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信じられない。これで何度目だ!って元気に突っ込んでないととてもじゃないけどやってられない。
だからこれで何度目だー!!ってら叫びながら廊下を走る。なんか声に出してないと、涙がこぼれてしまいそうで、こんな自分が情けない。
私の彼氏は最近もはや彼氏ではなくなってきている。
最後に2人きりで話したのはいつだっけ?付き合ってまだ一年も経ってないけど、男の愛情ってこんなもん?
(私に飽きたんなら、しっかりきっぱり振ってくれればいいのに、)
そしたら楽なのに。
私の彼氏は悪い男だ。付き合って一年も経たない彼女がいながら、今日で浮気が発覚したのはなんと3回目。
3回?どういうこと?そんなに浮気ってできるもんなの?
私にも何が起こっているのかイマイチ理解できない。彼氏は浮気が発覚すると、毎回毎回、私のことを好きだとか、1番だとか、嫉妬してほしかったとか、泣きながら別れたくない!と主張してくる。一応一年弱前には心から好きだった男だから、今まではその言葉を信じて(というかほぼ騙されて)許してきたけど…3回はもう絶対に許せない!
今回の私は一味違う。憎しみ100パーセントだ。もう絶対に絶対に振ってやる。今はもう予鈴が鳴ってしまって教室に戻らなきゃいけないけど、昼休みが終わって、そのあとの授業も全部終わって、放課後になったら。待ってろよ…!
憎しみ100パーセントのはずなのに、絶対に別れると決めた途端、今までの、彼氏との楽しくて幸せだった記憶が一気にぶわあっと、走馬灯のように私の脳内を巡る。やめて、なんで、わたし、こんな、女々しいの。
自分の教室に着いた時にはもう涙で顔がぐしょぐしょだった。泣かないって誓ったのに…みんなに見られてしまう…とパニック状態な頭でなんとか冷静に思考を巡らせ、どういう言い訳をしようか考えていたら
あれ?
私のクラスには、なんと私の前の席の男子1人しかいない。
あれ?なんで?
よくわかんないけどとりあえず涙をごしごし拭いながら自分の席に座る。窓側の、1番後ろ。
すると私の前の席の人が、突然振り返って私の席に腕を置く形で頬杖をついた。
「やっと振られた?」
すごく近距離で顔を見合わせる体制。
近…い、けど、まあ、綺麗に整っているから、どんなにむかついても顔面を殴ったりなんかはしない。しかしこんなに顔が整っていても、この口からはとんでもない言葉が次々と紡がれるもので。 まあ、もう慣れっこだけど。
…それにしたって、
せまい。
「笹山…」
そう笹山、笹山兵太夫。
けっこう恵まれた顔立ちをしているくせに、性格がもうなんか本当に一言で言えば終わってる。本当に残念な男である。
口が、悪い。すごーく悪い。
「僕の声聞こえた?振られたの?って」
「…うるさい。いちいち突っかかってこないで。迷惑。」
「やだよ、そんなの僕の自由だろ。」
…前から薄々感じていたんだけど、やっぱり確信に変わりつつあるから言おうと思う。
笹山は、私のことが多分めちゃくちゃ嫌いだ。
笹山がこんなに意地が悪いことを言うのは多分私の知る限り私にだけ。元から口は悪い方だけど、私に対しての口調はいつもズバ抜けている。
笹山って嫌いな人には一切関わらないタイプかと思ってたのに。めちゃめちゃ突っかかってきますやん。
まあ笹山が私のことどう思っていようがどうでもいいけど、本人にそれを言うのは、人としてどうかと思う。
私だって傷つく。ふつうに、傷つく。
私のこときらいなら、
放っておいて、ほしい。
「だってお前、不憫すぎて見てらんないよ。なんで諦めつかないかな。」
グサグサグサ。
笹山の言葉の一つ一つが、今の私には鋭い刃物過ぎる。
「毎回いいように利用されてるだけって、まだわかんないの?」
グサグサ。
「そんなんだから、都合のいい女ってナメられて、浮気ばっかりされるんだろ。」
「こんなに馬鹿だったら、彼氏の方も騙したくなるよね。だって面白いじゃん、こんなバカ。」
「おまえがもっと頑張れば、何か違ったのかもしれないけど。どうせおまえの気持ちもその程度ってことじゃん。」
…
ブチッと、何かが切れる音。
「うる、…さいなあ!」
目の前の笹山の、驚いた顔が見えた。
私もびっくりした。
自分の口から、こんなに低い声が出るなんて。
私は驚いた笹山のことなんて気にしないで、この勢いのまま続ける。
「じゃあどうすればいいの…!がんばるったって、何をどうすれば頑張ったことになるの?全然わかんないよ、そんな偉そうなこと言うんなら笹山が教えてよ!」
あーーあ、言っちゃった、言っちゃった。
そしてチャイムが聞こえてくる。
これは予鈴じゃない、本鈴だ。
もうこの際どうにでもなれと思って、他に言っておきたいことなかったっけ、言うなら今しかないと思って必死に頭を回転させるけど、パンクした頭はもはや使い物になくて、口を魚のようにパクパクさせることしかできない。顔はきっと真っ赤だし、目は潤んでるし、さいあくだ。
そんな私をしばらくなんとも言えない表情で眺めていた笹山が、再び口を開く。
いやだ、もう聞きたくない。
これ以上わたしを、否定しないで。
「だからさ、」
「………あいつなんかやめて、僕にすればいい。」
…え?
