魔法には種がある

「結果発表だが…まぁ言わずもがな」

『え?不合格?不合格なの?私不合格だったら泣くぞごr』

速攻チョップが入り黙れと言われた事を
理解し、何も言わなくなる(正確には痛みで言えないのだが)


「合格だ、此れからも宜しくな。」


「「やったあああああ」」

そう後ろが声を上げ小籠を潰さんばかりに
抱きしめたり頭を撫でまくったりして
本人が叫ばないと静まらなかった


「点数で言えば98点じゃな」

「え?そんな高いの?」

「逆じゃぞ?−点じゃ」

『それ私不合格じゃね!?
何で合格なのそれ・・あれ?待てよ?
覚醒、カード、死亡…うっ頭が。』


「感じている通りなんだが、簡単な話
”死ななかったから合格”って処だな。」

逆にあれ程の魔力を使い果たした上で
攻撃を続け防御も取り、息をしており
尚且つ無駄口を叩いている程
気力があるだけでも素晴らしいらしく?

小籠はタンカで横になった状態で
胸に両腕を置いて首から上だけで会話をしていた


フクが推測を図っていた時は遡り三時間前
小籠がカードを取得した数分後に
ダメージを食らったのか、倒れたのだ







「動けないのは仕方がないよな?
部屋に戻ってゆっくり休むぞ」

『待てマテ待てマテ!今ちょっと
”食事したくない症候群”真っただ中だから!
確かにこのままなら全治三か月だけど!!』

外側では時が止まり、室内のみ時間が進む
治癒関係には持って来いの場所があり
またその場所に戻ると言ったフクに
全力で拒否をする小籠

まぁ小籠が言う様に実際生活していくと
全治三か月なのは確かだが…

「安心せぇ、あの場所なら長くても
此処に帰って来れるのは三日後じゃあ」

『それ現在の一時間が何日計算ですか!?
私あの場所の本は全て読みましたけど!?』

「其処ら辺はお前の友人の力を借りたらどうだ?
ほら、創れる奴が居るだろ、お嬢的な奴が」

『やおももですね!?お前ら忙しい人達に
時間割かせるなよ!嗚呼!って顔すんにゃぁああ』

最早ツッコミが追い付かない。
そう涙と鼻水を高速で流す小籠に対して
やおももは別に問題ないという顔をしていた。

小籠が好きな方向性さえ言えば内容が
あやふやだが本も作れなくはない。

そう言った後だが、校長が
「金目当てにしなけりゃ
図書館の本を借りて行っても良いよ!」と言ってくれた。
勿論膨大な量になりそうなので
何人か手伝って頂ければとても助かる。



と言う事で


「うひょー!!なんだこの部屋!すげぇな!!」

『部屋に人が複数人出入り良く出来る様にしたね。
誰だよ出来る様にしたのは

私だ。私だよ。
コノヤロー好きだよな皆の事、
そうだよ皆大好きだわこのやろー』

そうブツブツ呟きながらも
相澤先生に優しく抱きかかえられながら
一階の簡易ベット(此間本棚を裏返したら出て来た)を取り出し
身体を移動させて貰う

ありがたやー。

「にしてもこの量一人で読んだのか…?」

『あはは、まぁざっと半年程経過してた筈だからね…』

「あの小籠さん、一つの本棚に付き500冊程入れる量ですけど?」

一体どんな速度で読み倒したのだろう?
彼女の頭もそうだが、素晴らしい事この上ない
そんな彼女の部屋には「多分ここら辺は好むな」
と言ったフクの独断と偏見でクラス全員で半分程の本棚の量を
埋めてしまった(約:3000冊)

