手紙は届かない


 私はごく一般的な、女子高校生だ。稲城実業高校という学校に通い、部活に勉強にと謳歌する女子高校生で間違いない。勉強も平均くらいで、部活は女子テニス部。夏の大会でもそこそこの成績だったけど、全国とかそういうところではなくて、普通の一般人みたいな感じ。
 うちの学校は野球部が強い。毎年甲子園に行っているような、強豪校らしく、その時期になれば学校全体を挙げて応援するくらいだ。たまたま吹奏楽に入っている友達が、レギュラーが変わる度に曲が変わるらしいから大変なんだよーと言っていたがすごく楽しそうで、私も応援に行くことになった。

 ――そして、恋をした。

「おう、おはよう、鈴木」
「お、おはよう、原田くん!」
 下駄箱で顔を合わせると挨拶するくらいのクラスメイト。考えてみれば一年生から同じクラスだった彼に野球のことで話しかけたのは秋大会の後だった。秋大会では守備でも、攻撃でも大活躍だった彼は一躍野球部のヒーローだったし、二年では正捕手も行けるのではないか、と言われているくらい。今年も同じクラスになれた。
「また同じだな」
 話しかけられてびくとした。
「そうだね、今年もよろしく」
「こちらこそ」
 そういって挨拶したところで原田くんが僅かに顔をしかめて、振り返った。次の瞬間には原田くんの腰辺りに飛びついてくる女子生徒。
「朝から女の子と仲良しじゃないですか〜まっさとしくーん」
 にやにやと笑いながら原田くんの腰辺りに抱きついているのは噂には聞いていたけど、間近でみることは一年なかった稲城実業の有名人だ。――右京紅葉。定期テストで一位だったとか、剣道部に殴り込みかけて一時間でそれなりに強豪らしい剣道部を一人で伸したとか……自分よりも大柄の三年を柔道の投技で投げて黙らせた、とか正直、すごいんだか、なんだかよくわからない噂ばかりの人だ。
「るせぇよ、妬いてんのか?」
「えー、妬かないよ?」
 静かにそう言うと右京さんは原田くんから離れて、ちらりと私を見た。日本人にしては珍しいというか、ほとんどいない緑色の目がじっとこちらを覗き込んだ。そして、ふわりと笑うとよろしくね、と言った。人当たりはいいほうなのかもしれない、と思うが軽く牽制されたようにも思えた。

 ――そう。私の好きな人、原田くんには右京さんという彼女がいる。

 どうやら、右京さんと原田くんは高校に入る前から付き合っていたらしい。去年一年はクラスが違うせいで私はほとんど見なかったが、原田くんはマメに右京さんのクラスに顔を出していたようだし、右京さんも原田くんの様子を見に確かにクラスに来ていたが、彼女が野球部のマネージャーということもあってかあまり付き合っている雰囲気は感じられなかった。
 右京さんは野球部のマネージャーだ。選手とも結構仲が良くて、自分が元々スポーツをしていたのもあるのかマッサージとかそういうのにも定評があるらしい。
 私が原田くんに恋をしていると知った友人が静かに肩をたたいていった。ありゃ、勝ち目ないわ。

(いや、ほんとにそのとおりだよなぁ)

 お昼休みに原田くんと右京さんを見てみれば一緒にご飯を食べている。それも、全て右京さんの手作りというお弁当だ。ハンバーグとか卵焼きとかポテトサラダに豆ご飯。ちょっと甘辛そうな鶏肉と大根の煮付けとか。毎日毎日よくこんなに作れるなーってくらい、彩りもきれいなお弁当ばっかり。
「はい、おしぼり」
「おう」
 差し出される白いお絞りで手を拭いて原田くんが手に取ったのはおにぎりだ。具が少しだけ三角おにぎりの頂点に飾ってあるから何が入っているのかわかりやすい。おもむろにバクリとそれを口にするのを見守って、右京さんは魔法瓶から温かいお茶をカップに移して渡した。
 ――いや、本当にすごい。

「すごいねぇ……」

 たまたま席が近かったときにそういうと、右京さんが笑って食べる?と言ってくれて、ハンバーグを一つもらった。豆腐ハンバーグで、中にはひじきとか枝豆とかたっぷりと具が入っていて食べごたえがある。野球部でたくさん動く原田くんのために腹持ちのいい食べごたえのあるものを作ってるんだ、とすぐに気づいた。
「おいしい……」
「だよな」
 原田くんがそう言って少しだけ笑った。お褒め頂き光栄です、と右京さんはすごく恭しく言うもんだから、なんだか自分がすごく惨めな感じだった。私も毎日お弁当は作ってるけど、冷凍食品とか前日の残り物とかが多いし、と思うと、右京さんがまあ、と苦笑した。
「煮物は昨日の残りだけどね」
「だろうな。これ、お前の味付けじゃない。おじさんか?」
「そう。やっぱり、まだお父さんの味には遠いなー」
 雅が好きだったの思い出して、少し分けてもらっちゃった。
 ああ、家族ぐるみなんだ。まあ、幼馴染だって言ってたもんね。


 右京さんは女子力が高い。

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