できた。できたんだ。今すぐ君にみせたくて急いた足がアスファルトを蹴る。口からでる息は白く、短い出入りを繰り返す。もう少し、もう少し。ビルに囲まれて切り取られた夜の空のもと、一秒でも早くと駆け抜ける俺の周りを騒々しいネオンがすぎていった。
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やっと家についてため息。上司には怒られたし客にも謂れのないことで頭を下げ、くたくたで家に帰ってきたらもう時計は12時を過ぎようとしていた。さっさとお風呂に入って寝てしまおうとバスタオルと着替えを手に取り、浴室の電気をつけたときインターホンがなった。こんな時間に誰だろうと思ったけどこの辺は夜も明るいし変質者の可能性は低そうだからきっと知り合いのだれかだろう。そう思いながら画面に映った映像を確認する。
「あ、カラ松」
そこに映っていたのは息を切らせたカラ松が情けない笑顔で映っていた。こんな遅くにごめんな、とでも言いたげに。ドアのカギを開けて、こんな時間にどうしたの、って聞きながら招き入れる。
「あ、いや、ちょっとお前に用があってだな」
申し訳なさそうに頭に手をやり俯きながら、こんな時間にごめんなと呟く。大丈夫だよと答えれば、顔を上げたカラ松が私の後ろにある電気のついた浴室に気付いたらしい。
「風呂、入るつもりだったのか」
「うん。でもカラ松の用が済んだあとで大丈夫だよ」
「いや、お前明日も仕事なんだろ。俺は準備があるから先に入ってこいよ」
「うん?準備?」
「それとも俺も一緒に入ってお前を日々のストレスからリリースさせて…」
「じゃあお言葉に甘えてお風呂入ってきちゃうわ」
え、と固まるカラ松を余所に浴室へ向かう。兄弟と喧嘩でもしたのかな、ぼんやりとそんなことを考える。
一応人を待たせているので早めにシャワーを浴び、最低限の保湿をすませ洗面所の電気を消しながらリビングにつながる取っ手に手をかける。
「わっ…」
開くと目に飛び込んできたのは蛍光灯の人工的な明かりなんかじゃなくて、真っ暗な部屋に浮かぶ小さな明かりの数々。それ以上感嘆の声もでなくて6帖半いっぱいに敷き詰められた宇宙を見渡す。キラキラと輝くそれらは一瞬で目を奪われてしまいしばらく見渡したあと暗闇に慣れてきた目で中心にいるカラ松をみつめる。
「カラ松、これ、どうしたの」
「君が…、星がみたいと言ったから。こんなところじゃ、星が、あまりみえないから」
カラ松の手の中にある小さな手作りのプラネタリウムが赤くなったカラ松の顔を照らす。やっぱり恥ずかしそうに俯きながら不器用につぶやいた。そんなカラ松の行動に言葉に、手羽だった心を優しく撫で付けられる。心の真ん中がじんわりとあったかくなる。こみ上げる感情に名前はあるのだろうか。目の奥が熱くなるのはなんでだろうか。
「そんなこと、覚えてたの」
なのにこんな可愛らしくない言葉がでてしまう。きっと目の熱さをごまかすため。そっとカラ松の隣に座って手作りプラネタリウムと一緒にその手の中にある懐かしい星座早見表をみる。
「これ、懐かしい。小学生のとき買わされたっけ」
ゆっくり渡されたそれはよっぽど使われていなかったのだろう、ほこりやヤニがついていた。それをなんとなくくるくる回しながら頭上に広がる星空を眺めているとひと際輝いている星を見つけた。
「あれ、これはなんていう星なんだろう」
星座早見表をみてみるけどやっぱりわからない。隣のカラ松が空気を吸う音がした。
「それはな、君の…星なんだ」
「え…」
「ごめんな勝手に。…イタかった…か?」
不安そうにこちらを見遣るカラ松。やっぱりこの感情に名前なんかつけられない。
「ううん、嬉しいよ。ありがとう、カラ松」
うまく笑顔で言えたかな。カラ松の目に私はどう映ってる?この幸せがあなたにも伝わればいい。口もうまくないし感情もなかなか素直にだせない私だけどそんな私の肩口に顔を埋めて熱い声で貴方は言うんだ。
「いい香りだな」
あぁ、もうずるいよ。
部屋の窓を開けて夜空を見上げれば現実が広がっているけれど、今日はこの狭い部屋にしかない消えそうなくらい輝いている一番眩しい星を眺めながら消え入りそうな声で好きだと囁くこの愛しい人のために小さく涙を流して眠りにつこう。
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「あれ?誰だよ、こんなところに本出しっ放しにしていったやつ。」
「あー、なんか昨日カラ松が本棚漁ってたよー?」
「そうなの?それにしたってなんでこんな昔の科学の本なんて…」
「んー、カラ松にもいろいろあるんじゃねーのー」
「なんだいろいろって。そしてなんでアンタは笑ってるんだ…。」
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敬愛するMさんに心を込めて
ALICE+