この量を流石に読みつくせる訳が無いと
緑屋は思っていたのだが、なんとなーく
小籠が遠くから見た後言い放った



『うん、半年あれば読める量だよね。』

「だから何でそんな速いの!?」

『のめり込めば何とかなるよー、
それよりも私事に力使ってもらい感謝ですわー
凄く助かったよー。』

いやいや、100人中99人が死ぬような試験に
良くその1人として耐えられたよな、と
全員が彼女の力に驚き呆れるしかなかった。


「それにしても、何であんなにも過酷なのかしら?」

「実際過酷には人それぞれじゃよ、カエル殿。」

とても楽に過ごしてきた者なら楽な方向性に逆もあるが
特に辛いのが、「絶望と快楽の強弱」が恐ろしいらしい。
何が恐ろしいとは、精神的な意味であり

「その絶望に8割耐えられない、いや、
耐えられる訳がない方向迄この悪魔は持っていくからな」

「ちょーっと捻るだけじゃろて…じゃが
此処まで意地になっても歯も経たんかった奴は初めてじゃから
仮に死んでも蘇生させとったのぉ。」

『私を勝手に殺さないで欲しいけど
そのまま殺したままにして欲しいよねって
色々ツッコミが追い付きませんので喋るな馬鹿』

そう切った小籠に対してクスクスと笑う悪魔、もとい魔女に
なんだかんだ言ってとても良い関係ではないだろうか?
そう緑屋やお茶子は感じ取った

それ以降、小籠は終始休養に入るらしく
本人曰く「誰か一人借りれるならずっと居て欲しい」
と言って居たが、長時間の滞在になると
逆に耐性の無い緑屋たちには酷だと言った
フクにたたっ切られて終わった

いやまぁ然し


「絶望って、そんな直ぐに解決するもんか?」

「峯田ちゃんちょっと黙って」

そう舌で峯田の身体を縛る梅雨ちゃんに
半笑いで答えを考えた小籠

確かに、絶望を直ぐに解決なんて出来ない。
そう言えばどれ程の時間が此処まで流れたのだろう?
考えなくても、途方もない量を繰り返した事は確かだ

『まぁ、解決も何もしてないんだけどね。』

「え?してないの!?」

『でも、目を向ける様にしたの。
背け続けていた私からしたら、漸く進んだ時間で素敵よ?』

幼い頃から時間は止まっていた程で
勿論数十年の単位の為、直ぐに等解決もしない
唯、感情は大きな変化を遂げた事は確かだ。

『あれ位全く苦じゃなかったよ
…両親が目の前で消えて無くなる位』

「え?そんな…」

親が居なくなり、消えて、殺される程迄
様々な悪夢を観ていたと言った小籠に
そんな夢を見せられていたとは知らなかった
一同は空気が冷えるのを感じ取った

と、同時に話を振った本人に目を向けた

「あれ?でも慣れてたとか言って…」

『うん、実際は”無理矢理慣れさせた”んだけどね。
今はそんなに言う程苦しくも辛くも無いしなぁ。』

「と、ほざいておるが、実際は耐えれんものじゃ。
全く、あれ程を”慣れでこなす”等、どれ程己を痛めつけた
時間が長かったのか…考えるだけでも億劫じゃ」

『あはは、褒め言葉として預かりますね。』

とても褒められたものではない事を成し遂げてる小籠
それを知った上でこうして話をしているので
また肝っ玉が大きい事この上ない

そう何度目か分からない魔女のため息に小籠は笑った


「とりあえず暫くは絶対安静だな」

『えー多分私無理ですー』

「安心しろ、その生きるマグロの様な小娘に相応しく
新しい新機能が付いてる部屋になってるからな此処は」

待って、私とひいじいちゃんらその他諸々の努力に
何故守護神らが勝手にひと手間二手間加えてるんだ

そう心の中で鋭いツッコミを入れ
黙れとフクに一括されている小籠の心情を
知る者は数名でしかない。

だって守護神と小籠は意識を強く持てば
意思疎通が可能なのだから(ほぼ守護神の力である)



+++

「じゃ、またな!」

『おう!(…にしても、騒がしい時間があっという間だったなぁ)』


パタンとドアが閉まり、小籠のみの空間になる。
フクたちはこの事を何人かに報告しに行かねばならないと
そう言って私をこの部屋に閉じ込めた

(手前には『私を一人にしていくのね!何故私を連れてかない!!』
等と叫んだりしていたが。
勿論動けないのは目に見えており、却下された。)


『(傍に居て欲しいと願い手を伸ばしても居てくれない)』


ただ「傍に居て欲しかった」だけなのに。


簡単な話、幼き日々から叶わないプロ野球を夢描いたが
腕を痛め絶望した後、何とか生きる希望を見出し
プロ野球に近い様な立ち位置で
ずっと生涯仕事を続けていくような話で


小籠はベットの端に座り今日あった長い長い時間を振り返る


『(‥あの子は嬉しそうに笑って居たなぁ)』

傍に居てくれた少女の姿を思い浮かべる
あの子は確かに隣に居てくれたのだ
笑って、傍でずっと、居てくれた


その現実が、唯々嬉しくて笑みが零れた

だが同時に気付いたのだ

『(何故気付けなかったのか、それが一番の敗因だろうなぁ。)』

ベッドに頭を預け、目を閉じて幼き頃の情景を思い起こす
少女は一体私の背中を何年、何十年

何百年と観て来たのだろう?


