人は、必ずしも前を向くとは限らない。
誰かが言っていた。
人生は長い道路みたいなものだと
標識があって道しるべがあって
間違えないように進む子や
そもそもそんなものもない子や
人それぞれ違うものらしい。
「(彼女は一体どんな道なのだろうか)」
そう、緑谷達が帰って来たあと
飯田は強く感じていた。
小籠が記憶を失っている。
その事実を事情を知ったのは昨日の夜だった
ー先生、小籠ちゃんはここに残ってくれるの?
ー狼森の除籍処分は考えない。
ーそれは今手放すと危険だからですか?
ー嗚呼、同時にあの個性は
「(1番叶って欲しい願いが個性を殺す、
なんて事実考えたくもない。)」
きっと昨日言った言葉は嘘だ
だって彼女はその事実を嘘と思わせる程に
普通にしているのだから
「(だが、まさか願い事が)」
「飯田君?」
ん!?そう飯田が驚き飛び跳ねたことに
困り顔で謝ったのは後ろから声をかけた
麗日お茶子だった。
「昨日のこと?」
食事中に考えることでは無いな
そう考えた飯田は頷きもせず微笑んだ
「ちょっと付き合ってくれないか?」
そう麗日を呼び出す飯田に
目の前で食べていた緑谷も頷いた
「…個性が、死ぬ?」
人はいつかは死ぬ
だが個性が死ぬ事は余程の事が無い限り
死ぬことはないはずだった
小籠はその例外的立ち位置にいる
「嗚呼、昨日狼森君の話を相澤先生から説明を受けてな。」
「でも今日話したけどなんも、」
「狼森さん言ってたよ」
私の記憶は何度でも甦るさ、と
それは覚えて居ないけど
何とか思い出すことが出来る意味なのか
「どちらにせよ精神的にも来るものがだな」
「小籠ちゃん、1人で抱え込み過ぎてるんちゃうかな」
いつ見ても明るい彼女は
いつしか、麗日の目標になっていた
成績は普通より上で、誰とでも仲良くでき
愛想も良ければ個性に恵まれている。
なのにも関わらず、彼女は自分達がみている
姿すら偽っていた…
いや、本性なのかもしれない
「記憶が無くなって、クラスの子に迷惑をかけるからって僕に頼んで来たんだ。記憶もないのに僕のことを知ってるかのように」
「じゃあ!」
「でも、違った」
ーね、君はクラスの子を知ってるでしょ?とっても詳しく 。
ーなんでそう思ったの?
ーんーとね。
君はとても周りを見る感じがしたから。
「そんな」
「狼森さんは直感で人を見て判断する力が
いや、その力でどんな環境も乗り越えてきた
のかもしれないな。」
「人の事を信用してないって最初は私思うとった」
いつも小籠は窓の外を眺めて
ふとした時に笑うのだ
その笑顔がたまに寂しそうにしていて
話しかける時はチャイムが鳴っていた
「でも小籠ちゃんは先を読んでた」
「先?」
「小籠ちゃんってさ、何処に居ても
普通に見えるように動いてるんだと思う。」
例え記憶を失ったとしても
誰にも迷惑をかけないように。
まるで誰かに約束されたかのように
彼女はずっと守り続けている。
「小籠ちゃん今日話してたけど普通だった。」
何時もの様に、笑って、傍でたわいもない話をしていた
女子高生がするような話であるのか分からないが、
クラスの男子の話や、駅前のクレープ屋さんの話とか
本当にたわいもないありふれた話で笑う
その姿が、普通の女子高生に見えない訳がなかった。
なのに、夜になると別人になる。
目は赤くなり、気配が大人びる
全く違う目付きに、戻れなくなるのではないかと不安になり手を伸ばす
すると彼女は悲しそうに笑って大丈夫だよとあやしてくる。
まるで此方の心が手に取る様に分かる。そう言わんばかりに
頬に手をあてる
「でも、夜が朝になると、ケロッとしてて…まるで、小籠ちゃんじゃない感じで…」
「麗日君…」
小籠の個性は無個性だ。
それを知って、周りの人間は嘘だと思っていた。
だってあんなカードを扱うなど
個性ではなくなんだと言うのだ。
「…狼森さん、凄く笑ってたけど、きっと我慢してるんだと思う。」
「…?」
「最初もそうだった。笑って声掛けてくれて、こっちが笑うと緊張していた糸が切れたみたいにくしゃって笑ってた。」
不安なんだろう。彼女だってまだ高校生だ。
何時から時間が止まっているのか分からないが
恐らく高校生よりもっと手前で引っかかってる。
「麗日さんは怖いんだよね?狼森さんが友達だと思ってたら違うくて、今までの時間が無くなった感じで。」
「うん」
「でも、きっと狼森さんはずっと考えてると思う。友達だったら傷付けてないかな?って」
そう言った緑谷にお茶子は目を開く
風がふき髪の毛が揺れた為、手くしで髪の毛を直す
「私小籠ちゃん所行ってくる!」
「なら僕も行こう!」
麗日君や緑谷君はお友達だとしても
僕はそんなこと言ってもないから。
そう言ったクラスの委員長に
お茶子と緑谷はお互い一瞬だけ目を合わせ
彼の言葉に返事を返した。
「小籠ちゃん!」
『ん?』
そう言った小籠が居たのは休憩室
オールマイトこと八木と二人で
仲良くサンドイッチを頬張っていた。
いや正確にはハムスターが種を口の中に
頬張っている様に食べていたのは狼森小籠の方だ
『ふぉおしふぁお?ふぁふぁふぁーふ?』
「いや、何となくしか分からないから…皆して何か用事かな?」
「…あの、えっと」
いざ目の前だと、何を話していいのか分からない
それはきっと狼森の気持ちも分かっているからだ
《後書きスペース》