笹山、いま、なんて。
笹山が、私の手を握る。
わたしの手を包む大きくしなやかな手は、少し汗ばんでいた。
「…………ね、いま、僕、頑張ってるでしょ?」
た、たしかに、がんばっ……てる。
確かに、これが、「がんばる」ってことかぁとどっかに飛んでいってしまった私の意識がぽつりとつぶやく。
え?とかは?とか、それは面白くない冗談だね、とか
瞬時に何か言えれば良かったんだけど。
すでに笹山のその言葉から絶望的に間があいてしまっていたので、 もう何を言ってもきっと微妙な空気になるだけだろう。
握られた手から伝わる熱で、これが冗談でも夢でもないってことは、さすがの私にもわかった。
でもだからといって何も言うことができない。今のこの気持ちって、なんていう言葉で表すんだろう?適応するもの、この世に存在してるのかな?
「……」
どうやら私の脳みそは本格的に考えることをやめてしまったらしい。私はただただ呆然と笹山の顔を見つめることしかできない。人って驚きすぎると、ほんとにうんともすんとも言えなくなるんだな。
私たち以外誰もいない教室、授業中特有の静けさ、それらに加えてズル休みした時のあの、授業に参加していないことへの罪悪感、カーテンの隙間から注ぎ込む真昼間の日の光。
全てが相まって、なぜだかほんの少し、ほんの少しだけこの絶望的な間も心地よく感じられた。
「…返事は別に、急いでないから」
返事、と聞いて改めてあ、今、私やっぱり告白されてたんだと実感する。
いまだ繋がれたままの手。
よく考えたらなんだか最恐の状況すぎて変な汗がもう止まらない。
まだ一言も発言できていない私に、笹山はどんどん言葉を投げつける。いつものように一方的だけど、いつもとは全く違う、柔らかい言葉たち。
「今まで散々ひどいこと言ってきた自覚はあるから」
「みよじは僕のこと好きか嫌いかでいったら嫌いだと思う」
「でも今のおまえの彼氏より、絶対におまえを幸せにできるよ」
…まぶしい。
なんだか目の前がチカチカしてきた。
嫌われているとずっと思ってた人から、とつぜん手を握られたまままるで王子様が言うような愛の言葉をたくさん浴びさせられている。
浮気されて、告白されてがいっぺんに起こる日なんてあるんだなぁ。
なんだか笹山がいつものあの余裕たっぷりな感じとは全く違って、切羽詰まってる感じが面白くて、やっと冷静になってきた。
そして、ちょっとだけ笹山に興味を持つことができた。自分でもびっくりするくらい単純だけど、この人のこと、今は何にも知らないから。ちょっとだけ、どういう人なのかもっと知りたいと、
思った。
「…わかった」
ようやく言葉を口に出せた。
「よく考える。だからもっと、笹山のこと教えてね」
私の言葉を聞いた笹山は、少し表情が和んだ気がした。
もしかして、それは嬉しい時の表情?
なにそれ、なんか、ずるいなあ
いろんな緊張が解けて、ふわふわと遠くまで散歩していた意識もやっと戻ってきた。
そして急に、先程鳴ったチャイムが頭の中で鳴り響く。
あ!と思わず声が出た。
「授業!」
そんな私を見ていまさら?と突っ込む笹山。
そうだそうだ、授業。そういえばなんで、クラスメイトは誰もいないんだろう。
ぼんやりしていると私の考えていることを察した笹山が
ばか。みんな化学室だよ。と笑った
笹山って笑うと、目尻にちょっとシワができるんだ。
この短時間に色々話して、笹山は多分極度のツンデレっていうやつなのかな、と思ってきた。ツンがとんがりすぎて気付かなかったけど。
まあ返事は急いでないと言ってたし、今までひどいこと言われてきたのは事実だし、どちらかといえば嫌いだったことも事実だし、これからゆっくり一つ一つ笹山の新しい部分を知っていけたらいいなあと今は素直に思っている。
「みよじ」
「はい」
「俺は今までもこれからも、ずっとおまえしか見ないよ。」
トドメの、一発ってところだろうか。
今の彼氏に3回浮気されている私が、今1番欲しい言葉。
いつもは優しくない言葉ばかり投げつけてくるのに、本当に、ずるい。
「……なんで私なんかを好きになったの」
調子のんなって怒られそうだけど、どうしても納得できなかったから聞いてしまった。
「…わかんない。わかんないけど、いつも、気づいたらおまえばっかり見てる。」
それは好きってことだよって、三治郎に言われた。と。
予想してたよりも全然、真面目に答えが返ってくるもんだから驚いてしまった。そして恋する笹山の不器用さにも。…なんだか自分で聞いといてあれだけど、照れてしまった。
「…化学室いこう」
照れ隠しに話を変えてみる。
いや、ていうかそろそろ授業行かないとまずいよね、いろんな意味で変な噂が立つ気がする。
「別に僕はこのままでもいいけど?」
「な…だめだよ!ていうかいつまで手握ってんの!」
「みよじの反応が面白いから」
私の顔が赤いのを見てくすくすと笑う笹山を見て、心臓の動きが早くなったのは、勘違いじゃない、かも、しれない。
やばい、これは…もしかしたら、もしかするかもしれないな…と心のどこかで思ってしまったのは、まだ誰にも言えないひみつ。
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