たぶん木曜日

「おはよう」

『おはよう』

名前は、呼ばず。
まるで月曜日に戻ったみたいに
話が進むのも無理はない

彼女が誰かに助けを求めるなんて、今までなかった。

感情が現れる一方、非常にまずい自体となっている

と言っても、八木の方はすこぶる良く、寧ろ記憶は殆ど
思い出したのでは?と勘違いするほどだ。
ヴィランの奴に一度会って殺したくなる気持ちを抑えつつ
今の現実を過ごす事に集中した。

「あいつ、マジで笑わねぇ…」

「う、うぇーい」

「昨日の今日だから、ほら…」

そう八木がどうどうと彼らの落ち込みを励まそうとするが
あいにくの雨。木曜日の昼休み

八木と元気にしようとしかけた
上鳴、切島、芦戸、尾白、瀬呂、葉隠が話を進める

「小籠ちゃん、笑ってたね」

「無理に笑わなくてもいいんだけど…」

「何とか周りに迷惑を掛けたくないから、だろうな…」

女神と呼ばれた小籠、魔術師
呪いと言ってもおかしくない程の約束に
周りを巻き込まない様に何とかやりくりしていた
彼女だが、今回に関しては特に度が過ぎていた

「ねぇ、カードってさ、昔は集めてたの?」

「…いや、見た事がない。
カード自体あれほど動きまくって取っている姿も、」

彼女は個性としての能力と言い聞かせるように
自在に操っていたから

それは、彼女が一番知っていることだろうが
カードを取得していたとしても
カードを取得してからのことだとしても

「どちらにせよ、今までなかった経験で戸惑っているように見えたな…」

「なんかいいアイディアねぇのかー!!あいつが喜びそうなものってよ!!」

「えー、小籠ちゃん、食べ物っていうか物に興味すらないから…」

「昔からないね、彼女。」

"えー?いいよ、おめでとう。で私は充分だから。"

そう困りつつ首を傾げながら笑う小籠を
八木は思い出していた

「でも、何かあるでしょ!なにか〜なにか〜うーーー」

「ね、オールマイト。」

「ん?」

「狼森さんってさ、その約束?の餌って言うと表現悪いけど、その」

「代償のことかい?」

「そう!もし、代償が今回多くなくて、厄災が来たなら…代償を有り余らせる状態にすればいいんじゃないかな、って」

おおーと周りが騒ぎ出す
八木も少し考えてはいた

彼女が落ち込む姿を目撃する前は全て楽しい時間が起きた後だ
火曜日は何もないに等しかった…つまり
彼女が望んだ時間が、"代償"の対価と同じ、それ以上だったから?

「なら盛り上がるようなこと沢山しねーとな!」

「でも小籠ちゃん、何好きだろうね?」

そこで振出しに戻る、所だった

「小籠と何年一緒に居たと?」

八木がにやりと笑う

++++++++++++++++++++++++++++

「小籠ちゃん!一緒にご飯たべよ!」

『え?』

「ほらほら!」

そう困惑しつつ、逃げようとした小籠をよく追いかけてきたな。
そう八木は顔から汗がダラダラ流れつつ、行く末を見守っていた

「小籠ちゃん!こっちおいで!」

『え?え??え???』

「小籠ちゃん〜!ごめん後でここ教えてくれる?」

『えっ、ちょっと待ってw分かった!分かったから!
上鳴君、芦戸さん達とごはん食べてから!
尾白君は上鳴君と同時にやるから!』

後はだめー?との声に"時間がねぇだろうが!"
と、やや…否大分口が悪くなるのに、焦りで言葉が出ない事に
少しほっとした八木

上鳴達が考えた作戦は、こうだ。
まず芦戸達が楽しいごはんの時間を作り、
上鳴、尾白と、とにかく話していない人間で
尚且つ人と複数人以上居させて考えさせることによって
そもそも考えさせないようにすることだ

まぁ大分ヤケにならない…ように見ている、のだが…


「火、噴いてますね」

「あはは、困った少女だね。」

「仲間に入らなくていいんですか?」

「…今日は、学生同士で盛り上がって欲しいからね。」

貴方も今は学生でしょうに。

いいや、これでも中身はおじさんだよ。

そう教員の二人は笑い、今一番笑って欲しい人を見守っていた


+++++++++++++++++++++++++++++

今日絶対考えさせない編成だろ
そう頭の中で思った時刻は夜の9時寝る寸前だった
しかも、隣には八木がいると来た

『いや相澤先生よ。性的にまずくない?』

本人のグッジョブ姿が脳裏を横切る
どうやらA組だけでなく、教師も絡んだらしい。
…これだから人に助けを求めると、面倒になる。

昔から人に助けを求めるのは苦手であり、しない行為だった。
だとしても、助けを求めて救われる可能性は少ないし
あったとしても、此処まで…

「徹底されているとは思っていなかった。」

『…呼んだな?』

「ははっ、君がまさか受けてくれるとは思わなかったけどね」

私の部屋だけ、とは難しい為、とりあえずと
フクが相澤先生に呼び出し…う、うん。
作業を手伝うとの協力のもと、数日用の二人部屋が屋上に作られた。
普通に消し飛ばせる状態にも出来るように、と
八百万や能力のある者にも手伝わせ、3時間で作らせたものだ。

