散り際に、え上がる紅葉


 いつからか、紅葉の体調が三日に一度程度、崩すようになっていった。使えない、と断ずる者もいたが、暮人はあえて、紅葉を自分の従者から外そうとはしなかった。三日に一度、体調に崩すといっても、それでも紅葉の鬼呪装備を持たせた時の実力は群を抜いて高かったし、何より、体調不良であろうとも自分のために剣を振るうと暮人は知っていた。
 その、紅葉は今、たくさんの呪術具につながれて眠りについていた。

「起きろ」
 暮人がそういっても、紅葉は目覚めない。眠っているだけだ。死んでいるわけではないのに、妙な焦燥感が、じりじりと、焼けつくようにこみあげてくる感覚が妙に苛立たしかった。
 早く、早く、と急かしても紅葉はじっと、そのベッドで横たわっているだけだ。昨日、急に体調を崩して、倒れこんだのを目撃したのは暮人ではなく、暮人が監視をさせていたグレンだった。医者からはもうすでに危険なレベルにまで来ているといわれた。もう、戦いから遠ざけさせるべきだともいわれた。それでも、紅葉を戦線から離れさせる気が、暮人にはどうしてもわかなかった。
「……俺を、非情だと、いうか。紅葉」
 問いかけたところで答えない。紅葉の翡翠の瞳は、硬く閉じられ、瞼で覆われている。真っ白な肌が青白く見える。手袋越しになぞってみるが、ぴくりとも反応を示さない。起きろ、起きろ。願ったところで、紅葉は後、二日は眠ったままのはずだった。鬼呪で強制的に生命力を跳ね上げさせたところで、もう紅葉の体は治らない。治すことのできない、決定的な欠損を紅葉は抱えてしまった。
 そうなってまでなお、暮人は紅葉を戦わせるだろう。恐らく、グレンが聞いたら、いい顔はしないな、とあのどこまでも甘い、グレンの顔を思い浮かべて、自嘲した。ああ、そういえば、こんな質問をされた。――いつまで、戦えばこいつは休めるんだ、と。恐らく、死ぬその瞬間まで、それは訪れないはずだ。死して、漸く紅葉は、右京家の呪われた籠から出ることができるはずだ。
 ――救うつもり、か?俺が?
 そこまで考えて、はっ、と笑うと暮人は紅葉から背を向ける。

 恐らく、俺が紅葉を戦わせるのは、その名前だからだ。


「紅葉は、散り際が一番美しい、からな」

ALICE+