まぼろしを整える

『私はね!!カードさん達皆好きなの!
どちらかなんて選ぶのはもうウンザリだから!』


そういった小籠の体力は底をついている筈
それでも彼女は、傍に出て来た少女と共に
フクたちの前に立ち向かおうとする


その状態を続けるのも無意味かと思った魔女は
一つ言葉を投げた


「ならば、何故わらわや皆の者に攻撃を仕掛けない?」



「…え?小籠ちゃん、攻撃してたんじゃ」

「いや、幻と言う物で、基本的にカード本来の攻撃は使用していない
体力の底が付いていると”みせかけている”だけなんだよな」


そう言った獣に対して小籠の表情は硬いまま
目で誰かを殺せる様な気もし始める
そんな時、ふわりと少女が小籠の首元に腕を巻いて
宙から浮かび上がったではないか


「…大丈夫、忘れない。私も居るから」

『ーううん、大丈夫なんかじゃない、だから私は作られたんだよ』

ーねぇ、どうか教えて。

小籠がカードを手に取り前に出し
空中に飛ばした

ーどうか、忘れないで。

空気を思いっきり吸い込み、ありがとうと
少女に礼を言った後、術を叫ぶ

ー例え、忘れて、二度と思い出さなくても


『主の前にはだかる全ての者を取り囲め!』



ーどうか気付いて、そして嘆かないで


『承認”ストローク”!!』


ーだってこんなにも、君は素敵なのだから。


?「僕は君を認めよう」


パキリと氷にヒビが割れた音が
カードの外で広がり、カードから勢いよく
白い風が攻撃を仕掛けていた守護者の身体にまとわり
そのまま身体全体を覆い尽くした


?「君は何もしなくて良い」

フクは目を丸くした
まさかこんなことになるとは思わなかったのだ

「こんなアクシデント、思える訳が無いだろ…」


?「君の中心だけが、世界なのだから」


ふわりと心地よい風に瞼を閉じるフク
正直このままでは駄目な事は分かっているのだが
そんな事よりこの状況にしたカードの存在に
驚きが止まらず、思考が固まったまま動かないのだ


