私史上最も衝撃を受けたのは、後にも先にも今この瞬間で間違いない。それくらい、衝撃的だったのだ。というか、今もまだ受け入れられていない。だって、私の目の前にいる彼は、幽霊だと言うんだから。


「や、俺もほんとびっくりしたの。でもさ、人間やっぱ強い後悔があると成仏できないもんだね。俺、ずっと此処にいたんだよ?やばくない?」
「ちょ、ちょっと待って。そんなポップに言われても!」


あはは、と笑う臣をじっと見つめる。透けて見えたりなんかしないし、浮いてもいない。なんか、こう、幽霊ってもっと青白い感じじゃないの?顔色はいいし、昨日なんてお風呂にも入ってたし。これほど普通に生活してる幽霊が何処にいる?


「ここにいるよ」
「…青山テルマじゃないんだから」
「ほんと徹底してツッコむよね」
「いや、ツッコミどころがありすぎて追いつかないんですけど」


ラーメンへ行こうと誘えば、いいけど俺食わないよって言われて。どうしてと聞けば、幽霊だからって。それに私以外には臣の姿が見えないらしく、外に連れて行けば一人で喋り続けているように見られる私は、間違いなく変質者だと思われるよって。なんなの、その話。もはや笑える。


「でもさ、なんで急に見えるようになったの?」
「それはねー…、秘密」
「なんでよ!教えてよ!」
「秘密を教えたら俺消えちゃうもん」


サラリと言ってのけた臣の言葉に、固まる私。


「…まあ、当分はいるからさ。そんな顔しないでよ」
「え…?当分って、どういうこと?いつかは消えちゃうってこと?」
「いや、うーん。なんていうか、」
「濁さないで、ハッキリ言ってよ!帰ってきたと思ったのに、…なんで、!」


困った顔をする臣に、近くにあったティシュの箱を投げつけた。そしたら、バンッと高い音が鳴って、確かに臣の体に当たっていることがわかる。こんなの、人間じゃん。間違いなく臣は人間なのに、どうしてまた消えちゃうの?


「花子を、…自由にしにきたんだ」
「…自由、?」
「そう。いつまでもその指輪つけてもらっててもさ、俺は幸せにしてやれないから」


何を言っているんだろう、この男は。私の幸せはこの男がいなければ成り立たないというのに、望んで嵌めているこの指輪を取り上げようと言うのか。苛立ちを感じながらも何も言えなかったのは、彼の涙が見えたから。

泣きたいのはこっちだ、馬鹿野朗。


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