お酒は強い方ではない。でも、弱い方でもないと思う。特に今日みたいな職場のどうでもいい飲み会があった後は、とにかく飲み足りない気分になる。そりゃそうだよ、だって職場の飲み会なんて、上司のご機嫌とって、お局さんに気を遣って、私たちみたいな下っ端は楽しく飲める訳ない。しかもそれが、好きだった男の子にフラれた後の最初の華金だなんて、ほんとついてない。今日は仕事終わりに、いつものメンバーを適当につかまえて飲みにいこうと思ったのにな。はーぁー…。このまま家に帰るのはもったいない。でもお生憎様、いつもの彼女たちは全員彼氏持ちときた。今から連絡したって捕まらない。終電にはまだ早い最寄り駅に向かう電車の中で、ずっと続いていたLINEの返信をしながら考える。

適当に飲み相手をつかまえよう。

そう思いLINEの友だち欄から、今からでも飲んでくれそうな人に目星をつける。とりあえず2、3人に連絡しとこうと思い、それぞれに『今暇?これから飲もー!』とスタンプ付きで送信する。

電車がゆっくりと速度を落とし最寄りの駅に着く。都心から遠くないところにあるわが街は降りる人もそれなりに多い。人波に気をつけながら返信、既読を確認すると、2人からは無理という内容、1人は既読にならないので今日は無理だろう。
んー、あと誰かいたっけ。あ、あいつもいるじゃん。そう、またスマホに目を落とす。
とにかく今日は、飲み足りないんだ。



夕食も終わり、銭湯から帰って来た僕たちは、いつものごとく居間で各々時間を潰している。僕はその見慣れた光景を、膝を抱えながら部屋の隅で眺めていた。カラ松兄さんは相変わらず鏡をみてるし、チョロ松兄さんは求職雑誌をめくっている。十四松は、…よくわかんないけど、トド松は片肘をついてスマホをいじっている。ふと、珍しくスマホを操作していたおそ松兄さんが、僕の方を向いた。

「そういや一松いいの?」
「…なにが」
「今日名前飲み会だって言ってたよー?」
「っ…!」

なっ…んで、お前が知ってんだよ。ふいにでた幼なじみの名前に心臓がバクバクと音をたてはじめる。膝を抱える手に汗が滲む。

「あー、あいつ最近男にフラれたって言ってたよなー?しかも今日は職場の飲みって言ってたから、あいつ飲み足りてんのかなー?まぁ、俺には関係ないことだけどねー」

…ふっざけんなっ…!おそ松の言葉を聞き終わる前に、弾かれたように玄関へ走る。上着を羽織るなんて考えもなく、無造作に置かれたいつものサンダルをつっかけて、外へ飛び出す。いつものパーカーしか着ていない肌に、外気が容赦なく刺さり、短く吐き出される息は白い。

それでも一歩でも早く…!

普段運動なんてしない足は、早く動かそうとすればするだけもつれ、今にも転びそうだ。駅まで、もう少し。電車から降りて来たであろう人波がぞくぞく商店街へ流れ込んでくる。人にぶつかりそうになりながらそれでも足を懸命に動かす。しかし、駅前の信号機に行く手を阻まれ、悲鳴を上げ始めている膝に手を置き、息をつきながら辺りを見回す。どこだ、くそ。もう、いないのか。



改札をでてエスカレーターをおり駅を抜けた先の高架下の信号機まで来ると、返信が来ていた。『いいよ』という文字が映し出され、どうやら相手方は急な誘いにも関わらず、私と飲んでくれるらしい。今日の飲み相手がみつかったことに喜び、今夜を独りですごさなくてもいいことに安堵した。と、同時にLINEを打つのも面倒になって、そのまま通話ボタンを押す。信号が、青に変わる。

「もしもしー?いきなりごめんねー!ありがとー!うん、今高架下歩いてるから、いつもの大衆居酒屋でいーい……っ!」

急に、誰かに力強く腕を引かれた。驚いて振り返ると、そこには息を切らした、幼なじみの、一松の姿があった。



あ…いた。2つの信号を挟んだ先に高架下をそって路地に歩いていくあいつ。耳に当てるはスマホ。目の前の信号機が青に変わった瞬間、最後の力を振り絞って地面を蹴った。

知ってんだよ…!男女手当り次第に、誰にでも連絡してそうで違うんだよなぁ、お前は。ちゃんと選んでんだよ、寂しさを紛らわせられる、寝れるやつをよぉ!
でもなぁ、そのあと泣いてんじゃざまぁねーよなぁ!泣くくらいなら…!他の奴で紛らわすなら、

「他の奴に連絡するくらいなら、俺のこと…呼んで」

勢い良く腕を引っ張って振り返らせたその手に、振り絞ったその声に、名前の瞳が揺れた。

「そいつやめにして、…俺にして」







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