無事、合宿場に到着したのはその日の日暮れギリギリだった。
「飯食って風呂入って寝るぞ」
「んー!合理的ぃ!」
そう誰かが声を出しつっこみを入れつつ
へとへとの身体を何とか動かした
「そういや羽黒、お前本気出したら何時此処に来れた?」
そう轟に言われて、足を止めた
今回本気で此処に来ていないのは事実だ。
『…ざっと1分かからず、って所。』
「え!?そんなに早く来れるなら」
『でも、その分ヴィランに勘づかれる可能性が高い。
私のカードの事を知らない人はそうこの世界にいないだろうし。』
何より私は何度もヴィランに遭遇してきた。
生徒であり、友達である梅雨ちゃんにまで被害が来た位だ。
カードの存在を知られている以上、私はあまり単独行動は厳禁だし
今回みたいに単独になった以上、カードの力を極力抑えて行動した方が良いと判断した。
その判断は間違っていない筈だ。
『今までヴィランと遭遇した時、必ず"感情のコントロール制御が不可能"だった』
友達が危険な目にあっているのに、自分の力だけでは助けられない絶望的な状態や
自分の力が余りにも色んな事に使われる事の、可能性に恐怖というシーツに包まれたり
感情的に不安定な状態に陥る時、大体ヴィランが私の胸を狙っている。
『だから私は今回カードでも5枚。かつ極力力を弱めての使用、だけでなく調整はしたよ。』
有利に使うのではなく、その状況で過剰に使用しない。それだけの事だ。
そう告げながら階段を上がっていると、後ろから「すげぇな…」って感動の声が聞こえた。
あまり考える事は難しくないのだが…
「だってさ、それって調整してるって事だろ?自分の分析してさ」
ー自己分析してて、偉いね!××!
深い頭痛がした
唸りとともに眩暈がしたが、すぐに立て直し、席に着席した
周りに心配されたが、大丈夫と判断した。
声が、聞こえたなんて、言い訳に等ならないからだ。
+++++++++++++++++++++++++++++
早朝
私はあの後食事をとり、すぐに風呂に入って寝た。
周りはザワザワしていたが、最近のカードは感情からのもので
どうしても体力を大幅に消費する為、長時間の睡眠が不可欠だった。
『だからと言って9時間ぶっ通しで寝るなんて久しぶりなんだけど』
夢にも出てこなかったのが、まだ幸いか、
そう感じながら、早朝の訓練で眠たそうにあくびをする
メンバーに少し気を和ませてもらった私は前を向いた
「爆豪、こいつを投げてみろ」
そう爆豪の手に投げられたものは、体力テストの時に使用したもの。
え?私してないって?いいえ。あのヴィランが来た後、個性が別にあるって
判明してから少々軽い体力テストしました。
結果?…人並よりは下の下ですが。
此方カード使用してなかったのでね。というかあの時はカードを借りていた状態だったし。
「くたばれっ!!!!」
…くたばれ…
そう周りの人間に困惑の声が心の声で何となく察する位、印象強い言葉で投げた球は…
あまり変化していなかったらしい。
爆豪の顔色がこわばっている
「約三か月、様々な経験を経て、君たちは成長している。
しかしそれはあくまでも精神面であり、
多少の体力も変化はしているだろうが、"個性"の成長は伸ばしていない。」
「今回の合宿で"個性"を伸ばす。」
「死ぬほどきついが、くれぐれも死なないように。」
…と、言われたものの。
ようは限界突破である。
許容上限のある発動型個性は上限の底上げ
異形型その他複数個性持ちは個性に由来する器官等の鍛錬
本来は体力上限と一緒にゆっくり上げていくものなのだが、
如何せん時間が無い強化合宿である。鬼ですね。鬼。人ではない。
「おら、何するんだお前は」
『わからん』
ほんとに何して良いか分からないのだ。
私の元々の個性蜻蛉はほぼ使い物にならない。
というか、その個性を"対価"に出してしまったのだ。
その為現在はカードが無ければ無個性と同等。
基礎体力を上げても良いが、個性を伸ばすと視点を変えれば
カードの力をキープ出来たり、自由に使用する事が出来ればいい…のだが、
『大体可能なので、何言われても今なら普通に行動出来ます。』
昨日の今日。シノラ、境界が仲間に入った以上
これまでの力全てを使用しても別に問題ない。
今はとても気分が良いのだ。
心が軽くなったというか、なんというか。
「そうか…なら、」
「アタシに任せて!」
「よろしくお願いします」
そう前に出てきてくれたのは女の猫さん…猫?猫なのか?被り物?
