その髪は奇しくも美しく
学校に行く日は、アスナは基本的に髪を結っていることが多い。恐らくは煩わしいと言う理由が大半であろうし、バレーをする際の視界の妨げになるどころか、跳ね上がる髪が他者に与える影響を考えて結いあげていることが多い。結い上げても、なおも余っていることの多いアスナのその雪のように白い髪は、休日ともなれば結いあげられることなく、彼女に動きに合わせて、さらさらと絹糸のように流れていた。
「伸びたな」
「そう?」
台所に立つその背中は既に髪の毛で隠れてしまっている。真っ白な髪がさらさらと揺れるたびに、まるで粉雪でも降っているような錯覚を感じる。部屋の中に入って来る明かりを受けて、キラキラと輝くそれをついつい、リビングのソファから眺める。
アスナは気を悪くした様子もなさげに、料理を続けていた。今日は白鳥沢は休日だが、妹の翠が通う烏野は休みではない。家の中には二人きりであり、アスナは今、昼食の支度をしている所だった。
「アスナ、午後から出かけるか」
「え?どうしたの急に」
驚いた顔をこちらに向けるために振り返った時、髪がふわりと浮いた。そして、また元の場所へと戻って行く様はいつみても美しかった。学校では髪を結っている時間が長い。だから、こうして、地につくほど長いアスナの髪を、自分しか知らないのだと思うと、少しばかり優越感が出てくる。
後ろから抱きしめると、アスナが照れたように笑った。
「美術館に行きたいと言っていただろう」
「言ったけど……どうしよう、髪、縛るの間に合わないよ?」
「別にかまわん。それでも」
「……もう。それに、出掛けるなら着替えもしたいし」
「着替える必要がどこにある?」
白いロングワンピースは外出用にしても少しも違和感はない。むしろ、清楚で好ましいとすら牛島は思っているのだが、アスナは外出するのならもう少し服に気を使いたいのだという。本来、あまり興味がないアスナではあるが、さすがに好きな人間の隣に立つのだから、それにふさわしくありたいと思っているようだ。
「俺は今のお前が良い」
「……もう、ずるい」
じゃあ、ご飯食べたら出かけよう?とアスナは腕の中で笑った。
恐らく誰もが振り返るのだろう。
まるで雪のように白く美しい髪が、日の光を浴びて輝く様に。それを隣に連れて歩けることが、誇らしく思えて牛島はアスナの髪にキスを落した。