くるしいから魔法じゃない

トラ「さぁ、起きて。
そして目の前の姿を見て」

悪夢の始まりだよ



くるしいから魔法じゃない



そう言われて直ぐにお茶子が目覚める
此処は何処だろうと首を傾げながらも
都を見つけ手を振る

徐々に緑谷、轟、やおもも、相澤先生、梅雨ちゃん
と起き上っていく中・・・私はと言うと
胡坐をかいて真ん中でヴィランと話していた


『ねー、何するの?何するの?ねぇ待って何するの?』

トラ「煩いなお前!?お前のじいちゃん
めっちゃ静かに怒る奴だったのに!!」

『だって暇だものー何々?私の嫌な事取り出してさ
感情乱していく寸法?ねぇ何々?次何見せてくれるの?』

そういきなり寝っ転がりながら笑い出した都を見て
ヴィランに相澤は何をしていると個性を出すが
一切球体からは出られない


トラ「嗚呼、無駄だよ。都自身が君らを受け入れない限り
君らは其処で指をくわえてみているしか出来ないんだよね
さぁ都・・君の本名をまず当ててみようか」


そう言うとぴたりと身体が固まり起き上る
ジッと観出した都にニヤリと笑う


トラ「君の名前は・・ん?これは"都佑"か、
"岡本都佑"?あれ?オカシイナ、
君は羽黒都じゃなかったっけ」

落ち着け私、恐らく私の全てを出して
嫌な様にするつもりだ、相澤先生達早く出てー
って思ってるんだけど全く効果ないな?

若しくは何かが足りないのか?


一体何が?


お茶子「え?あいつなんなん?
都ちゃんがそんな私達騙してるなんてないやろ!」

それに少しチクリと胸に痛みが走る
騙している?私が?まぁ確かに言わずに
この世界で生きているのはそうだが


梅雨「お茶子ちゃん、此処は余り
口出ししない方がいいかもしれないわ
それに何だか今さっきほんの少しだけど
胸が痛かったわ」

八百万「わ、わたくしも痛かったですわ・・」

全員が言う事に段々私はヴィランの顔が見たくなくなってきた



悪夢か?


トラ「そう、君が幾ら僕が悪夢を見ても
痛みも何にも言わなくなったから君の今
信頼している人たちを選りすぐって
眠っている時間に入れて来たんじゃないか」


鍵は一応あるがこいつに使って良いものか分からない
そもそも此処がもしも現実世界なら許可もなく
攻撃をしてもいけないのは目に見えている

加えて相澤先生や皆が何も出来ない様に策を練っている


精神面が今少し揺れている今を狙ってか?


トラ「ふむ、止めだ止め!何時もの悪夢を目の前で見てよ!!
君ってば何にも怒りもしないし嘆きもしないんだから!!」

他人に頼ってみてその痛みで私を苦しめようという
魂胆らしいが・・・さて、見るものとは・・・??



後ろを振り返ると其処には幼い小学生の女の子が居た







お茶子視点



目が覚めて私が言った言葉が何故かチクリと胸を痛めた
どうやら都ちゃんが感じた感情が通じているようだけど
なんだか不思議な感覚だ

相澤先生が緑谷君挟んでの光景だけど何か考えている
きっとこの現場からすぐに出られる様な事を考えているのだろう


さて、目の前に一瞬で出て来た少女は誰だろう?
何だか胸がズキズキ少し痛い気がする


黒い髪の毛でやせ細った女の子
真っ白は頬に少し淡い水色なワンピース
を着て都ちゃんをみて首を傾げている

段々痛みが激しくなる
何だこの痛みは・・胸が少しキュッと締め付けられる気持ち
都ちゃんはあの子を見ると直ぐにこんな痛みに駆られるのか?


お茶子「都ちゃん・・・」

『ヴィラン・・何故此処にこの子を入れた!』

眼つきが変わる、都ちゃん本気で怒ってる
よっぽどあの女の子が大切なのだろう
なんか沸々と湧き上がる苛立ちも伝わってくる


トラ「何って、君が一番今会いたい人を
出して来ただけだよ
へぇ・・可愛らしい子じゃないか」


そう言って近くに寄るヴィランに都は直ぐに攻撃を仕掛ける
「止めろ、彼女に近づくな」そんな声が頭に響く


トラ「そんな感情をさらけ出していいのかい?
今の想いや気持ち感情全て此処に居るヒーローたちに
伝わっているんだろう?」

『っ・・』

すぐに離れて女の子の元に戻る
女の子は「大丈夫?」とかなり声の高い
少し不安そうな声で言う

ソプラノ声で女の子らしい声だ
目が大きくパチクリとしている


都ちゃんの感情だろうか?
ジワリと心が満たされていく様な痛みが広がる
なんだこの気持ちは・・こんな痛みも
都ちゃんは感じていたの?


『大丈夫、大丈夫だよ・・君は死なない』


死ぬだなんてありえない

そう言い聞かせる様に言う都ちゃんに何だか
涙が出そうになる


トラ「でも君の願いは叶わない」

そう言ったヴィランはパチンと指を鳴らして
都ちゃんの両手両足を拘束した
それに驚いたのか胸が少し・・・驚く

都ちゃんの感情が流れて来る
「止めろ、何をするつもりだ、何を皆に晒すつもりだ
誰にも見せずに殺すつもりの感情を、どうするつもりだ」


何で隠していたの?

