このままで、このままなら

何時もの明るい世界

私はこの夢を何度も何度も観た事がある


(???)

誰も居ない広い空間空高い青々とした雲ひとつない場所
その地面には色鮮やかな花々が目を咲かしている
そんな花が若草とコロコロ変わる様な変な場所

通常の世界ではありえない場所

その目の前には二つの白い椅子と一人の少女が座っていた

それはあり得る筈がない場所

『…それでも』

私は望んでいるのだ

望んで望んで望んでしまった挙句の果てに
私は今「また」夢を観ているのだ

願え望めるのならこの場所に永久に居れたら
私は誰よりも崩れない強い心を得られるのかもしれない

嗚呼でもそうじゃないと心の何処かで否定する
強い心なんて人間持ち得る事が出来ないのだ
強いて持てるのならそれは余りにも残酷な現実

『…それでも、私は』

ずっとこの夢を観て居たい。


少女はずっと寂しそうに座ったままだ
足を交互に揺らしているが
退屈になったのか目を閉じて背もたれに
背を預けている

その少女を抱きしめてあげられるのなら
私はどれ程救われるのだろうか?
いいやきっと救われない。


だってこの世界は

『私が救われない世界』

そう

この世界はもとから夢なんかじゃなかった
幻として私の頭の中が勝手に創り出したもの
救われる訳がない、だってこれは作ったものだもの

少女だって創ってしまったもの
あの子が救われることがなければ
私が救われることだって、無い

そう言い聞かせて安堵するのは
一体何故?

『…本当にこれは救われないの?』

いいや、救われたいのだが
救われてしまえばなんだか駄目な気がするだけだ

例えて言うなら子供が正解不正解とは違う
グレーゾーンに手を出した時の心情だろう。

お菓子を三つ買っても良いのだが
四つで甘えて成功出来る時
三つに従えばとても利口だと称賛される
下手すりゃ二つにすれば褒められるかもしれない

然し四つにしたい気持ちもある
あのどうすれば良いのか選択が
多重にある状態だ

『ううん、きっと救われない…』

私は救われなくて良い
だからどうか、私以外の誰かは幸せで笑って居てほしい
そう何時から望みだしたのだろうか?

何故私はずっとそんな自己犠牲の塊になってしまったのだろうか?
その塊の中でじっと待っている情は一体なんだ?

その情がヒーローとしても己としても
とても良い事なのは明白だろうに
それでも私は、救われないと言い切るのだ。

お菓子は三つ迄、頭を撫でて笑って
私を、本当は私を

視界が揺らいでぼやけていく
嗚呼駄目だ、この空間に居ると
ずっと泣いていられる変な自信迄沸いてしまう

『…叶わなくて、それで終わりで良いじゃない』

この空間に一体何の意味があるのか分からない
でも分からないと言っているだけで
本当は心の奥底では分かっているのかもしれない。

それでも私は今は分からないと言わせてほしい
どうか、どうか言わせて。
今は答えられないの。


今も答えられないの。


『…っ、君に、会え、たんだよ?』

現実世界でぼやけたあの視界
少女の輪郭やどんな状態なのかも
余り理解できなかったし
そもそもあやふやだったので
どんな顔かも理解出来ていない

それでも私はずっと前から知っている

『嬉しかった…なのに苦しくて苦しくて
胸が張り裂けそうになったから笑ったの』

君があんな場所に居て嬉しい気持ちと

君があんな場所に出てこなければ
私はこんな胸が痛く辛い思いをしないと
気持ちいいとは思わなくなったのかと

君と出会わなければ私は

『嗚呼そんなのは野暮だよね…だって君は』


「私」なのだから


突然少女の身体に風が舞い上がる
遠くの方をみつめる、透き通った黒い目
その目の奥では一体何を感じ取っているのだろう?

