「小籠、剣を出せ。」
そう言いだしたのは、土曜日の夜の事だった。
小籠が首を傾げ困惑する場所はヒーローとしての育成場の
とある屋内運動場だった。
その場には不安に感じたのか緑谷や爆豪、八木の姿もあった
急に剣を出そうとしたのも、理由があった
それは、小籠が暴走しないかのテストでもあった。
「今欲しいカードを強く念じてみろ。大丈夫だ。
俺達もいるし、いざとなれば緑谷が止めてくれる。」
俺もいるだろうが!そういう爆豪に、フクがはっきりと無理だと宣言した。
「お前は必ず小籠の行動に怯みを生じる。
だが緑谷は一度決めたら
その身が滅びようとも関係なく突き進んでくる。」
このカードはそんな気持ちが一番大事になってくるからな。
そう言ったフクにイライラする爆豪
それに八木があっさりと言い返せない爆豪に
フクははっきり言いやがったなと考えていた。
「さぁ。思え、強く感じろ。お前なら今一番強く念じれる筈だ。」
そういうフクに、困惑する小籠
記憶が無いと言っても、それを隠している場合ならば?
緑谷たちの記憶は勿論ないに等しいのだが、
小籠の過去の記憶が鮮明な状態なのであれば?
なんでもいいとフクはあとで付け足す
その言葉に少し落ち着いたのか、目を瞑り強く念じた。
『(お願い。もう一度だけ会いたいの。)』
ずっとあこがれていた。ずっと望んでいた。
でもそれは夢で幻で空想の世界にしか咲かない希望。
叶ってしまったとしても、また望んでしまう呪い。
これは、私が一番望んでも叶わない現実の世界。
だから夢だと思った。
両手を組んだ手にふわりと触れた風と体温に目を覚ました
『っ!』
なんで、そう声が漏れそうになった
ふわりと浮かぶ黒髪の女性は、小籠の顔に非常に似ていた
その隣に男性も浮かんでおり、そちらの顔にも似ている感じがした
「ご両親、?」
ー都佑、いい子にしてるのね、
『っ!どうして、会いに来てくれたの』
ー何でって、お前が願ったからじゃないか。
そうふわりと父らしき人物が小籠の頬に触れる
その仕草に小籠の目から涙が零れた
『…っ、でも、いいの。』
会わなくても、触れなくても、それでいい。
そう小籠が泣きながら両手から小さな少女を作り出す
『君が、夢をかなえてくれるだけで、私はそれだけでいい。』
私が叶わなくても、人が嬉しそうに笑っている所を
遠くから見つめられるだけでも、救われるのだから。
手を叩き、手を放した空間から少女が身体を丸めたまま存在する
今まで見えていなかったような程に、少女がリアルで
目をゆっくりと開き、小籠の方向を向いた
目をぱちぱちしながら首を振るった後
嬉しそうに笑い、両親の存在に気が付くと
両親の元に向かい走る
嬉しそうに、両手を繋ぎ、此方を振り向いて笑う
都佑、ありがとう。そう言った言葉に首を傾げて笑い返した
嗚呼、叶ってしまった。
こうもあっさりと終わる筈だろうか?
いいや、終わらない。
私の時間は戻って来ないのだから。
少女の手を突き放すは母親
白い目で見られ、うずくまる少女は
悪夢だと思う程に首を横に振り、逃げ出した
『…ほぉら、君が望んだ時間だ。』
泣きながら地面にうずくまろうとする少女に
膝を立て、目を見る小籠
手を伸ばす、その手をじっとみる少女
『さぁ、悪夢は終わらない。』
ずっとずっと。一緒。
悪夢と隣でランデブーの小さな輪舞を。
小籠の手を少し少女の手が触れる
少女の身体は少々成長したものの
目の色は虚ろで、何を考えているのか理解できない。
「っ、」
「ようやく姿を現したか、悪魔め」
小籠だった者は目を赤く光らせ、浮遊し、膝から下がほぼ見えない。
髪の毛は短くなるも、身体全体が浮遊しているおかげか、髪の毛も多少
浮いている
目を光らせ、フクの言葉にニヤリと笑みを浮かべる
『悪魔だなんて酷いなぁ。私はずっと一緒に居たいだけなのに。』
少女の傍から離れない。というよりかは
少女が放そうとしないのでは、と緑谷がふと考えた
「狼森さん、その子が、君だった人?」
『ええ、可愛い子だよ。愛される筈の存在ですら権限を奪われた。』
だから目は望むことを手放し傍観だけの存在になった。
何も考えることが出来ないが、悲しい現実だけは入ってくる
その処理に追われて追われて、
気付けば何もしないで時が過ぎただけだった。
「何を考えてるか僕は分からないけど、感情を外にばらまくのは、良くないと思う。」
『頭の何処かでは分かるんだけどね、君には分かって欲しくない。』
何度も夢と現実が繰り返さられる頭の中を
何処まで話して、何処まで話していないのか
自分がどこの位置なのか理解が追い付かない。
いわば暴走モードと言った所だ
本来であればこの少女の様に黙ったままなのだ。
この子が私の普通であったのに
周りはとても暖かくて、現実だったものを忘れさせる。
そして忘れた時にやってくるのだ。
記憶を無くした。そんな事はないと。
《後書きスペース》