「いやー、マジ助かったわー!俺、今日パチンコで全部スッちゃったし、帰りの電車賃どうしようかと思ってたんだよねー」
助手席に座って馴れた手つきでシートベルトを締めると、両手を頭の後ろで組みながらおそ松は笑った。
「私がたまたまコンビニよって良かったね」
「ほんと感謝だよー。あ、ついでに晩ご飯なんて作ってくれちゃってもいいんだけど?」
「調子のんな。今日は彼氏がくるの」
「ふーん?まだあの彼氏と付き合ってるんだ?早く別れて俺にしちゃえばいいのにね」
にっと効果音がつきそうな笑顔を横目に、その言葉を掻き消すようにエンジンをかける。本気じゃないくせに。その目でわかる。おそ松とは長い付き合いだし、今までお互い都合のいいように関わってきた。私が男の人にフラれたときは、夜中まで飲んで体の寂しさを紛らわせた。これからもきっとそうだ。ゆっくり流れていく景色を眺めながら徐々にスピードをあげていく。外の商店街は、夕方らしく慌ただしげに小学生が走り抜けていった。
「あれ?眼鏡なんてかけてたっけ?」
「最近よく見えないんだよね。だから運転のときだけ」
「へー。あ、ねぇこれ食べていい?俺昼から何も食ってないんだよね」
「飴?いいけど」
「やっりー!お、これ甘ぇー!飴だけに?つって!だーはっはっはっ!」
「ごめん、全然面白くない」
甘いものはあんまり好きじゃないんだけど、上司にもらった飴玉。ポップでキラキラした包み紙からきっと外国のお菓子なんだろうな。そんな所謂ロリポップをぽいっとおそ松が自身の口へ放る。信号が黄色にかわり、ブレーキをゆっくり踏みながらおそ松のことを見遣る。
「でも俺には甘すぎ。あげる」
「え、いらな…ちょ…、んっ…」
ぼんやりと飴を舌で転がしているおそ松をみていたら、急に手が伸びてきて私の頭をつかみ、そのまま唇に自身のを合わせてきた。薄く開いた口には今までおそ松が舐めていたロリポップが、おそ松のその器用な舌を使って押し込まれる。最後にはご丁寧に、リップ音をつけてキスをされた。顔の距離が少し離れ、ぼやけた視点に焦点があってくると、夕日をバックにしたおそ松は昔のようにいたずらな笑顔を浮かべて、「な、甘いだろ?」なんて言うもんだから、やっぱりそんなおそ松が悔しくて、離れていこうとするおそ松の胸ぐらをつかんで引き寄せる。
「あっまい。いらない、返す」
同じようにおそ松の唇に噛み付いて、ベットの中でするような甘いキスを、飴と一緒に返す。少し離れた口にもう飴は帰ってくることはなかったけど、一度離れた唇は再びおそ松に啄まれる。
「ん…、ね、これ邪魔」
「あ!こら!」
ふと慣れていない目頭の違和感がなくなったと思ったら、眼鏡がおそ松にさらわれていた。何か反論してやろうと口を開きかけた私にもう一度小さくキスをして、おそ松が楽しそうに笑う。離れていく唇と口内に残る甘さがちぐはぐで、少し、寂しさを感じる。
「ほら、信号青になったよ?」
言った瞬間、後ろの車がクラクションを鳴らす。慌ててアクセルを踏むと、アイドリングストップしていたエンジンが音を立ててまた回り始める。
「眼鏡返して」
後ろの車が私たちが乗る車を追い越しながら、ちらとこちらを一瞥しているのを見て、若干の申し訳なさを感じながらおそ松に視線を投げる。
「これなくても運転できるんでしょ?ならいーじゃん」
そう言って、嬉しそうに私からさらっていった眼鏡をかけながら笑った。
目が悪くなってもしらないよって思ったけど、横目でみるおそ松は鼻歌なんか歌っちゃって機嫌が良さそうだから余計なことは言わずに今はただこの空間に浸ろう。
そんな距離が今はとても心地いいんだ。
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