酔い


 確か、この逢瀬部屋に酒類を持ち込んだのは、五士だったはず…――と亜簾那は目の前でつぶれかけている金色にブリーチされた髪、軽薄そうなたれ目の男、五士典人を眺めながら、ふぅとため息をついた。
 自分で持ち込んだ酒に飲まれるなんて、なんて惰弱な、といいかけて自分の肝臓がおかしいのだ、ということに気付いて、亜簾那は発言しようとした口を、数回パクパクさせて、噤んだ。五士はといえば、その間もあー、だの、うー、だの、と言葉にならない言葉を紡いでいるが、いつも通りの軽薄そうなたれ目が亜簾那を見つけると、にへら、とだらしのない顔で笑うのだから、亜簾那はついつい、そのまま放置して、その頭を撫でてやった。
「典人、典人」
 下の名前を呼んでやれば、んー?ととてもうれしそうな声で返事をしながら、五士が机に突っ伏していた上半身を持ち上げた。その頬は赤みをさしていて、完全に酔っていることが伺えた。――とっとと、布団に入れてしまおう。と思いながら、亜簾那は話を続ける。
「お前、風呂に入ってもう寝ろ。俺は片づけしておくから」
「……おー…」
 少しつまらなさそうに、しかし、それに従う意思はあるのか、机に手を置いて、力を入れ、立ち上がる。しかし、おぼつかない足元の彼を見ていて、咄嗟に不安がよぎった亜簾那はその体を支えた。
「っと……わりぃ」
「はぁ……風呂場までは一緒に行ってやるから」
「ありがとな」
 これまた、にへら、と気の抜けるような笑顔をするのだから、亜簾那は脱力するようにため息をついた。20pも身長差のある男女で、まして男がある程度筋肉のついているのなら、普通は支えるのも一苦労なはずなのだが、亜簾那は元々の怪力と、鬼呪装備の力を少しだけ借りて身体能力上げると、楽々五士を支え、脱衣所まで連れていった。
ここは、逢瀬部屋として、五士が用意した部屋だ。
 さすがは、名門五士家の長男というか、ただの逢瀬部屋なのにそれなりの設備が整っていた。家になんと説明して用意してもらったのか、と聞きたくなったが、まともな答えは多分帰ってこないと思ったからやめていた。と、まあ、さておき、それなりの設備が整っているだけはあり、脱衣所、風呂は広く取られている。五士を椅子に座らせると、亜簾那はその場から離れていこうとする。いろいろ片づけなければ、と考えていると、腕をあっさりととられた。
「典人……?」
「んー?」
 ごそごそ、と服をまさぐられる。少し、熱を持った指が亜簾那の腹をなぞった瞬間に、背中をぞくぞくとした感覚が走り抜けていく。耳にかかる吐息が熱っぽい。首筋に何度もキスを落とされる。
「お前、あんまり酔ってない、だろ」
「さあ、どうだったかなぁ?」
 にらみつけるが、五士はあまり気にした様子もなく、服の中に手を入れて胸をいじり始める。ブラジャーの中に手を入れ、大きな胸を寄せるように揉む。どうやらこいつは、本気で酔ってる様子はなかった。しまった、と思ったがもう遅いという自覚もあるし、絡みついてきた腕は、服を脱がせようと動く。
「最初から、この予定だったろ?」
そ の通りだ。この部屋で、二人きりで会うということはそういうこと。体を重ねて、口にはできない愛を確かめ合うために、会っているのだ。酒を飲んだのは、まあ、場の雰囲気を盛り上げようとか、そんな目的があったのか、それともただ単にこういう風にしたかったからなのか……恐らくは絶対後者だ。絶対に。
 少し楽しそうな五士を見ながら、亜簾那は腹をくくった。五士の腕の中でくるりと反転して、首に腕を回すとそのまま、引き寄せた。やっぱり、キスをすれば酒の匂いがする。当然といえば、当然なのだが。最初から、舌を絡ませ合う濃厚なキスに、正直腰砕けになりそうだったがそういった姿をさらしたくなくて、堪える。腰を撫でる大きな手に、おなかの奥がうずくような感覚がする。――ああ、俺はいつからこんなに"女"になったかな。と思いながらも、うっすらと目を開けると五士と目が合った。
「……普通、キスの時、目開けるか?」
「お前だって開けてたんだから、一緒だろ。それに俺は途中からだった」
「えええ……」
