感傷を飾る窓辺

母は寂し気に少女に祈りを捧げた

どうか、この子が気付きません様に。

窓辺に置かれていた鍵が
風に吹かれたカーテンと共に
キラキラと輝いていた


+++++


『(嗚呼!君が傍に居てくれるから、
私は何度でも立ち向かえる勇気が溢れ出て来る!!)』

声を出さずに杖を使用して次の攻撃を打ち出す
幻を見せていた炎は揺らぎ本物の炎になる
敵であるフクたちを囲んだ後、綺麗に打ち消される事は把握済み

惑わせて惑わせて、その先に待っている物を
私はずっとずっと前から、望んでいた事を

今、想い出したんだ。


「っ、何故だ!何故箱庭に気付き尚動けている!!」


『ーおかしいのはこの場所だよミミズクくーん』

「ちょ、狼森さん!?」


そうゲートの中から飛び出して来た小籠に
緑谷が驚き、周りは一歩下がった

ミミズクは羽をばたつきながら浮遊しつつ
小籠はその上から下に見下ろしていた
少々冷たい様にも見えた目は
怒りを持っているのだろうか?


全員が観て分かる程、小籠の立ち姿が凛としていた

目を向けて指を指し話しだす

『良く私達を上手く箱の中にぶち込めたねー
偉いよ?逆に称賛に価できるよ?表彰状送ろうか?』

「な、何故!あの言葉を知っていた!!」

『ー逆に言えば”その言葉を知っている”と言う事になるけど?』


にやりと笑った小籠に対して
しまった!と言った上に青ざめた顔をして固まったミミズクに
「あちゃー」と魔女が苦笑いをしていた


『へー、あの箱庭を?君が全部管理していたって事だー』

「なな、それがなんだ!!普通在り得ない!在り得る訳が無い!
あの箱庭は完璧である!意思を持ち、お前が狼森小籠として
息をするわけが在り得ない!!」


何故ならお前は”この世界に生きてる筈が無い”のだから
「ーーーえ?」

その言葉に全員の顔がそっと表情が戻った
人に寄れば汗が出ている程で


今、なんて?と言いたそうな顔をしていた


それにニヤリと笑って観ていた小籠

『…やっぱりね、だから遠くの現象として立てれた訳だ。
まぁ完璧に物にしたって言う事だよね!?逆にー!!』

「いやいやいやいや!どうしてそっちになんだよ!!」

『いやいや、単に今迄人間じゃなかったって事だよ
アレだアレ、機械的な状態だったって事だよワトソン君』

「俺はワトソンじゃねぇーって!上鳴だってば!!」

そう反論をだそうとした上鳴とは違い
ミミズクが動き出そうとする

「ええい!ならもう一度箱庭に」

羽を片方前に出したミミズクに
ヒーローが手を出そうとするが
その前に全ての始まりの様に物が動いた



『ー知ってる?一度味わった物は、身体が憶えて居るんだよ?』

目の色が無い、と言った事はこの事を表すのだろう。


小籠の周りには全てのカードが浮遊していた
それも攻撃を仕掛けようと護る様に


『”子供”を守ろうとしたと同じ事、なりたくないよね?』

グッと止まるミミズクに小籠は大きなため息を吐いた

ミミズクに対し杖を元の形に戻した
手の中には、緑色のカードが優しく握られていた


**


「あ、あれ?あれだけおかしい気がする」

「‥色が違うわ」

小籠の持っていたカードに気付いた生徒に
フクらもミミズクの方に集合した


「お前ー何処まで知っている!」



『‥この子が子供だった頃から、と言ったら分っかーーるぅ?』


嬉しそうに、否これは子供が悪戯をするような気持ちだろうか?
声が上がり、小籠がべろべろばーとちょっかいを出す


「小籠!!お前そのカード!」

そう言ったフクに突撃をかました小籠に
腹を抱えてもがきかけてるフクが鉄拳を食らわせた


かなり痛いダメージだったのだろう
小籠の方が地面に近く、いや寧ろ身体を擦り付けていた

『フク、今迄本当にありがとう。苦労かけたよねー』

「…小籠?」

『えへへ!彼女は、否”私”は本当に素晴らしい素質を持っていたんだね!』

ーもし、君が未だいや
生きているのだろう?聞こえているのだろう?

