気高きその命を、美しき花に変えて
初めてこの世界に降り立った時目の前にいたのは女性だった。
「初めまして、太郎太刀」
その人は柔らかく微笑むと、そっとその白く細い手を差し出してきた。何がしたのかよくわからずに首を傾げているとああ、と気づいて私の手を取り、柔らかく握り返してきた。
「これからよろしくね」
その時、私は恐らく、その人を守りたい、と思ったのだ。
私の主は纏足をされている。狂信者たちに祭り上げられたが故にその命は永遠とこの世界の神とやらに捧げられ、自らの生死ですら自分で決めることのできない主は何よりもこの世界に縛られている存在なのだろう。でも、あの人は世界を悲観したことなどなかったのだ。いつでも笑っていた。
「ああ、太郎」
歩くこともままならないその足を必死に動かして、主はこの庭へ来る。ご神木である桜のあるこの庭へ。狂い咲きのそれの花が散り切った様子は、ここに一番長くいる太郎太刀ですら見たことがなく、どの季節でもこの桜は主の力によって咲き誇っていた。不変であることなどつまらないけれど、この桜はいつ見ても美しいね、と主が笑っていたことを思い出す。
「お体に触ります。お部屋へ」
「今日は体調がいいのだよ。心配ならば、お前が傍にいてくれればいい」
初めて会った日から、彼女は多くの刀をこの世界に降ろした。この本丸はとても大きくなった。二人しかいなかったこの世界は今や、たくさんの刀に囲まれた場所になった。その過程で彼女は何人も弟子を取った。まだ、その一人がここに残って鍛刀の訓練をいまだに積んでいる。主の望んだ世界はここにあるのだ。
主に促されるまま、縁側に腰かければ主は私の膝に寝ころんできた。黒から白へ変わっていくその髪が縁側に広がって美しいと思った。赤い瞳が私を見上げて嬉しそうに、愛おしそうに細められて、心が温かくなった。――主には色々な事を、教えてもらってばかりだ。
「太郎」
「はい」
「少し、眠ってもいいかな」
「……私の膝でよければ」
部屋に戻れ、などとは言わなかった。それが主の望みなのならば、それでいいと思ったのだ。差し出された白い手を優しく、壊さないように握ると主が嬉しそうに笑った。この人から笑みが絶えないようにと、私は願うばかりだ。
この本丸が出陣する機会は少なくなってきている。新たな審神者が増え、主の役割は時代とともに終わりを告げようとしている。それでもいい。何事もなく主がただこの桜を楽しめるようになるのならばそれでいい。私は主の髪を優しく撫でる。
舞い散る淡い桃色が、主の髪を美しく彩る。