世界一の食卓



「おはようございます」

 館の主人を出迎えたのは黒い燕尾服の若い男であった。柔らかく微笑んだその男は主人が歩いて所定の席につくために歩いていくのを見守り、椅子を合わせて引いた。赤い髪が燃えるように揺れ、主人は椅子につくと慣れた手つきでナプキンを広げた。
 ――アスナの前に並ぶのは色とりどりの朝食だった。
 スープカップには甘めのコーンスープ。グリーンのソースはグリーンピースを使って作られており、見た目にも鮮やかでアスナはほう、と嘆息した。バケットケースの中には焼きたてのクランペットとクロワッサンが形よく並べられており、その脇にはバターとジャム、クロテッド・クリームが陶器の器に入れられ並べられている。
 メインのおかずはベイクドビーンズであり、添えられているソーセージは自家製のものなのだろう、少なからず市販のメーカーのものではないとアスナは思っていた。
 脇にはサラダが二種類。蒸し野菜とチキンのイタリアンサラダとスモークサーモンとトマトのマリネだだ。どちらも彩りがよく、目に見ていて楽しいものばかりだ。デザートにはフルーツたっぷりのヨーグルトが切子ガラスの深い器に入れられ、キラキラと輝いているようだ。
「お飲み物は紅茶とコーヒー、またはミルクを用意していますが」
 ――どちらにいたしましょう
 聞いてくるサヴニエールの声で、漸く自分が華々しい料理の数々に見入っていたことに気付いて、こほんと咳払いをして――朝とは言えど威厳ある当主の体を装う。紅茶を、というとかしこまりました、と深々と一礼して、美しい白磁器のティーカップに紅茶を注ぎ入れる。紅茶のよい香りがしてきたところで、アスナはナイフとフォークを手にとってソーセージを切った。ぷつり、とナイフを入れて切れた皮からじゅわりと溢れ出るのは肉汁と――芳しいまでの肉の香りだ。あまり肉が得意ではないとは言え、このスパイスの混じった食欲をそそる香りにアスナはたまらず近くに添えられていたマスタードを乗せて口に入れた。
「……ん」
「どうでしょう。新しいスパイスが手に入りましたので――是非、ご感想を」
「…………うまい」
 ぷつり、と切れた皮とは違い、口に入れた瞬間にほろほろと解けるような肉の感触。肉汁とスパイスが渾然一体となってより食欲をそそる。味気の薄いクランペットが皿の上に乗せられ、アスナは其れをちぎって取り分けると、ベイクドビーンズと切ったソーセージ、マスタード、ソースを乗せて――本来ならお行儀が悪いことなのだが――ぱくりと口に放り込んだ。
 アスナの食事のタイミングに合わせて――違和感のない程度に、サヴニエールはサラダや主菜をとりわけた。サラダも柔らかな温野菜とさっぱりとしたチキンにかかっている少し酸味のあるイタリアンドレッシングはバランスがいいように感じられたし、同じ酸味でもマリネは少し丸く感じた。スモークサーモンとトマトには相性バッチリで、モッツァレラチーズがちぎって添えられていたのでそれと一緒にいれるとなお一層香りが際立っていい。

 お行儀がいいながらも、ぱくぱくと無言で食べ進めているアスナの反応に本日も上々の出来だったようだ、とサヴニエールはにこりと微笑んだ。最後のデザートであるフルーツヨーグルトをぱくり、と食べて少し顔を綻ばせているのは少しばかり年頃の少女の見える。本日の三時のおやつは――ハワイアンパンケーキにでもしましょうか、というと少しばかり目を見開いてアイスはつくのか? と朗らかに言うので、ええ、つけましょうとも、とサヴニエールは笑う。

「やはり、お前の料理が一番だな、エル」
「お褒め頂き光栄でございます」

 さあ、それでは、本日もいってらっしゃいませ。
 アスナに至上の食事をもたらせてくれたサヴニエールはいつものように笑いながら立ち上がったアスナにカバンを手渡した。

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