個人的にはとてもお世話になり、申し訳ないのだが…

「彼女だって物凄く満足していたじゃないか」

『まぁ…』

八百万は「今まで出来なかった範囲まで
作れるようになり、本当に嬉しいですわ〜!」
と、自分の手柄の様に喜んでいた。
まぁ実際作ってもらったので、手柄であってはいるのだが…

「まさかヴァルク達の許可がおりるとは思わなかったけどね」

『まぁ殺そうとは思ってたっぽいですけどね』

よくもうちの子を手玉に取りやがって。
いやいや、手玉にってどこで覚えたよ。古いわ。
そう軽いジョークの投げ合いで最後は幕を閉じた

…軽いジョークと思っていたいのだが。

「さ、寝ようか。」

『うん』

パチン、電気が消える
目を閉じたくない。
そう感じているのが伝わったのか、八木が話しかけてきた

「大分周りにも打ち解けたと思うんだ」

『おじさんじみてない?』

「こら!酷い、思っている事を…って!違う!そんな話じゃなくて、」

『…うん、』

今日の話。昨日の話。一昨日の話。
昔の話を置いておいて、今まで起きた話をしてくれる。
嗚呼、この気持ちは、何て伝えたらいいのだろうか。

「…眠った、かな?」

すやり、そう見える小籠の目は優しく、
良い夢を見ている事を願った

今日は本当に万全の態勢で彼女を喜ばせた
授業でも各教員が彼女の指名や、彼女に率先して話しかけてくれたり
生徒たちも彼女のそばから離れずついてくれた

そのおかげで疲れたのか、目の前に人がいても
ゆっくりと眠れている

何かを考えて悪いことが起こるのなら、
悪い事を考えなければいい。

その尾白作戦は大成功したのか、
一切不安そうな顔をしなかった小籠
今も何の夢をみているのか、気になるほどの優しい笑顔だ


「−で、終わると思う?」

「っ!お前は!!」

音が何もなかった。
なのに、小籠の詠唱もなく、単体でカードから出てきた。
フクたちに話を聞いてはいたが、カードが独断で出てくるのは
きわめて稀である。ない筈の事が現実に起きている

八木が小籠の傍から離れず、彼女に危害がない様に身体を覆う
その体制に、今回は何もしないさ、と声を掛けた

「!!…君まで出てくるなんて、愛されてるんだね、」

カードに。
そう言った彼の目の先には、カードたちの姿があった
グルート、クヴェル、シュツルム、カードとして
攻撃をしていた者たちが姿を出し、ゆっくりと眠っている
小籠の周りを囲み威嚇していた

この子に危害を加えるな

そう言っているように見えるその姿に
鼻で笑う天使と悪魔の翼をつけた青年


「ここの人間にすっかり毒気を抜かれてまぁ…」

「お前が昨日小籠の…」

「だーから喧嘩しないって、昨日は仕方がなかったんだよ。」

仕方がない?そう聞いて怒りを感じたのか、
八木だけでなく、カードらが膨張する
それに小籠の声ですぐに縮こまった

起こさせず、眠らせておくべきだ
その判断は懸命だと彼は言った

「ここまでカードを集めて、維持出来るなんて見た事ないよ」

「え?」

「今までの代でも一番長いね。」

そう言った彼に、八木は質問をした。
この子以外の、魔術師は、何人いたのかと

「継承者はこの子で8代目だよ」

「この子で…」

「継承をすれば、ある一定期間の年齢は維持される。
成長もしなければ、人としてかけた状態こそが始まりであり終わり。
魔術師でも此処迄カードを集めて、動かす事はこの子で初めてだ。」

今までだと、同時で動かしても身体が裂けたり、
力を使いこなせず身体ごと消えたり、と
厄災に対応する力があっても長生きをしなかったらしい

「自分に降り注いでくる者を、自分の愛情で包む。
こいつのカードとして入る時に感情を受け取るんだ
"どうかそのままでいて"ってね。」

そのままで。それは彼女の一番の望みであり、叶わない望み。

「こいつは酷い位に優しい、それは狂気だ。
それをこいつは分かった上で使っている。
魔術師としては完璧な人間だ、だが」

人間としては、生きるには短い。
それを言った彼に、八木は質問をする

彼女が、生きれる時間を分かるかと

「知ってどうする?」

「変えるさ」

一日だけでなく、もっと長生きするように調整する

「お前達が日々立ち向かっている人間との厄災とはわけが違うぞ?」

「協力するさ。その為に人は多くいる。」

彼女の寿命は、


「18で幕をとじるよ。君は知ってるだろう?死に際を。」

「っ!」

「お前はこの子が死んだ時間を知っている筈だ。
その代償に、お前が長く生きられた。」

願いは、悲しい。

ーお願い、どうか、この人を!この人を助けて!!