「イレイザーから話は聞いたよ。この世の全てをカードで表現できるって?」
『あっはい。』
間違ってはない。
何かB組がこっち見てるが、まぁ気にしないでおこう。
「じゃあ、今持っている全ての事を、全力でアタシにぶつけな!!!」
「…あれ?どうしたの?」
『いや、死なない様に調整するの、すげぇ難しいな〜って思いまして…』
「死ぬの!?アタシ!!!」
カードさんは生きていると言ってもおかしくない
私の感情が栄養なのか、原因というか、何の作用で起きているかも謎な事を
そうプロヒーローとは言えど、人に向かって打つものではない。
だからと言って、迷った挙句友達を巻き込んだ人間は誰だ?
何処にいる?此処にいるだろう。
迷いで、私は全てを捨ててしまっている。
ーアノトキ、ミタイニ?
そう耳元で声がした
その声から離れたくて、鍵を杖に戻し左に強く風を作った
突風程の威力ではあったが、声が近すぎて恐怖を感じた。
今のは、一体なんだ?
今までなら、夢の中とか、人が離れた状態で来ていた。
彼女は、過去の私であった。優しい子。
その子は私の中でずっと生きて笑っている。
静かに、泣かずに、眠っている筈だ。
なのに声が聞こえた。
心がざわつく。とても。とても。
「…ねぇ、今までのカード全部言える?」
『え?ええ…』
体操服とは言えど、カードケースは持参している。
腰に巻いているとは言っても、少し浮遊させている
カード入れから杖を宙に投げた後、レビテーションを使用し
カードに浮遊を持たし、都の前に円を描くように並べた
そしてゆっくり回し、どの方向でも平等に見れるように、速度も調整しつつ
空中に飛ばしていた杖を右手で受け取った
『これが全てです』
「けっこうあるね!?」
「あれ?ここら辺のカード別の色してるけど…」
『これは私が作り替えたものと、作ったものですね』
「作れるの!?」
そう驚く猫さんたちに、たじろくが、何とか頷いて保った。
『これはクヴェル。水を出すカードで、水がない所でも可能です。
速さも兼ねたりできますが、スパッと空気とか木とか切れそうなので
基本的に人間に当たってもそこまで害のない程にしてます。』
「考えてるね!?」
『こっちはリフベーレ。飛行と蜻蛉の混合カードで、
元々個性は蜻蛉だったので、羽が蜻蛉の形になっているってだけですね。』
飛行体験は大分慣らしているので、吐く事もない。
そこら辺の個性慣らしはフクと一緒にずっと調整を重ねてきたので
新しいカードの研究としても問題ない程だ。
「ん〜一度本気で戦ってみたい位だねぇ〜」
『死にますよ?普通に。』
「舐めてもらってはこまるんだよね!」
そう攻撃を仕掛けてきたのは地形を利用して個性を発動させてきたピクシーボブ
地面がうねうねとするが、杖を回しカードをきれいに整理しながら声を出す
『パッチェ!周りを包んで!ラオプ!パッチェの上にかぶさって!』
カードを杖の先に付け、光が漏れた後に泥が揺れていた
地面の上にかぶさり、周りの木から木の葉が押し寄せ地面の揺れが鈍くなった
『クヴェル!攻撃者に対して視界を防いで!ネーベル!周りの感覚を防いで!』