 そういいつつも、五士の手は亜簾那の部屋着のショートパンツへ伸びている。下着の中へ指を探りこませると、あっさりと下におろしてしまった。亜簾那はそれに対して大きな反応は見せず、五士のTシャツに手を差し込んだ。少し、冷えた指先が五士の少し熱を持った肌をなぞった。びくん、と動いた筋肉に、亜簾那が意地悪く笑う。
「何?感じたの?」
「……冷たかったからだっつーの。ほら、脱がすなら、さっさと脱がせてくれよ」
キ スを再度しながら、互いに服を脱がせると、服を脱ぎ散らかしたまま、風呂場へと向かっていった。湯が張られた風呂と、白いタイル張りの浴室、そして、ガラス張りの壁。最初見た時は悪趣味だな、と思ったが、まあ五士らしいとも思った。ここで風呂に入るときは大抵一緒に入っているから、このガラス張りにも大した意味はもうないのではないかと亜簾那は思っているのだが、これが重要なんだよ、と五士に熱く語られたため、もう、その話はしないことにしてる。
 五士がシャワーのハンドルを回すと、少し冷たい水が降ってくる。徐々に暖かくなっていくそれを浴びながら、亜簾那はまだ解いていなかったリボンへ手を伸ばす。濡れてしまった。髪が解かれたせいで、重力に従って落ちる。それを見ていた五士が、髪に手を伸ばして、一房掬い上げた。自分の唇に近づけて、じっと亜簾那を見つめてくる。鏡ごしに見える五士の目は挑発的だった。後ろから抱きしめられると、シャワーのお湯が降ってくる中、行為が始まった。


「んぁ……っ」
 五士の指が、唇が亜簾那の肌をなぞっていく。髪をかき分けられて、背中へ何度もキスされ、手が亜簾那の胸を愛撫する。背中をなぞる、ざらりと舌の感触が妙に心地よくて、亜簾那は身をよじらせた。逃がさない、といわんばかりに腕に力を込められ、痛いくらいにその胸を揉まれ、亜簾那の唇から甲高い嬌声が零れた。タイルに響いて、口を覆いたくなる。
 硬く主張し始めた胸の飾りを五士が摘み上げる。指の腹で擦りあげられる。もう片方の手が腹をなぞり、太ももをゆっくりと、撫でる。わずかに濡れ始めている秘部をなぞる様に、少しずつ手を当ててくる。ああ、もどかしい。尻を押し付けるように、つきだすとそこに硬く、熱い五士のそれが当たった。
「まだ、早いだろ」
「……んぁっ、下手に、長引かせ、るな…っふぅ、んっ」
 シャワーの音に紛れて、聞こえないはずのくちゅ、という秘部の水音が聞こえてくる気がして、それが亜簾那のわずかに残っている羞恥心を煽る。鏡のある壁へ手を伸ばして、手をつくと五士が追うように顔を近づけてくる。
「ひゃぁっ!」
「あー……結構トロトロだな」
「んぁっ、ば、いう、なぁ…っあ、ああっ、そ、こぉ」
 五士の指が膣壁を擦りあげる。入り口近くのそこをこすられるのが亜簾那は一番好きだった。――指でなら、の話だが。五士はそこを攻めたてつつ、耳に舌を這わせたり、首筋あたりに吸い付いてみたり、胸への愛撫も欠かさない。徐々に亜簾那の体に力が入らなくなっているのわかる。膝裏が震えだしている。支えるように、胸を愛撫していた手を外して、腹に腕を回す。中をかき乱す指の数を増やすと、亜簾那からは喘ぎ声ばかりしか出てこなくなる。
「あ、の、ああっ、のり、と…っ、典人…っ」
 名前を多く呼ぶのは、絶頂が近い証拠。何度も体を重ねているうちに気付いた。無意識なのかもしれないが、亜簾那は絶頂が近くなると何度も五士を呼ぶようになる。耳元で、いいぞ?というと、喉を晒して、一際高い嬌声があがり、膣が締まる。きゅ、と締まった膣からは指も引きずり出しづらかったが、抜くと、愛液が糸を引いている。
 立っていられなくなったのか、膝から落ちていく亜簾那を眺める。壁に手をついたまま、呼吸を乱し、白い肌はシャワーの熱と、情事の熱で薄桃色になっている。鏡に映る亜簾那の左目が、感情の高ぶりを示している金色へ、変わっていた。お互いの高ぶりが絶好調なのは、酔ってないとはいえど、酒が入っているから、だろう。
「……はっ、典人、」
「ん?入れていいか?」
「……あっ、ま、って……」
 腰を持ち上げようと、手を伸ばすが、ぺちん、とはたかれた。亜簾那は膝をついたまま、五士の硬く熱く、反り返っているそれへ手を伸ばした。
「お、めっずらしい〜」