『…私も、そう言えば、背中ばかり見てたなぁ。』

父も母も、面と向かって接してくれた記憶が正直薄い。
いや、薄い処か殆ど無い気がする

少女は私が感じていた感情全て、それ以上を得ているのかも知れない。
そう思えば、もう少し少女を早く気づければ良かった。
どうか、此れからは笑って居られたらいいと願うしかない。

まぁ、私も笑顔で居る様に務めるが。


『君が、寂しかったなんて、気付けない私は』

どれ程愚か者なのか、お茶子ちゃん達は知らなくて良い。
私が通常の人間が生活する以上で苦しく辛かった事を
知ったとしても、この愚かさと、この感情は知られない。

だって同じ人なんて存在しないのだから。


『…君が、笑っていたら、私も笑って居られたかって』


そんな、同じ様に笑える訳が無いのに
それでも私は望んでしまったのだろう。
その空間がそれ程、愛おしく感じて

それ程、報われたいと願った私が
その時だけでも生きていたのだから。


今、その小さな芽吹き出した種が
スクスクと良い方向に向かえば良いと思うしかない


「…お主はちと考え過ぎる傾向があるのお」

『‥まぁ間違ってないかな』

何時もは違う等否定をしていた小籠だが、今日はそんな気にもならなかった。
あの膨大な時間を思い出した上に解放された記憶の奥底に触れた



それは即ち、本当の自分を観たという事で



「その気持ちはお主本人で間違っておらんぞ」

『…こんなに』

か細い声が上がる



こんなにも弱い人間だったのか、と

その言葉に眉間に皺が寄る魔女らに
フクはまぁ聞けと彼女の言葉を促す


『でも同時に思ったんだ。
"どうして其処まで素直で優しい"んだって』

「!!」

眼が丸くなった魔女にフクは頷く

『彼女は言ってたの』


それは小籠の祖父が、否先代から受け継がれていた言葉だった

"どうか君がふと笑って生きれる程幸せでありますように"


その言葉は、知っている限り小籠の祖父が小籠に対して
話した言葉は一度も無かったはずだ

なのに小籠は開いた
それは記憶というより夢の中からなのだろう


『そんなの、私が一番望んだ願いなのに、あの子ったらさ
‥想い出した途端「嗚呼同じだ」と思ったんだ』

似た者同士、ではなく、本人だった、のだ
そう知った後なら普通「嘘だ」と言い否定に走り逃げる

だが小籠は違った

それは恐らく、その"昔"からなのだろう


「小籠、何故僕達に攻撃を仕掛けれた」

『…単純に生きる為、それと』

ただ、あの子を救いたかった

そう言った小籠の眼は泣きそうな目で
抱きしめてあげたいがグッと我慢をしたフクに
他の者が言葉をかけた


「救えたか?」

『いんや、救えなかった…ひょっとすれば救えてるだけで
私がそう望んでいないだけなのかも、だけどね?』


それでも、私は満足していない。
そう小籠は言う

何処か遠い場所を観ている様な眼で


『此処が始まりだよ、そう此れから凄い事が起きていく気がするの』


何処か不安で、でももう心配なんてしなくて良くて
でも気を付けて居ないと足元をすくわれそうで
そうならない気もして、不安定なのだろう

そう分かった上での言葉選びをしようと考える小籠に
充分いい子だと魔女は声を上げる


「お主の観たあの少女がお主自身だったというのも頷ける
何故ならこんなにも素敵な人間なのじゃから」

『むぉ?私そんな綺麗な人かな?』


そうワイワイとし始めた小籠達にフクは少し二階に上がり
月明りの出た場所の壁際に身体を寄せ月を見て呟いた


「…現段階のカードは半分程、一応は順調だが
予想外のカードが増えてきていると言う事も観ておかねばならない」


通常に無いカードというのは元々決められている
それをあやふや、否多めに彼女には”告げた”



「何故なら本来は"15枚"でしかないのだから」

そう知った処で、彼女の適応力には驚かされて止まる物はない
今回観た少女、否神の申し子だった【小籠の前世】を観た瞬間悟った


「秘めたる想いが今になって開花している」

《後書きスペース》