マント


 吸血鬼との戦いは、いつだって熾烈だ。ましてや、仲間を守りながら、自分を守りながら、人間を守りながら等、普通に考えてけがをしなかったら御の字だろう。けがをするのがあたり前。しななかっただけマシ、と亜簾那は自身の姿を鑑みて思った。
 鬼呪装備――炎呪丸のおかげで、傷に関してはほとんど直ってきている。問題はないだろう。失血も少なかったおかげで、めまいとかもない。ただ、服は重傷だった。
「あ、亜簾那さん…!大丈夫ですか!?」
 花依小百合が、亜簾那のせなから話しかけてくる。それにふり返りながらも、亜簾那は派手に破れてしまった軍服の胸元を抑えながら苦笑して見せた。恐らく、彼女の大丈夫ですかはけがの方ではなく、服の方だ。亜簾那は今、普通に立っているわけだし、けがの心配はするだけ無駄だ。「平気だよ」と笑って見せて、亜簾那は一つため息をついた。さゆりが心配そうな顔を向けてくるのがみえたが、あえて何も言わずにすたすたと歩き出した。
 女性として、この格好はいかがなものかとも思ったが、まあ仕方ない。亜簾那は軍支給のマントはもち歩かない主義だった(あれは戦闘中に邪魔で邪魔で仕方ないし、なげすてた後で回収するのはなおの事面倒だった)胸元を抑えて帰れば、もんだいだろう。と亜簾那は考えていた。
「亜簾那!そっちは大丈夫だったか!?」
 ――ききなれた声がきこえてくるまでは。五士だった。あちらはあちらで、ヨハネの四騎士と交戦中だったはずだが、どうやらおわったらしく、かけよってくる。亜簾那の服装を一瞥して、五士はめを見開いた。
「ちょっ、お前、大丈夫なのか!?」
「もう、怪我はふさがってる」
「いや、そうじゃなくて、服だっての!!」
 視線が、全て敗れている胸元にむいているのがよくわかる。本当にわかりやすい男だな、と思うのと同時にどうしてこんな男を好きになったかな、と後悔の念すらうかんできた。大したことない、といいかけたところで、ふわりと肩に何かかけられた。
「それ、きてろ。前閉じてれば、少し違うだろ」
 少し、硬い素材のそれから、五士の香りがする。五士が普段から愛用しているマントだった。曝け出された肌に感じる暖かさに、つい頬が熱くなるのを感じるが、あえて何事もなかったかのように振舞って、亜簾那は顔を逸らした。
「……別に、いらない」
「俺が嫌なんだっての。お前、それ、警備隊にもみられるんだぞ?絶対嫌だからな」
 そういって、五士は亜簾那の隣に立った。マントのない五士はどことなく違和感を感じてしまうのは、普段から彼がこれを使っている姿ばかりみているからだろう。どことなく、五士の顔がみづらくて、亜簾那はマントを胸元によせて、顔を背けた。
「……ありがとう」
 きこえるか、きこえないか、ぎりぎりの大きさでいったつもりだったのだが、どうやら五士にはきこえていたらしい。その大きな手で頭を撫でられた。顔を上げれば、安堵したように笑う五士の顔が見えて、ちょっとなきそうになった。

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