実は幼い子供は魔力を多く持ちすぎ
厄災を振りまく程に恐ろしい存在になりかけていた

力を分散しなければならない程
恐ろしかったある日、知らない身なりも
余り宜しくない子供が降って来た

その子には悪いが生贄となる予定で
その子も力を持っており、幼い子を連れ去ったのだ

村は嬉しく小躍りしたが、両親はとても心配した
然しある日記憶を全て無くした子供が現れたのだ
それも魔力も落ち着き、生贄が成功したと勘違いした
村は大喜びで宴を三日三晩続けた


その子の名はこう呼ばれていた


神の申し子”狼森小籠”とーーー


+++

全てを知った様なミミズクに小籠はニヤリとした後
カード達に静まる様に命令というよりかは
宥める様に優しく声をかけた


『さてさて?どうする?箱庭事件一時休止すっから!
そいじゃ元の場所にー』

「ーすまんがもう終わりじゃ」


‥ほい?


***



主人公絶体絶命の時と
少女との時間軸が交互していく
そして主人公が苦痛の全てを声に出して答える

これでもう終わりなのだと
これから始まるのだと
また同じ時間を繰り返していくのだと

然しその時間はずっと進んでいるのだと
君は私、主人公の幼い頃の時間だったのだと


子供は私、主人公の生まれ変わりなのだと

+++


時間は終わりを告げた

ダラダラダラと困惑した顔の小籠に
フクが対応をする

『えええええええ!!!なんでぇえええ!
終わったのなんでえええ*( *** )*おわた?おわたなんぉお?』

「顔文字を使うな!お前此処の言いつけ守れよ!!」

『そそそーんなことしらなぁーいもおおおお!!
つか話逸らすなよおおお!』





緑谷「狼森さんはあんな戦闘方法もあるのか。
なら隠密や戦闘切ったり出来るし、色んな場面で色んな方法で応用出来る個性?
いや、個性とは言って居なかったけどある意味継承系の個性と言っても間違いではない?」

「一応言って置くと継承系個性である
と言った方が君らの言葉で言えば
分かりやすいかもしれないね」

どういう事?そう聞いた人にこたえるミミズク
彼の言っている事はこうだ


小籠から言う処のおじいちゃんのそのまた上の代
ひいじいちゃん辺りの個性が二つあったそうだ

一つは個性をカードに出来る個性。
そしてもう一つが
「個性を誰かに継承出来る個性」


緑谷・オール・爆豪「「「!!!」」」

その言葉に緑谷や爆豪同じくしてオールマイトの顔が強張った
継承系個性はかなり稀だと言う校長に、ミミズクは話をつづけた

なんでも「飽きた」そうで
…ん?あきた?

「飽きただけで継承出来るのぉ!?」

「そうやってのけてしまったのが狼森小籠のひいおじいさんだ」

呆れた顔のままフクロウは話す

気まぐれすぎるお爺さんらしく
何でも個性目の前にして「飽きた」
と言ってカードに入れずレア過ぎる
個性を見逃してしまった逸話もあるらしい。


緑谷「(いやいやいやいや!どう考えても
気まぐれを越えてるでしょーーー!!!)」

そう全力でツッコミたい気持ちを心の中で抑えた緑谷に
内心フク‥ミミズクは称賛を心の中でたたえた

それにフク・・ミミズクは言葉を続ける


「然し継承とは言っても初の人間にするには困る
というわけで彼らを適当にカードを使っていたら創れて
彼らに全て任す事にしたのがあの個性のなれそめだ」

「つまり…適当にしてたらカードの個性と継承系の個性が
ごちゃ混ぜになってしまったのを、フクさん達に
全部投げやったっと言う事でしょうか?」

ビンゴです!!
そう声を出したのは意外にも小籠本人だった
近くと言うよりかは最早壁に足を付け
壁を創ったり防御してなんとか無傷で居られている時に
話をつまんだらしい…

