ゆっくりと近付く顔があまりにも綺麗で、目を閉じることを忘れたまま重なった唇。何度もくっついては離れてを繰り返すそれは次第に長くなり、彼の舌が私の口内に浸入すれば、いよいよ逃げることができなくなった。

終わりだ。




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「ちょっとー、俺のパンツどこ?」
「知らないよ。その辺に落ちてんじゃないの?」
「なんで俺のだけないわけー」


もう、と文句を垂れながら、素っ裸でパンツを探すこの男は、先程までの色気をどこに置いてきたのか。その間抜けな姿に思わず笑えば、彼も振り返り笑った。どうやらパンツは無事に見つかったらしい。そりゃあるだろ。


「ねぇ、剛典。喉かわいた」
「水なら冷蔵庫」


重たい腰を上げて言われた通り冷蔵庫を開ければ、何食って生きてんだってくらい何も入っていないから驚いた。きっと外食ばっかしているんだろう。これだから芸能人は。とりあえずミネラルウォーターを取り出してグラスに注げば、横から出てきた手が奪い取る。


「私が飲もうとしてたんだけど」
「うん、ありがとう」
「………」
「怒んないでよー。ちゃんと飲ませてあげるから」


今度は私の手からペットボトルを取って、そのまま口に含む。そしたら顎に手を掛け強制的に上を向かされた私は、言葉通り飲まされた。

口移しなんて初めてのこと。不覚にも照れてしまったのは、見逃してほしい。


「可愛い」
「…うるさい」
「照れてやんの」


揶揄う彼に腹が立ち、首に手を巻いて背伸びをした。少し湿った唇にリップ音を立ててキスすれば、きょとんとした仔犬の顔。可愛いのはお前だ、馬鹿。


「何これ」
「仕返し?」
「…あーあ。火つけたのそっちだからね」
「はっ?ちょ、待って、むりだって!」
「うるさいなぁ、口塞ぐよ?」


抱えられて向かうベッド。うるさくなくたってすぐに口を塞がれるのはわかりきっている。昨夜もしたというのに、元気かこの野郎。そんなことを思いながらもすんなり受け入れてしまう私は、あながち満更でもない。


抜け出せない深みに嵌った。


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