マワリ


「ねぇ、若ちゃんってヒマワリの花言葉知ってる?」

 とある部活がオフの下校時間。花屋の前を通りかかったアスナが、牛島に話しかけた。話題が脈絡のないところに飛ぶのはいつもの事だったし、偶然にもその花屋の表には満開のヒマワリの花が飾られている。話題としては別段おかしくもないチョイスだった。そもそも一緒に下校していて、話題を振るのはいつもアスナだったし、牛島は滅多なことでは返事はしないし(バレーの事じゃないと基本的にアスナは返事を期待せず、一方的に話しかける)、アスナがこうして牛島に質問形式の話題を振ってくることもない。
 牛島は珍しいな、とわずか10pの差しかない(牛島の身長はすでに190になろうとしているが、アスナは179pで、後2oも伸びれば、180pだ)アスナを見下ろして、首を横に振った。
「だよね、興味なさそう」
「知ってるだろう、そういったことには疎い」
「……疎いというか、知る必要がなかった、というか。うん、だよね。知らないよね。知らなくてよかった」
 まるで、独り言のようにつぶやきながら、アスナは花屋の方へ向かっていく。どうやら、家に飾る花はヒマワリに決まったらしい。花屋の店員と話しながら、ヒマワリを大量に包んでもらっていた。
「それで、花言葉は何なんだ」
「え?教えないよ?」
 けろっと、平然と返すアスナに、牛島は訝し気に目を細めた。牛島のその顔は怖い、部類に入るのだが、アスナはまるで気にせず、にこりと笑った。
「気になるなら、調べてみればいいと思うよ。何でも俺頼るの、よくないなー、若ちゃん」
 ニコニコと笑いながら、ヒマワリの花に顔を近づける。うん、太陽の匂いがする。と嬉しそうに笑うアスナの足取りはいつもよりも軽い。今日は帰ったら、これを生けるね、と笑うアスナの笑顔は日差しに照らされ、眩しく見えた。
 ――確かに、ヒマワリの花がよく似合う気がした。


「え、ヒマワリの花言葉?」
 いつも通り、アスナの家のリビングでくつろいでいると、アスナの妹の翠が帰ってきた。いつも通りで部活で遅くなった彼女はいつも通りに牛島を発見すると一瞬顔を顰めて、そして食卓についた。テーブルにはアスナの手作りの料理が並べられている。(すでに牛島とアスナは食べてしまっている)
「ああ、知っているか」
「どうしたの、突然って……ああ、これ?」
 翠は食卓に並べられているヒマワリのいけられた花瓶を見て納得したように、食事を口に放り込んだ。ちなみに本日の食事は鳥肉のトマト煮とミニハンバーグと野菜スープ、山盛りの海藻サラダだ。スープを一口飲んで、ふー、暖かい、と翠は頬を緩めた。
「知りたい?」
「あそこまで、煽られると興味が出てきた」
 ソファから、ダイニングテーブルに移る。対面に座ると、アスナが置いていった紅茶へ手を伸ばす。
「ふぅん。知って後悔とかしないでよー?」
「しない」
「うん、即答具合も相変わらずで安心するわ」
 翠は鳥肉を頬張りながら、笑う。なんだかんだといって仲が悪くないのは、牛島が毎日のようにこの家に出没しているからだろう。ちなみにアスナは今、レコードを探している。年代物の蓄音機に掛けて、音楽を流そうとしているらしい。今日はジャズの気分、といっていたからしばらくかかるだろう。
「ヒマワリの花言葉はねぇ、"私は貴方だけを見つめています"だよ」
「……?」
「ヒマワリってさ、太陽の方向しか向かないでしょ?」
「ああ。そうだな」
「そこが所以でつけられた花言葉。太陽=貴方で、それだけを見てますよーって事。だから、私は貴方だけを見つめていますになるの」
 素敵だよね、僕結構好きだよ。と、翠はパクパクと食事を食べ進めながら、空いている手でヒマワリの花を撫でた。黄色い、強い花はどうにもアスナのイメージにはそぐわなくて。
「……白いバラ、の方が似合う気がする」
「ん?」
「僕の主観だけどね?ねーねには、白いバラの方が似合うっていったの」
「赤ではなく、か?」
「うん。白い薔薇の花言葉は――」


 しばらくして、アスナがレコードを抱えて帰ってきた。すっかりご飯も食べ終わっていた翠はデザートと称して、冷蔵庫に入れてあったプリンやシュークリームを手に取って食べてる。(もちろん、アスナの手作りだ)
「ただいま〜、あ、翠ちゃんおかえり〜」
「ただいま。ご飯ご馳走様〜」
「おいしかった?」
「うん」
 アスナは蓄音機にレコードを掛けて、牛島が腰かけているソファに腰かけた。当たり前のように隣に座ってくるアスナをちらりと見て、牛島は再び本へ視線を落とした。レコードから流れてくる音楽に耳を傾けるかのように、アスナは目を閉じていた。
「アスナ」
「なぁに?」
「……お前は、ヒマワリよりも白い薔薇の方が似合う」
「?どうしたの?突然」


「"お前は俺にふさわしい"」


 ――白い薔薇の花言葉はねぇ、"私は貴方にふさわしい"だよ。


「……っ、わ、若ちゃん」
「それくらい、自信を持ってもらわなければ白鳥沢のマネージャーは務まらない」
「あ、で、ですよね」
 一瞬でも期待した俺がバカだった、とアスナは笑顔をひきつらせた。
 うん、でも。

「俺は、若ちゃんにふさわしいんだ、ね」

 そういってもらえたことがうれしかった。
 ――いつだって、私は貴方を見つめています。

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