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「おいおいおい、嘘だろ…」

 そうギィが目を丸めてぽかんと口を開けているのも、目の前に起きている現象を見つめていたから。

「…お前を、私は絶対に許すことはない。」

 轟々とその瞳の奥に燃え上がる炎が、ミルの中にずっとくすぶっていたものが、今見えるように。ただジッと悪魔ランパスの前に立っていた。

「へぇ…其処まで出来るんだ。」
「あいつ…死んだな。」
「え?」
「おいミリム、あとリムルお前ら全力でこの結界に加えて更に結界脹れるか。」
「んお?出来るが…何故だ?」
「話は後だ。今は時間が惜しい。他のやつらも出来るだけ強力な結界を張れ!巻き込まれて死にたくなければな‼」

 そう言ったギィの言葉に何が何だかわからねぇがやってみるかと言ったカリオンに各々も頷いて円になる。ミルの身体から徐々に濃い魔素が広がっていくのに、ずっとニヤリと笑って気味が悪い。

 あれ程戦いは怖い、出来れば戦いたくないと言っていたハズの子がだ。今は戦いたくて仕方がないように笑っているのだ。間違いなく…

「ありゃ絶対心の底から怒らせると不味いヤツだな。」
「そうなのか?」
「みてりゃあわかるさ。」

 ニヤリと笑って居た彼女が、手を顔に当てて離した後。綺麗な笑顔で、にっこりと笑って居た。微笑んでいたのだ。先程の魔素も綺麗に消えて…まるで

「なっなんだよ‼戦わないのか⁉」
「いいんだよ?別に戦っても、私の身体を壊す予定はない筈だろうけど?」
「なっ…貴様……」
「ほぉら、私は貴方の駒だよ?此処に貴方が喉から手が出る程欲しがっていた物がある。」

 そう言ってミルは背後から大きな樹木を生やし出したではないか。其処に実っているのは赤い綺麗な果実で、白い衣服を着ている者が、真っ白な髪の毛の人がミルの為に果実をひとむしりして手渡そうと動く。

 それに手を伸ばそうとしたミルに、狙って取って来た。

「っははっはああああ‼お前の覚醒はコレが必要なんだろう⁉」
「っうぁ⁉」
「俺が食ってやる、俺が‼」

 そう言ったランパスに、本当に嫌そうに顔を青ざめ手を伸ばす。それに生成している彼は齧る。ひとかじり。その果実の名前を、ミルは問う

「その、果実の名前…知ってるの?」
「嗚呼知ってるさコレは【覚醒の果実】どんな願いも一つだけ確実に叶えてくれる神の食べ物だろう⁉っははは、器として選ばれた貴様がコレを出して食べる瞬間をずっとずっと見張っていた‼ようやくこれで俺がお前の、なり、かわ…」
「…ねぇ、ランパスよ。お前は悪魔が人をどれだけ殺したか知っているか?」
「あ?」

 そう止まったランパスにミルは両手を手のひらを前に出して十人だと答えた。

「たった十人なんだよ。悪魔が殺したのは。対して神は何人殺したと思う?」
「何の戯れだ。」
「お前に殺される憐れな人の情けを欲しがっているんだよ?聞き届けてくれないのか?もう二度とこんなことは起きないのに。」
「成る程…嗚呼良いだろう、俺は今非常に気分が良い。そうだな、神は願いを叶える存在だろう?殺しなんてしない。」

 それがお前の答えか。そう言ったミルの笑みはニヤリと不敵に笑う。一体何がおかしいと叫ぶランパスにおかしい以外のほかはないといった。

「だってだって…あんまりにも可哀想過ぎるんだから。」
「な、んだと…⁉きっっさま‼」
「嗚呼、可哀想。現実を真実を見つめられないで、ただその確実に在り得ない幻想の中に微睡んで、いや幻想はただの幻だからこんなものもっともっと酷いものだよね。」

 お前が食べた物は、確かに私が今まで恋焦がれて願って縋ってやまない食べ物だったよ。そう言ったミルが前に進む。ニヤリと笑ったまま、ただ恐ろしいと感じさせる。

「私は怒っていないよ、同時に悲しんでいない。憐れだと思っているんだよ。嗚呼可哀想嗚呼可哀想過ぎる。貴方は私の慈悲を想うことすら許されないというのだから。」
「何の話だ‼こっ…は?」