泥と木の葉が続いている間に水を出し、黒いスモッグ、
霧の様な宇宙にある星空の雲を攻撃してきた
ピクシーボブの周りを囲んだ
『バウム!そのまま下から上につきだせ!』
「させないよ!!!」
木を生やそうとした前に、地面がピクシーボブの脱出口を作った
水をわけ、まるでプールの滑り台のように、降りてきた速度に
私は昨日の感覚を思い出す。
『ーっ!シノラ!!!』
「ぢゃ!!!」
そう目を瞑り、叫んだ都の周りに風の壁ができた上に、都がふわりと浮かび
人との距離を開けたままキープを保っている。
人が一人でも動くと距離をあけ、近寄らせないようにしている。
「…凄い、何でもできるのか。」
「いいえ、まだ限られています。それに彼女は見た目よりも精神が周りより圧倒的に弱い。」
降りてこい、そう相澤の声に目を開けた都はふわりと降りた
距離を保とうとするカードに、都は身体を風に向けた
『大丈夫だよ、この人達は危害を加えないよ。安心していいのよ。』
そう話すと、風は大人しくカードにまとまり、そのままカード入れの中に入っていった
「個性の多様に大分慣れたな」
『此間の件もあって、大分慣れましたし、カードもほぼ入れ替わっていますから。』
「なら、お前のやる事は一つだな。」
そういわれた後に、梅雨ちゃんの元に行った後、彼女の耳元で話をした。
頷いた後、此方に向かってきた
「お前の個性は?」
『…感情の起伏で強さが変化します。』
「なら、感情を更に豊かにしろ。喜怒哀楽、お前の中で一番足りない、怒りをものにしろ。」
怒り。それは人間の行動力にも発展する一つの感情。
この数か月で楽しさや喜びを大きく感じ、つらい経験は肉体的にならば大体味わってきた。
しかし、怒りは感じないようにしていた。
何が起きるか分からないからだ。
「怒りという存在を忘れ、生きれる等不可能だ。」
周りには梅雨ちゃんだけでなく、知らない人まで増えた
まって?多人数が私の試練なんですか?
「ラグドール伝えてあげて下さい。」
「羽黒都、16歳。女性。個性は、"無個性"!?
あ、触れた杖と彼女の魔力によってだから、個性じゃないのね!」
おいおいおい、人前で個性をよくばらせるな。
いや、感情を前に出させて、集中力を切らす操作だ。
ヴィランとも何度だってあったじゃないか。
「…あれ?その奥、子供?ねぇ、都ちゃん、おかしいよ?どうして、」
どうして、その子、泣いてるの?
そういわれた後、攻撃しようとしてきたB組の誰か分からない人の腕を軽く握った
目を開いて、声を出した。
ー止めろ。そう、呟いた。
「泣いてる、何?…"たすけて"?」
『その子を視るな!!!』
杖を手放し、感じたように変化させる
腕に付けた方が話が早そうだったので左腕の二の腕にリングとして身に付け、何か
ないか、とりあえず星雲を使い、辺りの視界を物理的に奪った。
しかし、これでは自分も視界が奪われた
「ねぇ、都ちゃん。黒い髪で、凄く痩せてて、目が、死んでる、この子、生きてるよ?」
『貴方、誰か知りませんけど、私の頭の中を観ないでください。』
「お母さんと一緒に居させてあげなよ!…あ、待って!どうして、?」
どうして、お母さんが叱っているの?