『…ゆっくりお休み』

そういった小籠の首元には少女が
その背後の斜め上には
少年のような姿の人間が浮いていた

+++


『いやー死ぬかと思いましたよーマジでホントに』

ぷシューと言った音と同時に小籠が声を上げた
そう頭をかいている傍に飛び出し、抱きしめた人が居た


「…ったく、ホント馬鹿」

『えへへ、ごめんねぇー良くご迷惑をおかけしております』

そう優しい口調で言った小籠に驚く○○
何時もはそんな感じで話さない
そう言って話していた時期が、在った

「え?嘘…そんな」



それは、そんな時期は”二度と戻れない世界”のお話。

確かに在った現実のお話。

小さな子が嬉しそうに微笑み、OOに
『好きだよー結婚するー?』
と爆弾発言を飛ばしていた

それを鵜呑みに捉え、ずっと一緒に入れるのだと
嬉しく喜びで尻尾を振っていた、あの頃が脳内を過った


OOの思考は他の声で現実に引き戻された。

クラスメイトが驚き慌てふためく人や
そんな事は出来ないと正論を叩き出す者もいたが
○○の笑い声でその声も消える

「・・??」

「ふふっ…お帰り!」

『えへへ、ただいまぁー。ミーネさんはお疲れモードですおー』

そうグダグダと小籠は○○に身体を摺り寄せながら
奥から帰って来た者に軽く文句を言う

「んな事言ってもだな、試練だから仕方がないだろ」

そうため息を吐いたフク、炎すら出せなくなった獣姿の○○
魔女も姿は元の姿に戻っていた


校長「…で?結果はどうなんだい?」

「…合格、と言った処ですかね」

その後叫んだ人間をとりあえず相澤先生がシバク

「あら?じゃああの色んな話は結局なんだったの?」

そう聞いて来た先生に小籠は怠そうにしつつも
髪の毛をかきながら説明をし始めた


『うちのカードの話を簡単にするとですね
今リメイク版を捕まえてる途中でして
そのリメイク版に在る筈がないカードが今取れたんですよ』

「それが”ストローク”って事?」

頷いた小籠の後、ミミズクが話を続ける

「カードには元素が組み込まれており
火、水、土、風、光、闇の六つが大きく分かれています」

「ストローク自体が心理学用語ですよね?
それに乖離が入ってくるのがイマイチ理解出来ませんわ」


苦笑いするミミズクとミーネにフクも困った顔をしながら
フクが今度は答える


「ストローク自体が”異常”なんだ、僕も驚き過ぎて
ちょっと想像が越えて困ってるんだがー」

「まさか私の魔術形式を使って攻撃してくるとは
おもわなんじゃ・・」


そう困っている魔女に小籠はヤッタゼといった
悪い顔のまま、今度はミッドナイト先生の方に向かった


『とりあえずご視聴ありがとうございました!
無事に帰って来ましたよー!!』

PPP


それから腑に落ちないまま、困惑した緑谷は
一度フクと呼ばれていたフクロウを訪ねる事にした

時間はその日の深夜二時、とてもじゃないが
聞きに行くには遅すぎた


「(けど、今聞かないと困る)」

幸い明日は祝日、小籠が前に言っていた事を思い出す


フクたちと会話したい時は決まって単純
彼らの名前と想像した人間を想えば良いだけ。


「(フクさんフクさん、聴こえて居ますか?
少しお話がしたいのですが)」

深夜のキッチンも少し見える人が集まる場所とは
怖い一言で表せない何かがある。

それはきっと、観えないような人間が居るのかもしれない


「ー僕を呼んだ?」


そう、彼ら(守護神)の様な存在もまた、そうなのだろう。

++


「で?話とは?」

「今日の事です…あの、狼森さんは!」

「あいつなら何事も無かったかのようにぐっすり眠ってるぞ
…ってもアレからずっとだがな」

午後からずっと、と言う事はもう軽く八時間は経過している
其処まで寝るだろうか?と思った緑谷を察したフクは
ため息を吐きながらソファーに座り、人間の姿になって会話をする

「個人的には、正直気が早過ぎる様に感じる」

「気が早過ぎる、とは?」

同じく緑谷もソファーに座り彼の話を聞く体制に入った
それに少し頷いたフクは話を続ける


「乖離とは、そむき、はなれる事を指すが…時に緑谷君」

ー君は誰かから個性を受け取ったね?

そう言ったフクの眼は至って普通の眼に見えるが
何処か何かを知っている様に見えた

そんな事は無いと緑谷は慌てる事無く
手を横に振るが、フクには分かっていた


「観た事は無いだろうが、あの黒づくめ…
ああお前らから言ったら相澤先生と言った処か」

「(黒づくめ!?)」

そう驚いていた緑谷だが、その後とんでもないことを聞いた




「あいつの個性、主には全く効かないって知ってるか?」



***


「え?嘘…ですよね?だって、今迄効いて」

そう、授業中でも少々殺気だったりしたこともある
その時、焦るなと相澤先生が個性を発動すると
彼女の手持ちは全て消えていたのだ


もしそれが…”彼女から引いていた”としたら?
個性では無いと言う事が明白になって来る

「(待てよ?個性じゃなければ一体なんだ?)」

この超人社会、個性無くては無個性と言った部類になる
だが小籠のやっている行為全ては個性そのものだ
血液中の物ではなければ、彼女は一気に「無個性」とのレッテルが張られる


それが嫌と言った様な雰囲気は彼女から観られない
寧ろ「無個性でも人間だよね?」と言ったあっさりした性格だ
温厚で少々慌てる小動物系の彼女はヒーローにふさわしい存在


