第零話

穏やかな風が吹き抜ける月夜。
付近をうろうろする乱れた霊圧に笑みをこぼす。
「随分と信仰されていること」
「信仰かい」
「そう、信仰。まるで貴方が神であるかのように」
「ふふ、それは強ち間違っていないよ」
楽しそうに笑う彼...藍染惣右介を一瞥し、戸に手をかけると机におとしていた視線をこちらに遣り、「あまり虐めてやるなよ」と言う。
可愛がっているの間違いだ。
視界の端で眼鏡をつけたのを確認し、なるべく自然な反応を心がける。
「わっ、雛森副隊長。こんばんは」
「…こんばんは」
何故貴女がここにいるの、と少なからず嫉妬を含んだ表情に小さく笑った。
性格上人を悪く言うのが苦手なのだろう。
聞きたいのに聞けない、そんな葛藤が垣間見得る彼女に道を開ける。
「私の用事は終わりましたので」
「藍染隊長と…何を、していたの?」
「さあ、何だと思いますか?」
瞳が潤む、背後からの視線が痛い。
「冗談ですよ。少々本日の業務についてお話を」
部屋の中から彼女の名が呼ばれ、途端に伸びた背中に手を添え誘導するが既に頭の中から私の存在は消されていた。
まるで自分から歩んだかのように、助力も羞恥心も忘れた乙女は夢へ堕ちる。

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