何もしていない子供を
その声で、私は何も考えれなくなった。
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羽黒さんが戦っている世界が余りにも想像以上で、
僕は手を止めてその戦いを見ていた
真っ黒なスモッグ、否まるで夜の星空が降りてきたみたいな雲が
包み込んでいたはずなのに、一気に風もなく、消えたのだ。
「(どういう原理だ・・?)」
「…ちょっとまずいかしらね?」
そう様子見に入ったプッシーキャッツの一人虎が呟いた言葉に
僕はすぐに気付くことになった
羽黒都、と呼ばれていた女性の目つきが別人になっていたのだ
『…誰?私を無理に覚ませて。殺されたいの?』
「わーお。別人!」
「フク!居るんだろ、状況を説明しろ」
そう相澤先生に呼ばれたフクは、僕の頭の中からもぞもぞ声を出した
「うわああっ!!!!」
「煩い、緑小僧。少々頭を借りるぞ」
「ええ!?」
「都の魔力のストッパーは怒りで制御されている。
しかも、都は他人に見られないように思考で
数人作って居た…んだが、そいつに核を瞬時にあてられた」
それだけではなく、都が大事にしていた核を言い当てたのだ。
核の部分はとても繊細で、少し環境が変化すると閉じこもる癖がある。
まさに本能。攻撃された時に防ぐ防御みたいなものだ。
「どうやったら元に戻るんですか!?」
「正確にはあいつも都だ。単純に機嫌が悪いだけだよ。」
「アレ機嫌が悪いって範囲じゃないんですけど!!!」
『何?誰?私の中身弄った人』
仕方がない。と言わんばかりに首を横に振ったフクは
緑谷の頭から離れ、空を飛び、力を使い、人型になった
「ーおい、俺だよ。」
そういった声に目をぎろりとにらみつけた
そのピリつきようは、ヴィランそのものの緊張感
一同は身体が動けず、観る事しか出来なかった
「その子、泣かせて良いのか?ほら、怒られたんだろう?何故怒られたんだ?」
『違う!!!この子は何も悪くない!!!』
そう力を使ってきた手からはカードの詠唱もなく、炎の鳥が向かってきた
それにフクは左手で振り払い、消し去った
「そんな力しか使えない筈ないだろう?それとも…この子から何を取れば、良い?」
何を、とる?少女と呼ばれる子は見えなかった筈なのに
今は真っ黒で、かなり細った少女がフクの方に乗せられていた
とても震えて、口を開けて、何かを言いたそうにしたが
口をふさぎ、目を瞑り身体をかがめた事により、都は怒りに任せた
『ー!返せ!!!』
そう荒い声を出した都は左右の手を叩き、力をこめた
丸い球体が作られるかと思ったが、三角形に変えられ、紫色の光が創り出された
それにフクは「おいおい…ガチじゃねぇか…」と冷や汗をかいた
「お前ら!!!全力で防げよ!!!!」
「全員撤退!!!」
相澤の声に緑谷は動き出した
『混沌秘めし雷鳴の神よ!我が名都の名においてかの者を救い出すべく打ち破れ!!』
ブリッツ!シャル・カプット!!!
そう手から出されたものは紫色で、三角形を保ちつつ
先の三点では丸い光をおびつつ、少々変な音を立てつつフクの近くに来ると
綺麗な三角形が壊れた
「っ!(おいおいおい、マジかよ)」
その三角形は綺麗に少女が宙に投げ出された瞬間に身体を拘束し、
耳鳴りの強い波動にフクは耐えきれず声がでる
『ー都佑!!!』
手を伸ばす、そう都佑と呼ばれた少女は手を伸ばし、少し不安そうに都の胸に抱き着いた
『…良かった、君は"まだ、生きているんだね?"』
その目は、青く光った気がした。
+++++++++++++++++++++++++++++
『しゅいやせんでしたー』
「まぁアタシたちも煽ったわけだしさー???」
そう正座させられながらガミガミ相澤先生の
お説教を食らっている都とプッシーキャッツに
苦笑いをするしかないデク、否緑谷
「ったく!アレはなんだアレは!!!」
『え?ピクシーボブじゃなくて、ラグドールに頭の中を読まれて、感情が豊かに』
「そうじゃない、あの個性の使用の仕方だ!」
え?いつもアレくらい同時で個性出してるんじゃないの?
