち上がらせた。アイゼンはここ最近はザビーダと旅をしていることが多く、ローティスと会う少し前まで彼と行動していたため、見知った顔の登場にどうしようもなく憤った。
「何してんだ、お前らは」
「……散歩かしら」
 まだ気を失っているザビーダの代わりにアスナが答えた。純白のドレスについたホコリを払うように手を振るい、ニコニコとその様子を見守っていたローティスの元へ歩み寄ろうとして、ドレスの裾を踏んで思いっきりころんだ。
「また、数百年外に出てなかったのね?」
 ローティスはどうぞ、と再度手を差し伸べてくれる。その手を取って立ち上がったところで、ザビーダが意識を取り戻して二人を見やった。

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