小さなのプリエール


 ――恐らく、あの時、初めて見た"海"の輝きを私は一生忘れないのだろう。



「ママは、本当に海が好きだね」

 プラターヌ主催のポケモンサマーキャンプの会場は、毎度海に面したコテージ群で行われている。夜、夕食も終わって、子供たちはそれぞれのコテージへと戻り、明日へ備えて、そろそろ眠りにつくだろうかという時間。たくさんの星が、空高くきらめく中、アスナはぼんやりと海を見つめていた。
 昼間に眺める海も好きだ。太陽の光を浴びて、まるでたくさんの光の粒が散らばっているかのような海は美しい。だが、昼間は子供たちのアトラクションに付き合っているせいか、あまりそういった時間が取れず、夜の星明りの下での海を眺めることにした。
「そう?……確かに好きだけれども」
 アスナは緑と青の瞳で、星の光で煌めく海を眺めながら、首を傾げた。コテージの木の手すりに手を掛けて、身を乗り出さないようにしながら、隣から肩へと回ってくる腕を拒まずに、頭を預けた。
「海は、初めて見た、世界だったから、かな」
 ぽつりと、呟くとプラターヌの視線が、自分に下りてきたのがわかった。

「貴方が子供の頃に、私をあの森から連れ出して、初めて見せてくれた場所が海だったから」

 アスナは顔を上げて、プラターヌの美しい空色の瞳を見つめる。
 あの、暗い、聖域の中、人から離れて独りになっていたアスナを見つけてくれたのは、在りし日の少年のプラターヌだった。偶然迷い込んだ少年はアスナを見つけて、初めての友達となり、初めてアスナが人といて、心地よいと思った少年だった。
 それまでは、自らの力に恐れ戦く者ばかりで、言葉と心の差にいつも、心が重くなり、人を見るのすら嫌になる様な世界だったのに。彼が連れ出してくれた、海はとても綺麗だった。神域が一番美しいと、思っていたのに、その世界はあまりにも強烈な美しさと、光を纏っていて。
「外に出てみたい、って思ったきっかけなの」
 ――だから、好き。
 抱かれるぬくもりを感じながら、アスナは目を閉じる。



「君、一人なの?」



 あの時、あの少年が手を差し伸べてくれなければ、恐らく。
 この世界を私は知らなかったのだ。

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