掌に祈りがわだかまる

嗚呼、私は死んでしまうのではないだろうか

それもそれでまた良いのだ

ほんとうに?


「ほんとうにいいの?」

目を覚ますと青々とした世界が見えた


『…お?青々とぉ???』


困惑したが、直ぐに舞台が観えた



辺りは花畑で囲われ
声がした方向に身体を向け、目を奪われた



『(声が出ないというのはこういう事を言うのだろうか)』




黒い椅子に、白い服を着た少女が座っている

凛とした様な座り方で、髪の毛は真っ黒で



『(嗚呼、私はこの世界を知っている)』

ズキンと痛んだ胸に手で掴むように目を閉じて


その姿に、私は目を背けた
ずっとずっと、背けている様に
何時もの様に、目を、逸らした


『いいの、いいの、良いってどうか言って』

そうしたら私はそれだけで良いってなれるから
そうしたら、きっとどこかで報われるから

ほんとうに?

報われなかった事に今も縋っているだけでは?

杖を使い少女の喉元にソードを使った
寸止めの小籠に少女はきょとんとした顔で
ころしていいよと言っ…え?


今なんて言った?



「ころしていいよ?」

『…なんで、そんな言葉は言えるの?』


私は目を疑った。いいや耳を疑った。
彼女はいや”少女”は何を言っているのだろうか?



何時から君は自分を殺せる様な抑え方を憶えた?

何時から?一体私は何時から?


ーこの世界はずっとずっとずっと"昔"から


風が舞う空に花が咲き乱れた
声はハッキリと鮮明に耳に入って来た



【限られた世界】



『私は、ほんとは、でも口に出したら
きっと叶わないから言わなくなって』

そう、私はずっと口に出さなかった
秘める様になったのは、周りの人の顔で察したのだ
嗚呼、困らせてはだめだ。
母が良く言い聞かせていた言葉

ーお願い、小籠、知らないままで居て。


その言葉が妙に頭から離れなかった
ずっとずっと、考えていたんだよ。



寂しそうに眉を寄せて笑う小籠は空に手を伸ばした


『ほんとは、かなわせたい、でも
もう遅くて、私じゃなくて別の誰かが
笑ってくれたらいいやって言い聞かせて』

そうして私は私を上手く殺せる様になっていて
そのまま落ちる様に感情は落ちて行って
傍にあるものだけで幸せを得られたら良い

そう言い聞かせないと
言い聞かせて居ないと
私はまだ叶わない事も叶うと思いそうで

いや、本当は思っているのだ
願って願い続けているのだ
だから少女は此処で座っている

何も知らない様にして
何もかも知っている筈


なのに
私はずっと少女を
こんな世界に閉じ込めていたのだ





いや?果たしてそうだろうか?

ふと疑問が浮かび、今まで観て来た事や物を整理してみよう
少女の座っている方向に歩きながら
小籠はぼそりと呟いた


『‥真っ白な姿で、黒い髪の女の子が親と居る世界』

それはとても楽しい世界で優しい世界

だが、何時からか、そんな世界が崩壊して

『カードがそんな時に、バラバラ事件になって』


確かに祖父は持っていた
カードを手放す人間ではない‥性格的にも。

そんな人が果たして無くしたなんて
「引継ぎ」なんてするだろうか?