「”木を隠すなら森の中”というだろ?」


その言葉で緑谷の中にあった事が少し解消された

そう、狼森小籠は個性に似たような物をあえて
”個性と偽っている”事で、息をしているのだ
無個性とは言い難いそのカードの存在
それは正しく個性に等しい


「え?じゃあどうして彼女は‥」

「審判の話か?審判自体は君もやっただろう?」

受け継ぐという行為、それがカードの場合
少し緑谷の個性からしたら多く、少し残酷なだけの事。

そう言ったフクに緑谷は何が残酷なのだろうと疑問を抱いた
ふと「死んでしまう」と言ったのを思い出した
然し彼女は全く問題ない顔をしていた

それよりも、闘っている時の方が寂しそうに見えた


「お前には声が聞こえただろ?何故言わなかった」


ドキリとした緑谷
そう、お茶子たちとは違い、緑谷は声が全て聞こえていた
それも聴こうと思っていたのに、なんて思っていたが
答えを返したほうが無難だろう


「…オールマイトも、僕と同じ顔して、目が合ったんです
僕達だけ、聴こえているのでは?って」


オールマイトからデクは個性を受け継ぐ様に
狼森小籠も親族からカードを引き継いでいる

その共通点だけで小籠の全てが見えた

ふわりと静かで暖かな、時間。
その場所に居ればもう何も要らない幸せな時間


「どうだった?あの人の感情は」

「…凄く、寂し気でした」


嬉しそうに笑って、ずっと居ようという女性
でもそれでは駄目だと小籠は言う
泣きそうな顔をして、君を幸せに出来ない私は悪魔なのかと

そんな事は無いと女性は言うが、小籠の決意は変わらないのかと聞く
変わらない、だからこそ場所を観るのだと

何度だって君に出会うと、二人は離れ離れになる
胸が締め付けられる感覚に浸った
あんな感覚は初めてで、眠れなかったのだ


「そう、だろうな」

「狼森さんは、ずっとこんな感情を持っていたんですか?」

寂しくて、辛くて、でも傍に居て、でも傍に居る訳が無くて
傍に居ると信じれるのは頭の中夢の中奥深くで
現実には言えないような言葉や感情が秘められていて

「…嗚呼、だから乖離現象が出て来たのだろう」

辛くて苦しくて、それならいっその事逃げてしまえば良い
だが、小籠はそんな事を望まなかった


それこそ酷く寂し気に呟いたのだ
”ありがとう”なんて苦しそうなお礼を

「乖離とは、そう言う事だ」

離れ過ぎず、だがずっと手放している位置
小籠はカードを、特に今日得た物が
一歩違う位置に動いただけの事だった

それが悪い方向に向かなければ良いのだが…




場所は変わり、小籠もテストが終わったと言う事で
一時的に部屋に戻り、睡眠をとる事になった頃
フクはというと、相澤らと共に教師が集まっている部屋に入っていた

+++



「また何故、死なせるような方法を取って試験を?」

「単純に此れ位で死なれてはカードを護る主としても
此れから先人生を生きられないと理解した後
ずるずる人生を引きずるより手っ取り早いと思った迄です」

それは何時もやっている事
まぁこんな異常事態はかつてなかったのだが


「乖離現象は悪く言えば”二度と元に戻れない神の域”になる」

「…かみ?」

「人間として生きて居られなくなるんですよ…本当にこんな確率
非常に稀な事で、数ミリも油断ならない事態だったんです」


「だが禁忌と聞いた、それはヒーローにあるまじき行為だとも」


「逆に聞きますが、貴方方はあのような存在を
直ぐに消し去り、無かった事にしますか?」

ヒーローにせず、居なかった事に等
犯罪そのもので、出来た処でどうなるというのだろう

「僕は正直、彼女がどんなことになっても
生き延びなければならないと思って判断しました」

「それが不合格にしなかった理由かい?」

いや、違う

「彼女は必ず、この世界にとって
非常に必要な存在になってしまうと思ったのです」


嬉しそうに笑う、少女を
非条理な現実にたたきつけられた時
絶望の色を灯し世界を崩壊させてしまわない為に

「幸い彼女はそれなりの慎重と正義感を持ち
加え秘めたる力に気付き尚普通に振る舞っている」

これ以上の逸材は居ないと判断した


「オールマイトの様な存在に?」

「いいえ、地球その物を維持するかの存在に」

そういったフクにまわり






嬉しい姿は表の顔で本当は哀しくて堪らない様に見えた
なら彼女の本当の夢は叶うのだろうか?

いや、かなわない
かなうわけがない

だからこそ少女は産まれた。
一度閉じ込めてしまい、何処にも行けなくなった子供。
大事にしていた子供を、自分を解き放っている時間。


この今起きている時間が彼女にとってかけがえのない時間であり
彼女にとって夢のような時間であるのだ。
叶わない筈の時間が別の意味で救われている。

例えフク達を攻撃して、道具に使用されて居ようとも
その末路が無残な事を理解していようとも


そうして小さな瓦礫に降り立った小籠
隣に浮かんでいる少女に優しい声で質問を投げかけた


『…ねぇ、もしもこの先、何方かが生きるってなったら
君は生きたい?それとも』

ねぇ、もしも何方かが死んでしまうというのなら
君は生きたいと我儘を言い駄々をこねるのか?
もしも、生きる事が一番の地獄だとしても
それでも、君は、それでも、尚(なお)駄々をこねるのだろうか?

