夏、繋いだ、蝉の声


 暑いね、とアスナが言いながら冷たく冷えたスポーツドリンクを差し出してきた。
「ジャージ脱いだら〜」
 とアスナの後ろから天童が間の抜けた声で話しかけてくるが、アスナは困ったように笑いながら、脱いだら火傷しちゃうでしょーといった。先天性白皮症のアスナは日差しを浴びられない。体育館の中でも、暑くてもジャージをずっと着ているのはそのせいだろう。汗が滲んでいるアスナの肌は異常なほどに白く、時折不安になる。
「今日は練習終わったら、一緒に帰ろうね」
 今日は、じゃなくて、今日もだろう、といえば、そうだね、とアスナは笑った。



 夜になれば日差しは和らいで、練習が終わる頃、すでにとっぷりと更けた来た空は既に暗かった。
「んー、やっぱりまだまだ蒸し暑いね」
 朝とは違って日傘を必要としない時間帯になってきてアスナは上機嫌に傘を振り回しながら、くるんと回った。
 「んじゃねー」と先ほど他の部員たちと別れた道は既に二人きりだ。8時を回ったこの時間、すでに静かである。
「ね、若ちゃん」
 少し先を上機嫌に歩いていたアスナがくるりと振り返って、笑った。
「手、繋いでもいい?」
 差し出された手は真っ白だ。
「今更だな」
 そういって、つないだ手は白い指先とは違って少し熱い、と思った。
 蝉の声、というよりはすでにヒグラシやコオロギの声に近くなってきている自分だが、アスナは上機嫌に傘を振りながら、牛島の手を握って歩いている。月がぽっかりと浮かび、夏の星々に見守られて楽しそうだ。
「えへへ」
「……楽しそうだな」
「うん」
 楽しいよ、と笑うアスナは牛島の手を握る力を少しだけ強めた。細い、指だ。
「今日はね、風雅に下ごしらえ頼んできちゃった」
「最近は練習も遅い、仕方がない」
「ありがと」
 アスナは少し照れくさそうにしながら微笑んだ。普段入る曲がり角に差し掛かるが、牛島はつないだままのアスナの手を引っ張った。きょとん、と赤い瞳を丸くしたアスナが牛島を見つめる。
「少し、遠回りするぞ」
「え?」
 牛島に引っ張られるままにアスナは歩き出した。繋いだ手が熱い。
「帰っても、一緒にいられるよ?」
「……今、もう少し一緒にいたいと思っただけだ」
 少し先を行く牛島の顔はアスナには見えない。
 ただ、握った手に少しばかり感じる汗。嫌じゃないけれど、珍しいな、と思う。照れてくれてるのかな、と思うと笑みがこぼれてきた。
「若ちゃん」
「何だ?」
「大好きだよ」
「知ってる」
 繋いだ手は、いつの間にか腕を組む行為に変わっていて。
 月の下、いつもよりも寄り道して、家に帰った。

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