碧色のきみ



ユーリ・プリセツキーの、演技が、終わった。





気づいたらすごく、苦しくなって、呼吸が荒くなってて、驚いた。


(わたし、演技中、息止めてたんだ…)

思わず息が止まっちゃうくらい、それに気づかないくらい、ユーリの演技は、魅力的で。
最高で、大好きで。

ユーリが滑っている時の彼の想いと、成長が、すごくすごく胸に響いた。



つかれたでしょう。

よく、がんばったね。


私は涙ぐみながら、お客さんと一緒に心からの拍手を送った。

ユーリを見つめると、当たり前だけど、呼吸が荒くて、そして、
泣いていた。


それを見たら、もう、たまらなくなった。

「ユーリ、」


泣かないで、

ねえ、ユーリ

心の中で必死にユーリに話しかけると、大きくて澄んだ碧色の目と視線がぶつかった。
視線が、ぶつかった?


なんで、こっち、見てるのユーリ




「なまえ」

ユーリは私の名前を呼んだ。
離れてるけど、聞こえないけど、口の形ではっきり分かった。

思わず涙が零れた。

我慢できないよ、はやく、はやく戻ってきて。
氷上で泣きながら挨拶をするユーリを見ながら、私はきっと今、世界で1番ドキドキしている。






まず、なんて言おう。
考えてたけど、何も出て来なくて、
結局私は、リンクから帰ってきたユーリを押し倒す勢いで抱きしめた。
でもユーリは倒れなくて
こうなるのが分かってたかのように、ユーリは私を強く抱きしめ返してくれた。




なんなの、あんたプリマになるんじゃないの
こんなに、男らしくていいの


「……ユーリあのね、」

「言うな!」



もがっ

口を塞がれる。な、なんで。くるしい。


じっとユーリを見つめるとじわじわと彼の頬が赤くなっていくのがわかった。


「そういうのは」


顔を赤くしたまま、ユーリは口を開く。




「…俺から、言わせろ」



あのワガママでガキンチョだったはずのユーリから、こんなカッコイイ台詞が出るなんて夢にも思ってなくて、

「…はい」

と言って静かに頷くことしかできない。



「…なまえ」

「はい」




「ここまで、俺を、支えてくれてありがとう」

「…うん」

「……」


そこまで言うと、ユーリは真っ赤な顔で固まる。

し、心臓がもたないから、早く続きを言って…!
ユーリに感謝の言葉を言われたのなんて初めてで、それだけでしんじゃいそうなのに!


「あ〜〜っくそ、」

ユーリはしばらく黙ったままで、それからもどかしそうに自分の頭をワシワシして、バッとこっちを見た。




「…うまく言えねえ」


そう言うとさっきみたいに、いや、さっきよりも強く、抱き締められた。

ええ、えええ、ちょっと、むり、心臓が、



「ゆ、ユーリ…!」

緊張と不安と嬉しさと照れでしにそう。私の顔、これ以上ないくらいに真っ赤になってるんだろうなあ。



「…すきだ」





耳元で、小さな小さな声で囁かれたこの言葉は、たったの3文字だけどわたしがずっと言いたかった言葉で、言われたかった言葉で。
1番愛おしくて大事な人からこの3文字を受け取れるなんて。

もとからもうべそべそに泣いてたけど、この言葉を聞いてさらに涙が止まらなくなってしまった。



「わたしも大好きだよ!」

ぐずぐず鼻を鳴らしながら、大きな声で返す。私なんて昔からもうずっと、ユーリのこと大好きなんだから。

さっきユーリ、私にありがとうって言ったけど、私の方が、たくさんたくさん、ユーリに助けられてたんだよ。ありがとう。


ちゃんとこの想いが届くように、私はユーリの目をまっすぐに見つめた。
ユーリは私に負けないくらい顔を真っ赤にさせてるけど、反らさずちゃんと私を見てくれる。
えへへ、なんか変なの、変な感じ。





カシャ







突然鳴った携帯カメラのシャッター音。

え、な、なに、

私とユーリは、音が鳴った方に急いで振り返る。と、そこには、


「ヴィッ」

「ヴィクトル!」





伝説(レジェンド)がいた。

あたふたする私たちに、ヴィクトルはピクリともせず、いつものふにゃっとした笑顔で微笑む。

「マラヂェッツィ!2人とも、いいね!最高だね!これ、SNSに載せてもいいかい?」

恐らく今撮ったであろう私たちが茹でタコみたいな赤い顔で見つめ合っている写真を向けられる。

ちょっっっ!


「だっだめに決まってんだろー!」

「ヴィ、ヴィクトル!消して!」

私たちはそりゃもう大慌てでヴィクトルに投稿させないように色々説得を試みるが、どれも失敗に終わった。
結局その日のうちにヴィクトルは自分のインスタグラムにその写真を載せ、ユーリと私はそれからしばらくメディアに追われ続けることになったのだ。

なんというSNSおじさんだ…!と本気で困りつつも、彼が撮った私たちの写真は、大好きなユーリの瞳がキラキラ綺麗に映っていて、実は携帯のロック画面にしている、なんて。
誰にも言えない、ひみつの話。




















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ユーリオンアイスが放送されていた当時、最終話でのユリオくんの演技に胸を打たれ、勢いで書き上げたものです。もうアニメ放送開始から2年くらい経つんですね。
yoi好きな方に届くといいなあという思いでothersにて供養させていただきました。



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