朝は嫌い。眠いし、ダルいし、やっぱり眠いし、それからしんどいし。
今日もいつものようにダラダラと学校までの道を一人歩いていれば、目に入ったのは門前で仁王立ちをしている生活指導の先生。ジロジロ生徒を上から下まで見ては、口うるさくああだこうだと怒っている。
今日はどうやら不定期に行われる風紀チェックの日のようだ。昨日やっとの思いでピアスを開けたというのに、私はなんて不運な女なんだろう。迷わず踵を返し、向かう先は校門とは反対側。別ルートから学校へ入りさえすれば、おそらくピアスが見つかることもない。たぶん。
そんなその場しのぎの計画を実行するため、フェンスに足をかけてよじ登る。これ、完璧に向こう側の人からはパンツ見えてるよなぁ、なんて思ったその時だった。
「おい!」
『!…ぎゃああああ!!』
声がして、驚いた私は足を滑らせてそのまま落下。地面に落ちるまでやけに時間がかかったように思ったのは決して気のせいではなくて、次に目を覚ました私がいた場所は、硬いゴザの上だった。
「…目が覚めたか?!」
『え?えっと…、?』
心配した表情で私の顔を覗き込むのは、綺麗な青色の瞳をした女の子。状況が把握できずきょとんとする私に向かって近くにいた顔に大きな傷のある男の人が口を開く。
「君は木の上から落ちたんだ。ちょうど真下を歩いてたこの男の上に落ちて、コイツは無事だったんだけど、君は気を失ってしまったみたいで…。覚えてないかい?」
おっかない顔の傷に相反して穏やかな口調で話すその男性は、隣にいる坊主頭の男の人を指差した。でへへ、と笑うその人に若干気味の悪さを感じながらも、少し頭を下げた。
確かに私は高いフェンスをよじ登り、そこから落ちた記憶はある。でも、木ではないし、落ちた場所は学校のはず。先生でも生徒でもないであろうこの人たちに遭遇するなんて、変な話だ。
一体どういうこと?
『…あの、すみません。ここは、どこなんでしょうか。』
「私の住むコタンにあるチセだ。和人にとっての家にあたる。お前が落ちてきたのは、このコタンからすぐ近くの川岸にある大きな木だ。そんな格好で一体何をしてたんだ?」
『何って…、普通に登校してただけなんですけど、』
「トウコウ?」
『学校に行くことです。でも、風紀検査に引っかかりそうで、それで別の場所から入ろうとしたんですけど、そしたらフェンスから落ちちゃって。○○高校なんです、私。そこの生徒指導の先生、超怖くて!』
ベラベラ話し出した私を、今度は3人がきょとんとした顔で見つめる。私、なんか変なこと言ってる?
というか、コタンてそもそもなんなんだ。和人ってなんのこと?噛み合わない会話に少しずつ不安になる。
『…なんか、私変なこと言ってます?』
「変っていうか、なんというか…。君みたいな人に今まで会ったことがないんだよね。…本当にどこから来たの?」
ポリポリと顔をかきながら、申し訳なさそうにこちらの様子を伺う男の人。だめだ、話にならない。
そう思い、ブレザーのポケットを弄った私は、そこからスマホを取り出した。
「…なんだ?それ」
『え?何って、本気で言ってます?スマホですよ、スマホ!場所わかんないからマップで確認…って、圏外じゃん!使えないー…』
項垂れる私の手に握られたスマホをまじまじと見つめる少女。ここの人はスマホも知らないのか?そんなわけあるまい、と思いながら、ふと一つの考えが頭をよぎる。もしかして、これ、漫画とかでよく見るタイムリープってやつなんじゃ…?
『あの、つかぬことを伺いますが…今って、何時代ですか?』
「…明治時代だけど、」
まさかの、ビンゴ!嘘でしょ、こんなことって本当にあるの?
ていうか、夢?これ夢なんじゃないの?
「あのー、大丈夫?」
『あっ、はい。解決しました。いや、してないけど、』
「何を言ってるんだ、」
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