そう言いたいような顔で相澤をみるプッシーキャッツに
緑谷は我慢できず答えた
「羽黒さんは本当におとなしくて、周りの対応に過敏に反応するんです。
自分がどうあるべきか、自分がどう行動するべきか、事細かく分析して
すぐにカードを出して個性で人を助けられる様に。
恐らく、そう強い思いの軸を折らす行為に、羽黒さんは怒ったんじゃないかと。」
『怒ってないよ。』
その言葉に全員が声を上げた
『怖かったんだよ、軸が居なくなるかと思った。』
フクが受け止めてくれた
煽ってくれたおかげで、感情をそのままぶち込めた
余程の信頼関係がないと使用出来ないのだ。
「あいつが出てくるのは流石に驚いたがな」
『え?皆見えてたの!?』
「え?う、うん…なんか、」
「あいつは過去のお前か?」
そう問った相澤に、嘘は難しいと判断した都は大きなため息をつき
そうだとうつむきながら答えた
『彼女は私の過去そのものだよ』
「そのもの?」
『…こうしたら見えるんじゃない?』
そう杖を左腕にまとわせ、正座をくずし、左の膝を立て、
男性がプロポーズをする体制で誰もいない場所に声を掛けた
ー都佑、そう優しい声で声をかけると
誰もいない場所から、はだしで少女が近寄ってきた
目の前で嬉しそうにぴょんぴょんと上下に動いている
それに目を細めた都の顔に、緑谷は親が子供をみる様な目だと錯覚した。
「この子だよ!この子!」
『いい子だね、大丈夫。誰も悪い人じゃあないよ。』
「ーでも、傷付いた。都佑、傷ついたでしょ?」
『…そうだね、でもこんなの』
そう目を瞑った都だが、その否定しなかった言葉に
都佑と呼ばれた少女が緑谷の方を向いて大きく手を横に広げた
身体はやせ細り、腕も足も棒と表現しても問題ない程
ただ、顔は痩せこけておらず、髪の毛は短く切られていた
「ー駄目、近寄らないで。」
そう距離をとってくれる彼女に、緑谷は揺らいでいた気持ちが確信へと変化した。
嗚呼、この少女は、この人は、優しい人なのだと。
「近寄らない。約束する。もう誰も君と彼女を放しはしない。」
「ー本当?」
もし、約束を破ったら、この人を閉じ込めるからね。
そう少女は言って、消えていった。
閉じ込める、その言葉に疑問を抱いた
『昔ね、人が信用できなくなる位周りが私の事で遊んでいたの。』
その時にね、一時的に恐怖を感じ取れない様に
心の中に籠を作って、避難させていたの。
そうしたら、何処か安心して、何も感じなくて時間だけが過ぎて行った。
その時間で、何とか精神を保ってきた。
しかし、今回は精神を鍛える為に、行ったもの。
只の勉強であるのにもかかわらず、
『彼女は、私を守る方に入った。守らなければならないのはあの子自身なのにね、』
「精神的な核を奪われそうになると、避難されるのか」
『同時に人格を作る様にして、ダミーを作る様にしたんだけどね』
「滅茶苦茶人いたね!びっくりして声でなかったけど!」
どうしてその子を見つけたのか、気になり聞いてみた
「何十人もの同じ人の中に、一人だけ綺麗にみせかけて、とても寂しそうな子がいたんだ」
『寂しそう…』
「口パクで、助けてって言ってた。小さい頃に何かあったんでしょう?」
助けて欲しい。そう望んだが、救われる事は一度も無かった。
寧ろ、絶望に何度も突き落とされた。
大きな玄関の前で、産まれた時に傍にいた黒い耳のついた
服を着たキャラクターのぬいぐるみを片手に立ち尽くして待っていた
ずっと、ずっと、ずっと。
傍に、カチャカチャと音を立てて来てくれた真っ黒の耳を持つ
白黒の小さな弟が傍で尾を下げて見上げて待っていた
待って、待って、待って。
そのまま、居ても、来ないのに。
そこから、時間を"止め続けて100年"
『そうですね、叶わないのに、』
傍で永久に眠る弟と、小さなお人形を横に
ずっと待っている。ずっと。ずっと。
『彼女は私の呪いです。』
これは呪い。私が許せなくて、かけた呪い。
怒りも悲しみも全て分からなくさせた呪い。
『感情が高ぶるとこうなるんです。ごめんなさい。』
迷惑をかけて。
その一言で、話は終わった。
この時私は気付くべきだったのだ。
真っ暗な場所に向かった緑谷にも、
声を上げて、二度としないと言った彼女の言葉にも
自分の本当の気持ちにも
気付くべきだったのだ。《後書きスペース》