一体何処にそんな集中力があるのか
詳しく聞きたいところなのだが
本人は少々というかかなり忙しい身なので話が出来ない



『あっっの、ひい爺ちゃん、
そのお蔭で人間に個性付ける時には
フクちゃんらの試練全て超えないと大人になれまテン!
って術までかけやがったんだよ!このやろー!
速く胸と身長を大きくしやがれぃ!!こごちゃん!』

「それが目的!?ってこごちゃ」

んって誰?そう言おうとした緑谷の前に小籠の叫んだ方向から
キラキラと光りながら人間が現れたではないか
その非現実な世界に少女が緑谷の方を振り向いて笑った


髪色は黒で、目の色は一瞬緑色に見えた
頭部上を半円を描く様に赤い線が纏っており
服装は至って普通の小学生が着ている様なパーカー姿

髪型ですぐに女か男か判別出来た

緑谷「(というかおかっぱじゃなかったら
絶対男に間違われるだろ…!!)」



?「あいよ!れっつ?」

キョロっと周りを観た後ニヤリと笑い高いソプラノ声で
少女が合図を出す

『「ごー!!」』

そう合図にgoサインを出し動き出した二人に
敵であった人の動きが遅れる


「す、すごい…」

「桁違い。」

そうお茶子たちにもわかる程、押していたのが分かった
が、それに大きな反論を出した人物が居た

爆風を巻き起こし怒りを表していた
目がギラギラと光っている


「…お前は、何て事を物にしているんだ!!」


何故怒っているのかにミミズクが説明をする


「彼女は今乖離を取得してしまったのです。」

「かい、り?」

ヤオモモ「乖離とは…その物事から背き、離れる事ですわ」


「彼女の心は未だ曖昧。手を染めてはならない場所。
ですが彼女の表情をご覧下さい。」


ピコっと現れた画面上に小籠の全体像と顔が映っている
その顔は、まさに勝利を確信して…いや

相澤「この状況を、楽しんでやがる」


「そう、狼森小籠はこの場所が楽しいと感じています。
箱庭から飛び出してしまった事もまた、乖離現象です。」

乖離現象は通常在り得ない事なのだが
小籠はそうしないとこの現状を打破できないと理解したのだ
そして禁忌に触れた、溺れる事を、望んだ。

けっして悪ではない。だが余り宜しくない。
グレーゾーンな事は分かっているのにも何故

そう考え付いた時、ふと言っていた事を一人が口走った



「『”溺れて見たいけど、自信が無くて出来ないんだ”』って前に」


「そうか!狼森さんは”敢えて”乖離現象を引き起こしているのか!」

どういう事?とお茶子や梅雨が聞いてくるのに
冷静に判断し説明を開始する


緑谷「通常の攻撃だと、どう足掻いても立ち向かえないのは明白。
なら次にどうやれば勝てるかって話になってくるんだけど」

「悪い事はヒーローらしからぬ行動だ!!」

そう飯田が言う事に違う、と緑谷は落ち着いて前を観た

小籠がまた、嬉しそうにドームの中で戦い始めた
その眼の中を、声も音も無かった、箱庭と呼ばれる場所の世界を観て


緑谷の中で一つの導きに辿りついた
それは、本当かは知らないけど
それでも、あながち間違っては居ないのではと思ったのだ。


「もし、狼森さんが僕らが観た箱庭の”女性を護ろうとした”のなら
狼森さんがいい聞かされていた言葉の殻も破ったんじゃないのかな?」


例えそれが、悪い事の予兆になったとしても
それでも彼女は変化を求めたのだ

もう二度と、戻れない事を分かった上での決断
それがどれだけ重大な事は彼女が一番知っているだろう


「なら、どうして小籠ちゃんあんなに嬉しそうに笑って居るのかな?」

「それは…」



『それはね!デク君!麗日ちゃん!!』


そう大きな声を出し、炎の中に飛び込みだした小籠に
不味いと思った守護者が怯みを見せた

その一瞬、小籠は少女に手を伸ばし、杖を使い
カードを使用した