 攻撃を仕掛けた筈だった。だというのに、右にぐいっと逸れたではないか。恐ろしくなって、もう一度振るが綺麗に避けられる。魔術を使って攻撃もしてみるが。

「っな、何故だ⁉何故当たらない‼」
「可哀想」
「っ止めろ‼そんな目で俺をみるんじゃ…っ‼」
「嗚呼…気付いちゃった?」

 可哀想。そう言って口に片手を開いて押し当てる様に笑うミルに、一体何が起きているんだとリムルはギィに聞くが

「ギィ?」
「……まずいな。」
「かっっんぜんに怒らせる相手を間違えたのだ。あいつ、もう死ぬことすらできないぞ?」
「え?なんで⁉」
「なぁギィ、あの果実ってアレだよな?」
「嗚呼、俺もおとぎ話みてぇで絶対存在しねぇと思っていたが恐らくそうだろう。」
「一体何の話だよ!」
「【覚醒の果実】それは神の情けとも呼ばれる一つだけ願いが叶う幻の果実だ。それは力に器に選ばれ、今まで生きていた時間を全てを奪われて何も残らない者に対しての情けを込めた魔法の果実。」

 それが今、目の前で作り出されて手に取られた。そして齧ってしまったのだ。

「観た感じじゃあ既にあいつは喰っていそうだがな。」
「え?」
「神は二百万人の人を殺したんだよ。」
「…は?」
「悪魔はたった十人対して神は二百万人の人を殺した。人は神に祈ってはいけない、悪魔に祈り捧げなければ救われないのに、人はそれを知らずに願いを続ける…それを分かっていた者は別だがな。」
「お前は…一体何者なんだ」

 顎を引いて、ただニヤリと笑って居たミルが真顔に戻る。

「私はずっと前から気付いていたよ?七夕って知ってる?年に一度だけ恋人が会う物語なんだ。サンタクロースって知ってる?年に一度だけ冬に願い事のモノが運ばれてくるんだ。」
「何を」
「嗚呼私は、いや僕は知っているんだよ?七夕で願ってもサンタに祈ってもだぁれも望みなんて願いなんて祈ったって叶いやしない、叶う訳がない望みを‼私はずっとずっとずっと祈り願いただ縋り続けている……。」

 憐れやと思わないか?情けを出さなければと思わないか?叶わない願いを永遠に伸ばして縋ってただ望み続けているのだ。情けを貰って当然と思うだろう?嗚呼でもそんなものも必要なんてないと分かっていたのだ。

「お、まえ、まさか…まさかそんな」
「お前が食べたものは【覚醒の果実】じゃあない。【非情の果実】なんだよ。ランパスよ。」
「【非情の果実】…?」
「ほぉら、私を殺してごらん?ほらいっっっちばん憎たらしいんだろう?」

 駄目だ、そう思ったランパスが攻撃を止めて自分の首を切ろうとするが、術も発動しなければ身体が止まったことで再確認する。顔が青ざめて、ただ身震いしている。

「っなぜ、何故だ‼何故‼」
「嗚呼…可哀想。」
「っ煩い、煩い煩い煩い‼殺せ‼殺せよ‼」
「お前は私に成り代わりたかったのだろう?ランパスよ。なら別に譲ったって構いやしないさ。その代わりその【時間】を耐え続けられるのであればの話だが。」
「あああああああああああああああああああああ」

 そう叫ぶ奴に、ミルはニヤリと笑ったまま少しだけ距離を取る。嗚呼可哀想と嬉しそうに、恐ろしい笑みを浮かべたまま、うっとりとしている。

「可哀想だねぇ、辛そうだねぇ‼どうどう?叶わないよねぇ?神様に願っても祈っても叶わないねぇ⁉嗚呼可哀想に。助けたいとも思えないんだから可哀想だよ。」
「っぐ、っで…」
「一体何が起きているんだ?」
「私が説明してあげよう。」
「っうぉ⁉ちょ、み、ミル⁉」

 そう急に苦しめさせていた張本人がリムルの隣に飛び出してきて一同驚き少したじろぐ。安心しろお前らにはしないと言って。

「あの果実はね、一つ齧れば一つ願いが確実に叶わない呪いの果実なんだよ。全部食べると何処に行っても叶わなくなるし、まぁ私全部食べちゃったけど。」
「は?」
「だから私は例え魂が消されようが、何をされようが戻って来てしまう。それはその【一番】を望んでいる状態が永遠に続いているから。」

