駐車が苦手だ。人が隣に乗っているとなおさらである。ハンドルを握る手にじんわりと汗が滲む。

そもそも、助手席に座るこいつを乗せなければ良かった。仕事帰りに車を走らせていると、いつものイッタイタンクトップに、妙に艶のある革ジャンを着て、それどこで買ったの?と思わず聞いてしまうようなスパンコールのパンツを身にまとったカラ松が、「Hey、カラ松girl!」と聞こえてきそうなほどかっこつけてヒッチハイクよろしくサムズアップしていたから、最初は華麗に通り過ぎたんだ。しかし、通り過ぎたはいいがその後、猛ダッシュで車の前に飛び出して来たので、ブレーキを踏まざるを得なかったのだ。

「ヘイ!カラ松ガール?それはちょっとオイタが過ぎるんじゃないか?」
「あー、ごめん。変質者かと思って」
「フッ、お前の愛の鞭、しっかり受け取ったぜ」
「いや、どんだけ前向きなの」
「ここで会ったがディスティニー、一緒に愛のドライブと洒落込もうぜぇ?」
「素直に帰りの電車賃がありませんって言えば?」
「oh…さすが俺たちの幼なじみだぜ。俺のことはなんでもお見通しか。幼なじみまでも虜にしてしまう、まさにギルトガイ…!」
「カラ松今日いっぱいしゃべるね」

話しながら助手席に乗り込みシートベルトをするカラ松からは、きっついタバコのニオイがする。それだけで、今日パチンコに行っていたことはすぐに分かった。

♪〜〜♪〜

「ん?ブラザーからだ」

出発しようとすると、趣味の悪い革ジャンのポッケから着信音がなる。

「でていいよ」
「悪いな」

ピッ

『あ、もしもしカラ松ぅ〜?兄ちゃんだけどー』
「あぁ、どうしたおそ松」
『なーんか母さんがお米切らしてたみたいでさー。お前今外だろ?どーせ暇してんだから、30キロのやつちょっと買って来てくんない?』
「おそ松、悪い。今金が…」
『ねぇちょっと次おそ松兄さんの番だよ!』
『わーったよ、ほれ『ローーーーーーン!!!』って国士無双ぉーーー?!は?!おい?!嘘だろ!じゅうしまーーーっつっ!!!』   ブツッ

ツー…ツー……

「金…ないって…」

言うが早いか松野家暴君からの連絡は嵐のように過ぎていき、カラ松の呟きが空しく車内に漂った。

「…お米、買いに行こっか」
「え、いいのか」
「だってあの調子だとかけなおしても聞いてくれそうにないじゃん」
「でも、俺、金…」
「いーよ、松野家に届けたら兄弟達から巻き上げるから」
「oh…!神よ!俺のミューズよ!」
「あー、わかったわかった!その代わり、私の今日の晩ご飯いただくから!」
「そんなのお易い御用だぜ、ガール!」

作るのお前じゃないだろって思ったけど、松代さんなら絶対事情わかってくれるしいつもその懐の深さに甘えてしまう。

そうして車を近所のショッピングモールへ走らせて、そして冒頭に戻る。てゆーかこうなってるのってあの長兄のせいじゃんか。くそ、松野家の兄弟もろとも恨む。
別に女の子アピールをするわけじゃないんだけど、女の子ってだいたい駐車苦手じゃない?夕方のスーパーはそれなりに混んでいて、唯一停められそうなところでも、両隣に車がしっかりと停まっていた。何回か切り返したところでそれでもうまくいれられず、恥ずかしさに体が熱くなる。もうやだ…

「ちょっとかしてみな」

「え、カラ松運転できるの?」
「フッ、俺を誰だと思ってるんだ?カラ松だぜ?」

いや、よくわかんないけど。カラ松はそういうと助手席から降り、運転席の扉を開ける。私は促されるままに運転席を降り助手席に座った。カラ松が運転してるところなんてみたことないし大丈夫かな。ハラハラした気持ちで見守っていると、ふいにカラ松が助手席のシートに手をかけて、後ろを振り返った。

「…っ……!」

ち、近い!カラ松の、顔が、近い!普段からかってばかりいるけど、こいつの顔は割と整っていてしゃべらなければそれなりにかっこ…って何考えてるんだ!ばかばか!
カッと熱くなる頬に、バクバクと音をたてる心臓に、カラ松の横顔から目が離せなくなった。

「ほら、入ったぜ」
「え、あ…うん…」

不覚ながら見入ってしまって気付かなかったけど、カラ松がエンジンを切ったときには車は線内にぴったり駐車されていた。

「ん、どうした。顔が赤いぜ?」
「え、何?!うるさい!夕日でしょ!夕日!」
「そうか?まぁ確かに今日はサンセットが俺たちを祝福してくれているようだな」

もう本当に心臓に悪い…。早く買い物を済ませて帰ろう…。そう思い、後ろにおいていたバックをつかんで車を降りる。
しかし、降りてから改めて振り返っても、見事なまでキレイに駐車されている。私が無理に切り返しすぎたせいで結構無理な角度がついていると思ったんだけど。

「カラ松って運転うまかったんだね」

賞賛の意もこめて、素直にそう言葉にする。すると、こっちを向いたカラ松は背に夕日を背負いながら微笑んだ。

「当たり前だろ?男だからな。男は運転が上手いものだ。レディをスマートにエスコートするためにな」

ぶわっと風が吹き抜けた。顔が、熱い。

「あいたッ!なんでぶつんだマイガール!」
「うるさいっ!カラ松のくせに!てゆーかカラ松のじゃないし!もう行くよ!」
「あ、おい!待ってくれよ!マイハニー!」

ずんずんと先を歩いていく私を追いかけるように、カラ松が小走りでついてくる。そんなこと言うカラ松に顔なんか見せてやらない。てゆーか見せられるわけない。熱くなった頬に手の甲を押し付けながら、私が捕まってしまう日はそう遠くないような気がした。







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