するとカードから風が産まれ、一時的にではあるが
炎で身が焼かれることは無く、そのまま前に出た


『其処に在った事実だけは残るから!』


例えそれが、記憶として亡くなったとしても
嬉しい事も哀しい事も、全て出会った事実は残る
それだけが嬉しいと笑って居るのだ

『だからね?だいじょうぶなの!
そりゃちょっぴり不安だよ?』


「なら何故貴方は笑って居られるの?
というか今戦闘中じゃ」

少し首を傾げた小籠はきょとんとした顔をしていた
言葉を理解したのか、嗚呼と低い声で答え笑顔で
少女の方に目を瞑りながらお辞儀をした



『それでも君が私を望むから』


だから平気なのだ。
そう小籠は微笑むかのように笑い目を開いた



ー何処か目の色がお互い緑色に見えたのは気のせいだろうか?
そうオールマイトは感じたが、直ぐに小籠が行動を起こした



そっと少女の手を放し「突き放した」
驚いた顔をしていた少女に、小籠は寂しそうに笑って、感謝を述べた



ありがとう



その言葉を放った後、顔はすっと真顔になり
また攻撃をフクたちにしかけていく

近距離攻撃に小籠がカードを使いファイトで応戦し始めた中

何で?と寂しそうにする麗日に
プロヒーローの声が上がった


「…あの子は本当に昔っから馬鹿なのよ」

「貴方は…!」


「他人に嬉しそうな笑顔と好奇心を見せ、その奥は身内にすら見せない。
それでも、限られる人と限られた時間の隙間で、あの子は素顔を見せる。」


ーごめんね、って言わないで。


「ー寂しい気持ちを、好奇心や世界が押し潰してくれるだけで
それが寂しい辛いなんてもう、彼女は思わない位置に居るのよ、たまごちゃん」


「え?」


「あの子はどんな時も、同級生より先を見据え、イメージをし
そのイメージ通りに動いていく子…本来は余り良くない子供よ?」

「…悪口ですか?」

「ええ!私を糞呼ばわりして、軽く蹴ったり、
叩いたり、本当に腹が立っても断ち切れないわ!!」

そう怒っていた女性だったが、直ぐに小籠の叫び声に顔を上げ
心配そうな顔は小籠のキラキラ輝いている顔を観て、微笑んだ


「ーそれでもあの子が大好きだから。信じてあげるの。」


大丈夫、何度倒れ挫けたって、貴方は貴方らしく居られる

そういった女性は麗日の元に歩き出した

背後で「うりゃー!」「このやろー!」「むきゃー!」と言った
悲鳴処か最早ヤケクソになっている声が飛び交うが
それが遠くなる程、麗日は女性の姿に見とれていた


「あの子はとっても臆病で優しい子なの
貴方達が思って居る以上に、とても純粋。」

その瞬間少女が魔女の方に向き
カードを使って攻撃をし始めたではないか
それに意外と思っていた四人に対して小籠と少女は隙に入り攻撃を入れる

何という連係プレイ。
乖離が何故駄目なのか、逆に不思議な位である。
通常のデータより明らかに此方の方が上
それはプロヒーローと並べて行動しても文句が無い程で


小籠と少女の優勢が一目瞭然であった



「あの子はどんな逆境だって最後は笑って心を躍らせるの
何を心配する必要があるの?」


あの子がどんな時間でどんな哀しみを持っていたとしても
それは変えられないし、感情も知る由もない

其処で緑谷は気付いた
嗚呼、この人は狼森小籠をこよなく愛し
こよなく信じている事を


「彼女は前を向き始めた。これは奇跡に近い事よ。
…今迄ずっと引きづって泣いてばかりだったのに」

「ーえ?泣いて」


?「小籠ちゃん!!」

そう少女が高い声を出して小籠を呼ぶ
それに反応し、小籠は二手を繰り出し三手を別の方向から来た
フクに向けた




「ねぇ、本当に分かっているのよね?
君がもう二度と君として生きられない事を」




そうぼそりと呟いた言葉に
気付いた者は誰一人居なかった
《後書きスペース》