烈火の花
「珍しいな、アンタがこういうのを見るなんて」
後ろからかけられた声にアスナが振り返るとそこにはいつもと違う着物――どうやら浴衣というらしいが――を着たゾロが立っていた。その手には酒の入った瓶がいくつか持たれており、一本がアスナへと手渡される。それを受け取って再び濃紺の空を眺めて、アスナは静かにキセルをふかせた。
ここは夏島。ワノ国の文化が少しだけ根付いている島で、この島では今丁度五穀豊穣を願う祭りが開催されており、麦わら、蒼の瞳の両クルーたちは夜店連なる街道へと出かけていったばかりだった。せっかくだからこの国の服を着ましょうよ、と張り切ったレビア達によってあれよこれよのうちにアスナは着替えをさせられたが夜店へと出向きにはなれず、船で待っているよと伝えれば、船から「花火」が見れると教えられたのだ。――船室にこもっているつもりだったが、甲板に出てきて水タバコを広げたのもそれが目的だった。
「何、花火は好きでな。――昔よく海兵時代は花火を見ていた」
新年になれば鐘の音の後に、大きな花火が上がるのだ。アレが好きで、よく戦艦の甲板に酒を広げて見ていたものだな、と思い返してこれも一緒だ、とアスナはゾロを見やった。ゾロはどかりとアスナの隣に腰掛けると、酒の瓶の栓を抜いて、大きな赤い盃にそれを入れると、ぐい、と飲み干した。
「坊やも意外じゃないか。船の見張りを買って出た、といったところか? ――それとも、俺がここに居るからか?」
「……さぁ、どっちだろうな」
――どん、
大きな音が鳴る。
視線を向ければ、濃紺の空に美しい大輪の花が咲いた。
「……おお」
「すげぇな」
二人から上がる感嘆の声。アスナもゾロもそちらを夢中になって視線で追う。数多の音にあわせて咲いてゆく火の花はあまりにも美しかった。アスナはちらり、とゾロを見た後、ふと微笑んで、その肩に頭をあずけるように寄りかかった。ゾロは一瞬驚いたような表情を見せたが、ただ、何も言わずにアスナの肩を引き寄せると空を見たままだった。
「ふふ……」
「……何だよ」
「緊張してるのがバレバレだ。もう少し落ち着いたらどうだ、坊や」
「うるせぇな、黙ってろよ」
「ああ、すまんすまん」
クスクスと笑いながらアスナはゾロを見上げた。腕の中にいるアスナはふと微笑んだ。そしてゆっくりと目を閉じるので、察したようにゾロが顔を近づけるとキスをする。タバコの臭いに混じる――アスナの香水の香りに少しばかりクラクラとした。