私達じゃ、駄目なの?



友達にも、言えない事?


その時だ
思いっ切りヴィランは少女を叩いた
そうして言う


「お前は捨てられたんだ」と


その言葉に鋭い痛みが胸に走る
何なのこの痛みは・・なんかこう
喉まで出てくるのに全く楽にならない


都ちゃんを見ると少女をみながら
少し眉を寄せて心配そうな顔をしていた



トラ「君のお母さんとお父さんも出してあげよう
嗚呼、色も付けた方がいいね、付いてるものは
全部出してあげよう」


そう言ってヴィランはまた指を鳴らす

突如私達の胸にとんでもない痛みが走る








相澤サイド

なんだこの痛みは、一応我慢出来るが八百万と麗日の様子がおかしい
此処から出なければいけないのだが羽黒が俺達の助けを乞わないと
全く出れない仕組みになっているらしい

早く助けを求めろと思うがそれと同時に強く感情が頭に走る



「お願い、止めて、そんな夢を見せないで」


何度も観た、酷く優しい世界を


そう言って涙を流す羽黒に何も出来ないままの自分が悔しい
幸い今夢の中と言う事だろうが包帯も巻いておらず自由が効く
筈なのに全くこの球体からすら出れない


鋭い痛みは増して行き、何故か快楽を混じらせていく
それに違和感を感じた俺は一つの結論にたどり着く



嗚呼、何でお前は、一体何時そんな感情を覚えたんだ


胸が苦しくて仕方がないのに、喜びが溢れだす
胸が締め付けられる想いのまま何処か会えてよかったと思う

なのに少女を抱きしめた女は「ごめんなさい」と呟く
恐らく離婚する現場なのだろう・・幼少期に覚える
不安は一生残ると聞いたことがあるが・・・まさか、な



トラ「ほら!母親は君を置いて逃げて行った!
君を育てられないから!君が悪い子だったから!
君がろくでなしだったからだ!!」


突如また痛みが走るが・・何故だろう

涙は全く出て来ない



その代り都の眼から涙が溢れ流れ出す
止めてくれ、と願っても無駄だろう
一応何かないかと身体の中を探るが
一切武器になるものは持っていなかった


くそっ、全く歯が立たない


『違う、その子は悪い子じゃない・・!!
良い子だったんだ、そのままでありのままで
生きていて良かったんだ!!彼女は生きた!』


羽黒止めろ、お前感情に飲まれているぞ!?
と言いたいところだが全く声が出ない
これじゃあ両隣に居る緑谷と八百万に指示も出来ない


そこで何か揺らめきが出る
なんでこんな感情をお前が持っている


知っているんだ・・こんな感情、普通の高校生が持つはず


トラ「そう、普通の高校生なら持つ事なんてない
はずの感情、怒りよりも哀しみが勝ちどうして私はと
落ちるような絶望を胸を締め付け上げ苦しめる」

『やめろ!お茶子ちゃん達を苦しめるな!!』

トラ「苦しめているのはどっちだ?
君がコンナ事を何時までも諦めないから
皆が今苦しめられている」


君が何も覚えていなければ済んだのに


そう言って少女の方に手を出す
少女は声を押し殺しながら泣いていたが
すぐに起き上り泣いてちゃ駄目だと
自分に言い聞かせながら机に向かう


「そうだ、音楽を覚えたらママが帰ってくる!」


一体どうやって其処にたどり着いたのか教えてほしいものだが
それよりも前に頭と心臓の痛みがずっと走りっぱなしだ

羽黒・・お前どんだけ自分を痛めつけていたんだ・・・


トラ「君は少女に恋焦がれずっとそのまま生涯を閉じた
さぁ、続きはまた今度にしようか・・そのまま落ちて」


そう言った途端都の居た場所が地面ではなく
宙になり都が落ちる

羽を出そうとしているのか力むが
全くでない事に焦っているようだ
落ち着けと言い聞かせて目を開ける

そうだ、冷静になってすぐに見えてくるものがある
まず次に何をするかって・・おい何処を見ている


下を見て手を伸ばすが声がする
"都佑"そんな声だ・・ってか都佑って誰だよ
都と何か関係があるのか?


そんな声に心の声がはっきり聴こえる


「お母さん!嗚呼、止めてかき乱さないで」

母親?らしき人物がしたから出て来て
都が手を伸ばすが、綺麗に身体を通り抜けて
空のかなたに飛んで行ってしまう

その叫び声は悲惨で、羽黒の願いが切実で
自分の胸も痛んだ




"知ってた、知っていたからもう見せないで
父も母も手の届かぬ処の人なの

もう私は1人なの、誰も私を知らない世界なの
私は1人で生きていかなくてはいけないのに"


貴方に縋る事しか出来ない私は臆病者だね








そこで目が覚めた


目が覚めた時には涙が流れていた








《後書きスペース》