「うる、さい…っ、んっ」
 少し茶化すように言いながらも、手で亜簾那の頭や頬を撫でる。先端を口で咥えたり、裏筋を舌で丁寧に舐めたりとしてくる亜簾那の姿を見てるだけで、興奮してくるのだがそれを口にすると絶対に殴られると思った五士は言わずに、愛おしげに亜簾那を撫でる。長い紅い髪が煩わしいのか、顔にかかる髪を耳に掛けながら、口で愛撫する。
「なぁ、亜簾那」
「んぐ?」
「胸、使ってくれよ。俺、それ好きなんだよなぁ」
 またか、といわんばかりにじっと、亜簾那が睨みつけてくるが五士はめげることなく、笑って見せた。仕方ないな、と亜簾那は小さく口にして、胸を自分の手で寄せると、五士のそれを挟み込んだ。胸を動かして、上下に抜くと、五士が苦悶の表情を浮かべて、くっ、と息をのんだ。それを見上げながら、亜簾那は少し胸から出ている先端を口に含む。
「ちょ、亜簾那、それ、やばいって、っ、く、出る…っ」
「んぐ」
 手で頭を抑えられて無理矢理奥まで咥えさせられ、口の中に射精される。少し続いた射精を最後まで、待って口を離す。舌の上に乗った、強い匂いと、苦みのそれを少し転がして、ごくり、と喉を鳴らして、飲み込んだ。飲んだよ、といわんばかりに口を開けて、五士に見せると少し、困ったように五士が笑った。
 ――飲まなくていいんだぞ?といいながら、五士がゆっくりと、膝をついて亜簾那の足を開く。それにあえて返事はせず、亜簾那は五士へ腕を伸ばす。ぎゅ、と抱き着くのとほぼ同時か、それとも少し早かったか、五士のそれが亜簾那の膣へ入ってきた。濡れたそこへ侵入してくるのは容易だったのか、すぐに奥まで入ってくる。
「はは、今日は全部入ったな」
「……くっ、ああっ、んっ」
 腰を動かして、ぐりぐりと奥を刺激する。こつこつ、と一番奥に先端が当たっている感覚がする。そのたびに、膣が痙攣でもするかのように、震えて五士を締め付ける。抱きしめている亜簾那は唇を噛みしめ、声をこらえるようにして、息を荒くしている。
「ふー…っ、ふー……んぐ、っ」
「あー……あんまり、噛むと、血、出るぞ?」
 唇に触れるだけのキスをして、舌でなぞると、案外あっさりと口開けた。そのまま、キスをする。舌を擦り合わせ、深く、深く。亜簾那の体を持ち上げて、膝の上にあげる。少しずつ、亜簾那の腰が動き出す。それに合わせるようにして、律動を始める頃には自然と唇離れ、亜簾那は五士の体に縋り付くように抱きしめていた。五士も腕を回して、強く抱きしめる。
 意外と細くて柔らくて亜簾那の体は心地がいい。腰を打ち付ける度、亜簾那から普段ではありえないような嬌声が高く上がって、五士の耳を刺激する。絶頂が近くなると、やっぱり亜簾那は、五士の名前を何度も、何度も呼ぶ。
「亜簾那」
「典人ぉ…っ、典人っ、あ、ああっ、ひんっ」
「あいし、」
 言いかけて、亜簾那の手が五士の口をふさいだ。快楽に落ちた顔で、何度も首を横に振る。それだけは言うな、決して、と、涙のたまった瞳で五士を見つめて訴えてくる。頑なに愛の言葉を避ける亜簾那のことを五士もよくわかっている。左目だけ金に変わった亜簾那の顔をじっと見つめて、悪い、と呟いた。
 抱きしめなおすと、亜簾那の足が五士の腰に強く絡みついてくる。何度も何度も、奥まで腰を打ち付けて、二人は絶頂を迎えた。痙攣するように震える亜簾那の膣から、それを引き抜いて腹に白濁を吐き出した。手で数度擦って、全て吐き出すようにする。ぐったりとしたようにしている亜簾那はその光景を眺めてながら、ああ、シャワーながしっぱでよかった、と頭の隅で考えていた。



 んっ、と亜簾那は湯船の中で腕を伸ばす。そのままゆっくりと倒れこむと、五士の胸板にあたった。後ろを向くように見上げると、五士がこちらを愛おしげに見ていた。五士の手が亜簾那の足をゆっくりと、ゆっくりと、愛おしむ様に撫でる。
「ベッドでもするだろ?」
「まさか、今日はもう寝る」
「つれねえなぁ……」
 そういいつつ、腹に回ってくる腕を拒絶することなく、亜簾那はゆっくりと目を閉じた。

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