それも多くの犠牲があるだろう怖く恐ろしいカードを


『君が涙を流す夢ばかり観だして』


カードを取る事ばかり集中し過ぎて
色んな人にバレつつあって

そんな中梅雨ちゃんと私が捕まって
ヴィランの中で鍵が光って

『そんな時も君が思い浮かんで』

カード自体の個性はバレてしまったが
無個性と言う事はバレていなくて

まるで誰かが計画したかの様なとんとん拍子

ー嗚呼、そうだ


『君がそんな時カードを集める夢を観て
私を観て笑ってくれたのが、何処か嬉しくて』

同時にとても哀しくやるせなくなった


『爆豪君が連れていかれると同時にどうして
ヴィランに私まで連れていかれたのか』

そりゃ情報としてかなり複雑にしているから
全く分からない筈の個性なのに

手薄で全てバレている状態で
あの人は言ったのだ
「君の全てを私は知っている」と

それは同時に「過去の私を知っている」事に直結する

では何故?別世界となったのだろう

誰しも死ぬ時はあるし、死んだあとに心残りはある
それは別世界に飛ぶはずがない


ーそれは、唯の一例にしか過ぎないのに


『君が望んだ』


目の前に辿り着いた
少女は下を向いて目を瞑っていた


『ーこれはあくまでも憶測で且つ現実の事だろう』



君(少女)は、別世界に飛べる個性の持った人間との子供だった


****



恐らくそれはとんでもない個性だったのだろう

その報道は、子供が別世界に飛んだというありふれた様で
結構アブナイ話題であった
そんなニュースも何故今沸いて出て来たのか
私は少しだけ分かる気がした


腰を下ろし、胡坐をかきながら小籠は少女を観た

目は、まだ閉じていた



『君は恐ろしいと感じとある日に世界に戻ろうとした』

だがそんな事叶う訳が無く
君は別世界で孤立してしまった

その時間がとてもじゃない程苦痛で
死んでしまいたいと何度も思っただろう。

だが死ねる勇気なんて無くて
でも帰りたい気持ちはあって

そんな時一人の人に出会った
黒く純粋で可愛らしい子供


『ある日何かの事件に紛れて、君が個性を爆発させた』

それは別の個性も発動したのだろう
友達という、可愛らしい子を助けたい為に



『君は個性で”少女を閉じ込めた”』


それは悪夢で
醒めない夢

決して、醒める事等無い現実

ー気づかない訳が無い

だってその可愛い子が「私」なのだから




少女は目を顔を上げ此方を向いた
目は少し茶色よりのシルバーだろうか
とても可愛らしい顔立ちだった

『…私もね、君が好き』

****

時は現実世界

フクは異変を感じた

「(様子がおかしい)」

すっと手を上げ攻撃を放とうとするが
一向に出てこない処か物音すらさせない

気配はあるので恐らく気を失ったか
若しくは此方の攻撃を伺っているか


「そんな計算高い子だったかしら?」

否違うだろう


ならばこの状況はチャンスと見える

フクはそう判断し、彼女の笑顔を思い出しながら
手から力を籠め始めた


「…お前だけは、不合格にしたくなかったんだがな」


****


「どう、して?」

まるで子供が悪い事をして、大人にバレたかのような恐怖の笑顔

そんな顔迄するのか、否「其処まで生きながらえてしまっている」のか


『君は友達を救う為に個性を発動した』

それは間違いないだろう
少女は奮闘したはずだ
自分が別の世界で生きていた事を最初に痛感したのだから

其処からは私の観て来た夢と同じシナリオだろう


『君はとても良い事をした、と同時に君は嘆いた』


ー嗚呼なんて取り返しのつかない事をしたのだろう。


「…」


『君は焦った。どうすれば良いのか
どうすればこの子を元の世界に
幸せのある家庭に戻せば良いのか‥』

考えている間、別の個性が発動した
いいや、それは生まれ持った世界の物

『そんな時、近くにあったカードが君の周りを囲み始めた』

「!!」


そう、偶然が必然を呼んだような物で


『私の祖先が”魔女”だったの』


***


少女はふとした拍子で別世界に飛ばされ
絶望の中とある子供と仲良くなり

その子の親とも仲良くなり次第にその中に溶け込み
ある日その子供が危険な立ち位置になり
少女は世界に飛ぶ個性を発動させようとした

その時、真っ白な世界に飛ばされて
このままでは子供の幸せが終わってしまう
ご両親に恩を仇で返す事はしたくない

その思いのまま、少女の個性と同時に
子供の魔力が爆発し、子供の中に隠してあった
カードと鍵が外にばらけ散った

否、怒りを感じたのだろう。


カードは嘆いた。元の場所に戻れない事を。

全てお前のせいだ。

少女は自分を責め魔力を持ったものにも責められれ
個性はまた世界を飲み込んだ


ふと目を覚ました場所は、元ある世界だった
子供はその後親と再会した


少女との記憶を”忘れ”て
少女には呪いと言う名の魔力が宿った

少女は嘆いたが此れを子供に聴かれたら
子供が嘆くと。

寧ろ活用しようではないかと
少女は魔力を己の物にした。


そして少女は大人になり、世界の理をカードに閉じ込めた


大人になった少女は元の世界に戻り
別個性になってしまったのを隠した

異世界と言う事もあり
メディアに触れられない様に
姿を隠した


それは子供の約束を守りたかったが故の事



「ぜったい、かーどさんのことは
だれにも、いわないでね!」

大人になった少女は、幼い子供の約束を飲み込み
口を閉じたまま、産んだ子に伝承していこうと決意した



【どうか、魔力に気付かないまま生きて
もし、魔力を持ってしまうなら
沢山の友達を創って幸せに】

あの優しい子供、”未夜”の様に

***


空気が歪む

世界を知ったからだろうか?

ふと世界を見渡した


地面は鏡張りになっており
其処から上にゆっくりと氷のような角ばった物が
ゆっくりと上がっていくのを観て、ふと本音が零れる



『ホントは、居たいんだ』


そう、本当はずっとずっと居たい
でもここに居ても
まだ集めなければならないカードさん達はたくさんいるし

緑谷君達にも報告したい事沢山ある、


それ処か、今フクちゃん達と闘っている最中だ
なのにこんな場所でノンビリしているのはちょっと駄目な気がする。



『(ねぇ、前に内緒で君におまじないをかけたんだ)』

それは少女が知っているだろうか?