それでも君は笑って手を上げるのだろう?
いいよ!って嬉しそうに他人の為だと言い聞かせて
他人の笑顔の為に、自己犠牲に打つ


「いいよ?君が笑って過ごせるのなら
私は傍に居ようとも眠っても別に構わない
…だって私はそうやって”生きて来たのだから”」

パパとママから得たかった感情を繰り返して。
力にし、世界を見続けるのだ。


そう言った少女は小籠の方を向いて微笑んだ
哀しそうに、笑った顔に
小籠は涙を流した



『…好きだったよ?ずっと、”君のままで居たかった”んだよ』

「うん。私も。でも君が君で無いと
”此れから先の狼森小籠が死んでしまう”
だからこれはしょうがない事なの。」


本当に決定事項で良いのだろうか。
二人で生きていくと言って
一人にならなければならない時に
物として貶してしまうなんて





「…それって、辛く、ないのかな?」

お茶子のそのふとした言葉に緑屋も頷く

「それは在り得ない、狼森小籠は
ずっと悪夢を感じ続けたのだから
辛いを超え、愛おしいと感じ、
その先「諦念(ていねん)」という場所に彼女は辿り着いた」

てい、ん?

「爺さんが卒業する事だろ?」

「それは定年、諦念とは物事の通りを正しい方向で
観た上での状態を観る事の出来る心を持っているって事よ。
…嗚呼、ごめん、難し過ぎたわね」

軽くおバカ三人組が少々砕いた解説に
頭を悩ませている間、簡単に言うと、とやおももが解説する


「Aさんの中にBさんが居て、AさんはBさんの
状態全てを正しい事で理解している心の事ですが…
もう一つの意味もありまして」




「お前は全てを諦めたのか?
前の世界も今の世界も隣にいる彼女の全てを!」


諦めの気持ちもある事を、除いてはならない。


『嗚呼、諦めて捨てて捨てきれずにずっと置いて
放置しまくった結果がこれだよ!…でもそれで良かったと私は思ってる』

今とても現状良いとは言えない状態だからこそ
昔の情景が頭の中をゆっくり過っていく
そこにずっと笑って泣いてくれた少女が

今傍で協力してくれている。
私はこのままで良かったのだ
絶望を何度も繰り返した結果

絶望に耐えられる力を手にした


”この感情が壊れようが
また元の地点に戻れると信じる限り”



















本領発揮後半
そして少女は女子になり女性になる






空中ではフクが有利、そうでなくても
幻系、風、火、土は全て守護神が有利だ

なのにもかかわらず使っているカードは全て不利になるものばかり

なのに彼女は酷使している身体が悲鳴を上げている筈なのに
カードを使い危機を乗り越えている


「乖離現象はデメリットが多いです。強い攻撃は出来ますが
同時に精神と身体の体力消費量が馬鹿になりません。
諸刃の剣と言った処で間違いではないのです。」


「(そのままで居られるのは、
おとぎ話の中位…ってお前も分かっているだろう?)」

小籠は唯々嬉しそうに目を輝かせて立ち向かってくる
重い一撃…否

思い想い一撃を

反応に風を使えば必ず物理的な物を使ってくる
それだけでは駄目だと言うのに…いや?
何かおかしい、そう感じたフクに小籠の口元が笑う


其処でミミズクに相澤が質問を出す


「…何故笑える?あんな状況で、苦しい筈だろうに」

「彼女は分からない現状が可笑しくて堪らないのです。
其処こそがひいおじい様から継承された決定的な事!」

「狼森小籠は誰かを助けられると想い誰かの笑顔を
思い浮かぶだけで多くの感情が渦巻き次に向ける力を生み出す」

だからこそカードも大きく反応し強さを増していく
少女もそれにこたえる様に行動を共にする

然し少女と言うそのカードは”存在しない”。
少女はあくまでも”昔の狼森小籠その人物”なのだ
なら分からない。と別の人間が声をあげる

何故そんな土壇場を使ってでも勝利しようとするのか。
それにはミミズクが項垂れた
そんな顔を見せたのが一度も無かったのに

「…彼女は余りにも継承者らし過ぎるのです。
継承者ではないと失格になれば身体は消滅してしまい
貴方達との記憶も全て無かった事にさせられるのです」


「は?」



本領発揮前半
カード全使いいぇえええ《後書きスペース》