とろけるような甘さ


「ったく……寝落ちするなんて」
 悟浄が抱えた小さな体の少女――年齢はすでに成人を超えているれっきとした大人だが――はすやすやと寝息を立てている。旅をしているこの一団の中では唯一の女性である紅葉には宿でもできるだけ一人部屋が当たるように八戒が手配している。眠っている紅葉の服の懐に手を突っ込むと後に誰かに言われそうなものだが、今は誰も見ているわけではないのでいいことにする。鍵を器用に取り出して、部屋を開ける。荷物が少し置かれただけの部屋は何も触られていないのか、ものは微塵も動いていない。
「……このまま寝せていいもんかね」
 悟浄は法衣を着たままの紅葉をとりあえずはベッドへ寝せた。小さな体の紅葉では、大人一人がゆったりと眠れるベッドは大きすぎるような印象を受ける。彼女は着慣れているから窮屈には感じないと言っていたが、流石に眠っているときまでこれでは寝心地が悪かろう、と悟浄は法衣に手を伸ばした。帯を緩めて、法衣をはだけると黒いインナーが見えた。普段は鉄壁のように、頑なに肌を晒すことを拒む故か肌は日に焼けることもなく真っ白で、黒いインナーとのコントラストがやけに目につく。
「――……へぇ」
 ひゅう、と悟浄は口笛を吹いた。恋仲になってから紅葉の義兄にも等しい三蔵の監視の目が厳しくて、手をつなぐ、良くてキスをするなんてレベルしかしてない。悟浄からすれば清い付き合いをしているものだ。まあ、初めて本気になれた女に無体を働くつもりもなく、ただ恋愛ごとにすら慣れてない紅葉にペースを合わせるとどうしてもそうなるわけなのだが。
「ったく、無防備すぎんだろ」
 もうちょっと警戒しろよ、と鼻をつまむと、少し息苦しそうな顔をして顔をしかめる紅葉がうっすらと目を開けた。ぱちぱち、と少し目を瞬かせた紅葉はしばし覚醒状態には乏しい状態だったが、自分を見つめてくる真紅の瞳と漸く目があって、ぼんやりと悟浄……?と呟いた。
「……おれ、」
「悟空たちと遊んでて寝落ちたの覚えてるか?」
「……ん」
 差し出された手に頬で擦り寄って目を閉じた。暖かい、と呟く紅葉にそりゃ、よかった、と額にキスをすればくすぐったそうに身を捩らせた。悟浄の手を自分の手でつかむと心地よさげにまたまどろみの中へ入ろうとしているではないか。どうやら、今日は本当に眠たいらしい。
「……ごじょ…………」
「んー?」
 眠たいのだろう紅葉の手は暖かい。
「……だ、い……すき」
 それだけいうと紅葉は満足げに眠った。悟浄はしばし固まって紅葉を眺めた後、あー、と所在なさ気な声を出して、空いている片手で口元を覆った。にやけそうで、頬が熱くて、誰かが見ているわけでもないのに隠さずには居られなかった。
「どーすんだよ……ったく」
 手、離す気ねぇんじゃねえか。
 呟いた言葉は満足そうに、眠る紅葉には届かない。

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