少女にお辞儀をし、手を伸ばした



『さぁ!悪夢はもう終わり!眼醒めよう!』


座っていた少女は手を取り
私は少女の隣にあった椅子の上に上がった

向かい合うと意外と背はちいさかった
恐らく少女の頃なのだろう

離れられない気持ちに痛々しくなる心を
感じ取ったのか、少女が困った顔をした


『ー大丈夫だよ』

カチコチと、時計の音が聞こえ始める
その規則正しい音は此方に向かってくるように
次第に大きくなっていく


「ねぇ未夜ね、このカード知ってるの
君を求めていたから渡したいと思ってたんだ」

そう少女が手から創りだした時
私は目を疑った


縁取りが緑色で色が明らかに違う
形は箱庭のようで、風のような模様も見えた

「こー名前ーねー」


少女の身体から急に剥がされるように後ろに落ちる



手を伸ばしたが、少女も同時に引きはがされた様な印象だった



笑顔で大きな声で伝えてくれた



それだけが、嬉しかった。


****



フクが攻撃を放とうとした瞬間


瓦礫から大きな音を立て立ち上がった小籠に
観ていた者も声をあげた




もう体力はない筈だった
寿命さえも削った様に思えるタフなものだったが

目を開いた瞬間フク達はその威圧を肌に感じた
目の色が違うと言った魔女に対してフクも大きくうなずいた
心情の中で何かが起こっていたのだ

「ーお前、眼の色が、」

小籠は全てを、命を投げ捨てる様な者ではない


小籠の眼は茶色の様なシルバーに見えた
それは全く違う色
それは観た事無いような姿に


見とれていたフクたちの前に攻撃が入った

瓦礫の砂埃で声だけが認知出来る事に
フクらは目くらましかと油断していた気持ちを引き締めた


『古くから伝わる言い伝えとしか知らなかったの
どうしてあんな図書館が出来るのか不思議だったの』


風が舞い上がり、砂も何もかも無くなり鮮明になったが
フクたちは固まったまま目を見開いた事に不思議そうに見た緑谷達だったが
直ぐにその事実を目の当たりにする



『カード:マクベスの箱庭』

***


「まく、なんだって?」

それに大きく動揺を上げたのは審判をしていた
ミミズクの方だった


「ままマクベスの箱庭だと!?
そんそんな事が!在り得ない!ありあり
在り得てしまっー嘘ぉおお」


「あのーどういう事でしょうか?」

さらっと話を進めようとしてくれる
八百万ことヤオモモに感謝をしつつ
相澤ら先生方も心してミミズクの話に耳を向けた


「ーこの個性は、本来個性では無かった」

「え?」

「個性が個性じゃなかったらなんなんだよ!!」


「魔術を通し、魔術の”法則に基づき”カードに封印し
厄災を防いでいった話がある」


そのカードの主に命の危険があると判断すれば
カード達はその攻撃した者に呪いをかける



魔力を持ち苦しみ死を遂げるという呪いを



ヒュッと喉から声が上がる様な緊迫が場を包み込んだ


「ー純粋な魔力を持った者のみがカードを持ち扱える
その代わり、主と判断している状態で攻撃をしかけると
カードはたちまちと攻撃した者に厄災を放つ」

それは一種の防衛反応である


「え?じゃあ狼森死ぬの!?」

「いや、死ぬ処かー彼女は産まれ持って魔力がある」

それも純粋で、かなり強力な魔力を


「魔力を持つ者にカードは惹かれ懐き主と判断し護るのじゃ
個性として継承をするにはかなり素質が無ければ危うい」


「ーだから個性継承に死亡が多発しているのか!」


カードに敵視されたら最後と言う事に
いち早く気づいた緑谷は大きな声は出さなくても
案外遠くまで聞こえる様な声に
こっ恥ずかしくなり縮こまる気持ちで下を向いた


「魔力を持った者は魔術師と呼ばれ最も力のある者が
マクベスの箱庭を創り上げ使いこなす事が可能なのだ」





一方、フクに先制攻撃をしかけた小籠はというと

「はっぢいいいいいい!!!!!」


辺り一面と言うよりかは周りだけを熱い炎で燃やしていた
しかも火が青く、どう考えても熱い筈だった


「おいおい!俺達を焼いて食っても美味くな…?」

手で風を吹かそうとしたフクも気付く
これは

この火は”幻(イリュージョン)”の仕業であると


「来るぞ!!」

上から小籠が一気に攻撃をし始めたと同時に
間一髪で防御に成功したフクたちに舌打ちする小籠
それもまぁ大きな術を使用したのに
大きなダメージも与えられないのであれば舌打ちもするだろう。


然し、小籠の不安げだった目の色は今


オール「良い目をするじゃないか、狼森少女は…!」


強く、笑っていた








「ーただ、マクベスの箱庭には別名があってのぉ」


”悲劇の幕開け”という意味を持っている












《後書きスペース》