ーその為には、私の命と、記憶…この人の記憶から私の記憶を全て

ー全て、渡すから。

光り輝く姿はまさに天使のよう
小籠の言った直後、彼女の胸に一つの筋が入った


ーっ!!アステル!!アステル!、小籠!

ーば、か。ヒーローが、公共の、場で、名前、ダメでしょ

ー馬鹿!なんて願いを!!君が居なければ、私は!!!

ーだめ。生きて。その、願いは忘れるから。

ーっ!!駄目だ、小籠?おい、小籠!!小籠!!!


「こいつは、代償を支払った」

ーやめろ、やめてくれ、頼む、頼むから

ーこいつの全てを、忘れたくない!!!

「お前は、何を代償にする?」

「…私は」

『ダメ、サセナイ』

目を赤く光らせた小籠に八木は驚いた
直後、彼の身体を捕縛が入り、粉が舞う
恐らく眠り薬だろうが、彼以外が嗅げない様にしたのか
淡い緑色のシールドが身体を覆う

「相澤君!ミッドナイト!フク!君まで!!」

「嫌な予感がして見張っていて正解でしたね」

「私の予感当たってたでしょ?」

「嘘つけ、今まで何故此処に居るのか問い詰めていたくせに」

そう白目でみるフクに、ミッドナイトが失礼だと文句を垂れる
その声が小籠に入っていないのか、小籠の力が入る

『今、ナニをシヨウトした?』

「おお、こわい。ただ話をしていたんだよ。」

『感情を取り込もうとしただろう、誰がそんな許可をダシタ?』

目の色は赤く染まり、翼の色が変化し、悪魔の羽になる
髪の毛から角が生え、本格的な悪魔になりつつある
その姿に、フクはまずいと判断した

直後ヴァルクが空から小籠に槍を突き刺す


「〜ぉう、やっぱ!だめか〜」

「ヴァルク!!小籠!目を醒ませ!!!」

『オマエが、クダソウトシタノカ!!!!』

槍は貫通さえもさせず消え、小籠の右手に力が入る
その間に彼が姿を変え、捕縛から離れる


「ーごめんね」

その女性は、真っ黒というより茶色の髪質
声が少し低く聞こえた気がするが、優しく、
ずっと聞いていても煩くない

『っ!』

「ーごめんね、ダメなの。許して。」

『っや、』

赤い目が元に戻る、処か髪色は黒くなり、目の色も茶色になる
女性に似て、綺麗な人だった

「ーパパがいい?ママがいい?」

『っやめて、いや、どっちも、』

「ーごめんね」

その言葉に小籠の目から涙がこぼれる
殺気は失せ、泣きながら
ごめんなさいと繰り返す

壊れたビデオテープのように何度も何度も
その丸まった小籠に、女性が話す

もう、ゆっくり休んでいいのよ。
そう言った彼、否彼女に従い、小籠はびくともしなくなった


「一体、」

「この子の核さ」

「かく?」

「魔術の核。この子の一番の源さ。」

それが、女性。女性から元の姿に戻った彼に
小籠の姿も元に戻る

「可哀想に、両親に選ばせてもらって、
答えがずっと出ないまま死んだんだね。」

「離縁する前から両親の中が悪かったらしい」

ヴァルク?

すやりと眠る小籠の頬を撫で、ベットに寝かしつける

「仲が悪い上に子供の教育をおろそかにした。
愛情は自然と抜け落ち、感情を一時的に失った。」

「…」

「彼女はその時間を大事に保っていた。
壊れたビデオテープのように、繰り返した。
謝ったのは、彼女が言う事を聞かなかったから。」

いう事を聞いていれば、ずっとそばに居てくれる?
そう父親に相談をしたのも、きっかけらしい。
酷い顔だった。記憶を覗いた身として、申し訳なかった。

そうヴァラクは嘆いた

「この子はそれ以降、人との繋がりを恐れた。
離れてしまうのを、傍にいてくれないのを。
だから愛情は無くしたままだった…なのに、」

この子の感情を、魔術が喜んだ

千年に一度の逸材。そう呼ばれた

「だが、本当はこんな呪いを解き放ってほしかった。
というか何度も話した…なのにこいつ毎度言うんだ」

"私、この時間が好きだから"

そう、地獄よりもひどい時間を、天国だと言って
彼女は笑って幸せそうに答えるのだ

その姿に、八木は、周りは落ち着きを取り戻した

「こいつの笑顔が望みなら、どうか変な事はしないでくれ」

お前はこっちに来てもらうからな。
そうヴァラクに言われ、強制的に
アンヘル・カイドは連れて行かれた。

「…何も、無かった」

「悪い事が起きなくてよかった、か」

果たして、本当にそうなのだろうか?
彼女は、

「…なぁ、今、幸せかい?」

八木の言葉に、小籠は少し笑った




たぶん、木曜日


《後書きスペース》