私はその姿に一時見とれてしまった
其処ら辺に居そうな女の子だ
なのに神秘的に感じるのは
特別に感じるのはきっとこの世界のせいだろう。

「…やっとみてくれた」

『きぃっ…』

きぃいいいやぁああぁああああ
喋ったああああああああああああ

って喋るだろうて女の子の身体していて
誰が喋らないと言い切るのだろうか、私か私なのか

「あなたは、どうしたいの?」

『…私?なんの』

事だろう?

そう聞こうと思ったが、直ぐに状態を理解した

少女の不安そうな目の色眉の下がり方
私はずっとずっと前からその姿を知っている
何処で見たかは知らない

そもそも見た事も無いだろう
なのに何故知っているのだろう

その寂しそうな姿は愛情を欲しているのは確かだろう
抱きしめて愛する言葉を連呼し笑いはしゃげば
きっと少女は嬉しそうに見た事も無い笑顔を見せてくれる

…気がするが、そんな事をして
私は喜ぶ…んだけれども
違うそうじゃなくて、だね


つまり何が言いたいかと言うと


『…君が何者なのかは推測が出来る
でも、それを言い切ればきっと
君も私もこの世界も無くなってしまう』

だから私は「したいこと」をしないのだ。

子供が駄々をこねないのも
子供が言う事だけを聞くのも
子供が友達を作らなくなるのも
ただ一人で居るのは「防衛反応」だ

例えて言うのならゲームだ。
あれはレベルを上げて時間をかけると
まぁゲームだけでなくとも
愛着は沸いてくるし、それを誰かの手によって
壊されたりすると傷付き大きな穴が出来るだろう?

そして次にはやらなくなる「防衛反応」が動いたからだ


私はその「防衛反応」で
「少女を創りあげてしまった」
だけだったのだ

だって最初から手を伸ばさなければ
何も失う事なんてないだろう?
得る事すら在り得ない話なのだから。

だから私は

だから私は


『このままで居たいだけなの』


「君」が少女として椅子に座っているだけで
「私」は誰よりも幸福を感じて居ればいい
それ以上もそれ以下も無い世界
此処は誰も誰も入らない様に「私」が仕組んだ世界


では問題だ

子供が一番手を伸ばしたい物はなーんだ?


答えなんて、この世界では簡単過ぎる。


「そっか」

そう寂しそうに笑う少女
私はこの子を幸せにすることは疎か
笑う様な素振りなんて見る事は叶わないのだろう。

だって「君」は「私」なのだから。
「私」は「君」をずっと此処に閉じ込めている。
何時になったら時は動くのだろう。
それはきっと今なのに、私は未だ


此処に居たいと願うのだ。


子供は望んだ、手を、下ろした。

笑って

手を振って言葉を零す


「いってらっしゃい」



その言葉はどれ程苦痛だったか
子供は「あの子」は「あの時間」は
もう二度と戻らない。


だから

『(だから閉じ込めた)』

この感情を誰かに知らせるのも億劫だ
だって誰も私の感情を理解できる人はいない。
というか居てほしくないんだろう

そうでもしないとこんな状況も作らない

現実の時間は残酷で
どんどん前に時が進んでしまう
だから私は「あの子」を閉じ込めた
朝も夜も無い、この世界で
二人きりで、いいや


「××ー!」

「あ、ママ!!」


この、記憶の中で。

「ごめんね…××」

『(嗚呼何度繰り返せば楽になるのだろう)』

「ママ?どうして泣いてるの?」

涙ぐみながら少女の肩を掴み二つの選択を迫る
嗚呼、時間が来たのか、姿が見えなくなっていく

パパとママどっちが良い?

そんな答え、どちらも私選べる訳がないのに
私は選んでしまったのだ
残酷だけど私にとったものを

…パパがいい

その答えなんて、聞きたくないのに
私は、この空間から出られなくなっていた




このままで
(居られたら傷付く事なんて無いし)
このままなら
(貴方達をずっと憶えて居られる事が出来るのだから)








《後書きスペース》