カキとクレハとサトシの配達
「アローラ、リザードン」
今日も元気だな、とボールから出したリザードンの首辺りをなでると彼はうっとりと目を細めて一鳴きした。声を聴き、肌に触れ、元気であることを再確認すると、カキはリザードンにライド用の器具を付けていく。カキはこれから配達の仕事に出かけてゆく。その為には遠くまで飛んでくれるリザードンの力が必要なのだ。
さて、と準備を終えて、カキはまだ来ていない幼馴染の姿を思い浮かべた。いつもなら、そろそろ顔を見せに来るころだ、と考えたところで少し遠くから走る足音が聞こえてきた。がう、と鳴き声が聞こえてきて、先に掛けてきたのはガーディだ。カキを見つけると一度立ち止まって、数度がう、と鳴いてカキの足元をじゃれつくように走り回った。
「はっ……早すぎ……」
それから少し遅れるようにしてガーディのトレーナー――クレハが息を切らせて走ってきた。ガーディが走るのに合わせて走ってきたのだろう、カキの元に来て、手を前に出してちょっと待って、という合図を出す。大きく肩を上下させて、深呼吸すると落ち着いたのか、笑った。
「アローラ、カキ」
「アローラ。今日も時間通りだな」
偉い偉い、と頭をなでると、クレハは少しむっとした。ぷく、と両頬を膨らませたので、カキは面白がって両手で空気を入れたそこを押しつぶすように力を入れて、クレハの顔を挟んだ。ぷぅ、と息が抜けると、クレハが疎ましそうにカキを見上げてくる。
「んな、顔するなよ」
「だって、カキが」
そうやって遊ぶから、とクレハは無表情を険しくして、視線でカキを見上げて訴える。悪かったよ、とカキはクレハから手を離すと、代わりにヘルメットをクレハの頭の上にかぶせた。
「よし、今日も行くか」
「うん!」
カキ、クレハに怪我させるんじゃないよ、という母の声が後ろから聞こえてくる。クレハはあわてて振り返ると、アローラ!と笑顔であいさつした。人見知りなクレハがこうして笑顔であいさつできるのも中々いない。
「アローラ。ほら、朝ごはん持って行きな」
「あっ、ありがとうございます!」
「お袋、ありがとう」
クレハのショルダーバックの中にお弁当を預ける。隣でカキの父であるシブが気を付けてね、と言ってくれた。クレハは大きくうなづいた。
「クレハおねーちゃんっ!」
「わっ、ホシちゃん」
足元に急に来た衝撃によろめいたクレハをカキが抑える。危ないだろ、ホシ、と声を掛けるがえへへーと笑うホシにクレハは苦笑しながらアローラと言った。するとホシはちょいちょい、とクレハのワンピースの裾を引っ張りクレハに屈むように合図する。それに首をかしげながら、耳元を近づけると、ホシがささやいた。
「頑張ってね、おねーちゃん」
「なっ、えっ!?」
にこー、と笑うホシに反論も出来ないまま、どうやらリザードンにミルクなどの乳製品が積み終わったみたいで行くぞ、と肩を叩かれた。さっさとリザードンの背中にまたがってしまうカキにガーディをボールに戻してクレハは追いかける。
「いってきます!」
「いってらっしゃい!」
掴まってろよ、と言われてクレハはカキの腰にしっかりと手を回す。一人乗り用のリザードンに乗せてもらうのは忍びないが、高所恐怖症の自分が父親の手伝いをするためにはこれしかないのだ。リザードンが高く高く飛び立って、一気に風が通り抜ける。朝のアローラ地方の心地よい空気が肌を撫でてクレハはようやく目を開けた。
「気持ちいいよな」
カキが目を開けたクレハに笑いかける。――うん、好きだよ。と口には出せず、返事の代わりにカキの腰に強く抱きついた。毎朝、こうして連れて行ってくれることが嬉しい。怖いから、と逃げ腰になりがちな自分をいつも連れ出してくれるのはカキだ。カキが好きだって気付いたのは何時だっけ――もう、思い出せない。
「怖いか?」
腕に力が入ってしまったから心配になったらしい。カキが少し心配そうに聞いてくる。ううん、と首を横に振る。――カキがいるから大丈夫だよ、と言えば、少し照れくさそうにカキが笑った。
「そうだな。オレが付いててやるよ」
だから、あんまり遠くに行くなよ。と続いた言葉は風に吹かれて、クレハの耳には入らなかった。