 一番が永遠に叶わない呪いの果実。そう言ったミルに、じゃあアレはと指をさすラミリスにミルは答えた。

「一番を望んでいる状態だからだよ。大方私のことを処分しようとして出来なくて気付いてすぐに死にたくなったんだろうが、望んだ瞬間発動する上に撤回は出来なくなるからねぇ〜嗚呼可哀想〜〜〜‼」
「うっっわ…あんた鬼か悪魔か何かなの?」
「どれでもない存在なんだよねぇ。あとギィさん、跪かなくていいよ。そうされるの嫌だから隠してたんだよ?」
「…ですが、それでは申し分が」

 そう丁寧な言葉になったギィに少し睨むミルに、目を丸くした。

「ならば…この者達を守れ。」
「はっ」
「えっ?えっ⁉」
「すんごい泣いてるから私は戻るね〜あとギィ」
「はっ」
「私、まだ完成していないから。」

 そう言ったミルは元の場所に戻る。それにどっと疲れたのか跪いていた身体を崩す。

「っあ〜〜〜べぇな。」
「何々何なのよ‼」
「お前ら知らねぇからそういれるんだろうな…知らぬが仏っていうのは本当らしいな。」
「ん?」

 さぁ、戻そうか。そう言ったミルに目を向けた。両手を広げて嬉しそうに笑って居る。先程から怒る所は見えて居なくて、逆に恐ろしい。

「っひ、た、たすけ…」
「情けない。情けを与えた筈なのに、何故其処まで憐れなんだろう。まぁ普通の平凡だから仕方がないのか。ほらほらもっと頑張れ〜私結構早かった方らしいんだけども。まぁ今もずっと持ってるけどね。」
「は…?おい、待てコレを…ずっと?」
「えぇ、そう…ずっと。」

 にちゃりと笑うミルに、更に顔を青ざめるランパスに、ミルはニヤリと笑ったまま続ける。

「お前が今感じていることも全部だよ?」
「っこれは地獄か‼夢か、そうか全部夢の」
「違うよ?此処は現実だ。」
「…っ」
「同時に夢だよ?」
「は?」
「そう、現実であって現実ではないもの。だっておかしいだろう?死ねないなんて「在り得ない」願いが叶わないなんて「在り得ない」そう言ったら変わるかな?」

 指をさしておいでおいでと手招きをするミルに、背筋が凍る思いが出て来る。リムルは気付いたのだ。その真実を、現実を、この事が恐ろしいことこの上ないということを。

「ま、さか…そ、そんな‼お、おれはそんなことのぞんでなんか、っていうかお前も望んでいなかっ」
「そう…望んでなんかいなかった。それが逆に願いが叶うということに気付いたからだから私はあえて望んだんだよ?」

 嗚呼、どうかこの願いが叶いますようにと。

「お、鬼かお前…」
「鬼さんは好きだけど鬼にはなれないかなぁ〜。」
「夢でも幻でもないなら此処は一体なんだって言うんだよ」
「言われないと気付かない?ほらほら気付けるはずだよ?否定なんてしないで?もうお前の心では確定されているだろう?」

 まぁ言ったら本当になるから言いたくないんだよな?でも逆に言えば思えば解けるかもしれないよ?そう救いの手を差し伸べるミルに、そんなはずはないと首を横に振る。

「それこそあり得る筈がない、お前が選ばれるなど、そんなこと、在り得て良い筈がない‼何故お前は其処で笑えられるんだ!くるって、狂っている‼狂っているんだ‼」
「そうだよ。私はもう、人にも悪魔にも…神様ですら成れない。」

 狂った悪い子なんだよ。そう言って泣きそうに笑うミルに、ゾッとしたランパス。この先を思い知らされたように。

「…俺は、一体これから。」
「お前はもう物語の一部になっている。まがいなりにも果実を喰らっているんだからね。吐きだしても齧った行為がある以上離れられないよ。」
「そんな…俺は、どうして…」
「さぁ選ばせてやろう…その願いに殺されるか、私の願いに殺されるか。」

 どっちがいい?って言っても。

「選ばせるなんて出来ないんだけどね?」
「っああああああああああああああああああ」

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