純白のウェディングドレスを着た新婦の隣には、愛おしそうに微笑む新郎。彼らの周りを取り囲む人たちまでもが幸せそうな笑顔を浮かべていて、私は静かに涙を流した。それが、感動なのか嫉妬なのか、それとももっと別の感情なのかはわからない。

実現することのない未来を想像するのは、もうやめたはずなのに。


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大きな紙袋と小さなクラッチバッグを持って、タクシーを降りる。ふらつく足は、慣れないヒールとアルコールのせいでもうパンパン。自宅を目前にして突然やってきた疲労に、しっかりと湯船に浸かることを今決めた。

マンションのエレベーターで7階まで上がれば、すぐに見える我が家の表札。未だ変えられないそれに、思わず溜息。今日の結婚式は、正直堪えた。本来なら、私もあんなドレスを着てみんなから祝福されていたはずなのに。まるで腫れ物に触るかのように接する人たちが鬱陶しくて仕方がなかった。


「ただいまー」


そう言って家に入るのは、もう随分前からの癖。返ってくることのない返事は、もう待っていない。それなのに今日はいつもと違っていて。


「あ、おかえり」


短い廊下の先にあるリビングでソファに座りこちらを見ているこの人を、私はよく知っている。知ってはいるんだけど。状況を理解できない私は、とりあえず目を擦った。そしたらマスカラで手が汚れたのだから、きっと目元も黒くなってしまっている。もし現実ならその顔をこの人に見つめられているのだから、最悪だ。こんなタチの悪い夢なら今すぐに覚めてほしいと願う。


「なに突っ立ってんの?」
「いや、その、」
「ふはっ。今の顔、結構ひどいよ。」


馬鹿にしたような笑みに、小さく揺れた肩。うるさいな、わかってるよ。そう思いながらも、一つも言葉にできないのは、まだ彼の存在を疑っているからで。


「あの、」
「なに?」
「おみ、…登坂広臣、ですか」
「もー。なんだよ。ちょっと会わないうちに俺のことなんか忘れちゃった?」


その言葉に首を横に振れば、とれちゃうよってまた笑われて。いつの間にか目の前にいた臣が伸ばした手が、優しく私を引き寄せる。一気に五感が刺激されて目に溜まった水は、辛うじてまだ溢れずにいる。


「なんで、いるの?ここに」
「ん?花子が泣いてんじゃないかなぁって思って」
「…帰ってくるのが遅いんだよ、ばか」


ごめんね、と言って降ってきたキス。頬を伝う温かいものを、確かに温度のある臣の手がそっと拭う。もうなんで帰ってきたとか、もしかしたら夢かもしれないとか、今はこの際どうでもいい。

おかえり、私の愛しい人。


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