その日はとてもいい天気とは言えない日だった
急に夕立が降り始め夜が更けた頃
小雨の中帰ってきた沖田さん達の顔色は暗かった
「すまねぇ」
その声に私は嫌な予感が頭を過った
然し私は何のことかと首を傾げた
精一杯の感情を押し殺して
山崎さんや鉄君が涙を流している
俺のことを庇ってなんて近藤さんが言っている
嗚呼、早く土方さんの顔が見たい
笑って外に出ようと一歩前に出た
入ってきたのはぐったりとした血まみれの土方さんだった
私の心から何かが欠け落ちた音がした
+++
『…何、してんの?早く治療を』
沖田「もう駄目でさぁ」
『そんなことない』
あり得てはならない
この場で死ぬ土方十四郎ではないだろう?
自分の顔が今笑って居る事がすごいと思う
彼らが真剣な顔をしているからだろう。
私は昔から怖い時に笑う人だった
笑って居ないと、心が押し潰されてしまいそうで
自分が怖くて、怖かった。
『こんな濡れて冷たくなっているだけで
私脈を取るのが苦手だからここも外れなだけで』
そういっていると誰かが私の名前を呼んだ
嗚呼呼んでくれるな
「××…?」
音が、雑じっていく
自分の名前を耳が拒否しているのだ
そういえばこんな時は前にもあった
あの時は一体どうやって動いたのだろう。
大事なものが、欠け落ちた後は
どうやって笑って居られたのだろう。
『ごめん…土方さんちょっと貰って良い?
お風呂で綺麗にしなくちゃね。』
「××さん…」
『ごめん、皆。
私の名前は羽黒未夜だよ。
…暫くその名前は、聞きたくもない』
だってその名前は私の「大事な者」だから。
彼が目を覚ます迄、私は名前を変えていたい。
それは確実に私が彼を好いていると確信できる事
嗚呼、手から離れた時に漸く認められる
それは昔から、変わらなかったのだ。
暗い霧雨の薄暮終わり
私の一番嫌いな時間
そんな時間に、大事な人が眠ったまま帰ってきた
「…わかったでさぁ未夜」
沖田の声を聴いた途端、私は安堵した
嗚呼、針が進んだ、音が聞こえた
+++
部屋から強化系のチョーカーを取り自分で付け
押し入れに入れていた着物を持ち鞄の中に入れて
鞄を背負い土方さんが居る場所に速足で向かった
鉄君達が何かを言っていたが、私の耳は良く出来ていて
決めた事に否定する物事は全て頭の中に入らないまま
反対の耳に抜けていく様だ
殆ど無言で私は土方さんを両手で重力操作を使い
軽々と姫抱きしたまま
準備中の張り紙をはってから風呂の中に入る
勿論死人を入れるのは気分悪いので
自分が使っているシャワールームの中を改装し
少々小さな浴槽を創り上げる
地の術を使いコンクリートを使って身体一つ沈められそうな程
力を使うが強化系チョーカーのお陰で数分も掛からずに部屋は改装終了した
すぐに土方さんの服を脱がすと同時に
部屋に沖田と近藤さんが入ってきた
鍵をしなかった私も悪いのだが
止めろなんて腕を掴まれる
勿論面倒なのですぐに術を使い二人の自由を抑える
それ位出来る私の前に現れた二人は馬鹿な人だと嘲笑えた
余裕が無いのかあるのかわかりゃしないけど
とりあえず土方さんのみぐるみを全て
取っ払い大事な処はきちんと隠す
流石にそこは私も女であり人である。
男の人自体本当は触りたくもないのだが
私は硬くなっていた身体に眉を深めた
一言も喋っていない私に様子がおかしいと感じていた
沖田は首から上が自由になっている事を利用して罵倒する
「あんた何やってんでさぁ、ンなことして生き返ると思ってんでぃ?」
『(傷がかなりこびり付いている。これは痛かっただろうな、
一体何を考えながら眠ったんだろうか…すぐに清めよう)』
「さっさとし…っ!?」
「未夜ちゃん!?何脱いでるの!?」
スルスルと脱ぎ始めた未夜に二人は驚き顔を反らす
チラリと沖田は好奇心で見る
其処には何も光を移さない未夜がゆっくりと
土方を力で優しくシャワーを浴びさせ
いいや
「…っ、なんでぃ、なんで」
ボケっと土方もみない様な黒い目で
未夜は術を使って土方を浄めていた
身体の土や赤黒く変色した色も全て
消えてなくなり白いとは言えないが
綺麗な肌に変わると
本当に今にも起きそうな程
眠った土方を背中に担いで数分で戻ってきた
何処も観ない、遠くの方を観る未夜
それは何時かの人を殺し終えた後の顔だった
久しぶりに見た事、そしてそんな顔をさせてしまった事に
近藤は苦い顔をし、自分の身体を無理矢理動かそうとする
男二人が居るにも関わらず何も言わずタオルを使い
土方を拭きながらも未夜は無言で自分の身体をさっと拭き
赤い燃える様な着物に着替えた
土方には真っ黒な布を下から包みあげ
赤い紐で腰部分を蝶結びで縛った
それを抱き上げてそのまま部屋を後にしたその直後
沖田「(っ!動ける!!)」
二人の術は解かれ、未夜が土方を
何処に連れていくのかと追いかけた
意外にも未夜が居たのは土方の部屋だった
鞘を置き丁寧に正座をして頭を畳の上に置いた後
泣きそうな声で懺悔の言葉を放った
『ごめん、ごめん…ごめんよ、土方さん…私
やるから、貴方の為なら私はあの約束を破れる』
そう言った未夜はすぐに立ち上がると近藤の前で少し頭を下げた
『時間がありませんが私は医者の所に行きます
土方さんは一日経っても私が帰って来なければ
葬儀を進めて貰って構いません。
服はあのままで荷物も纏めるのは
私が帰って来ない時で構いません』
土方を部屋から一ミリも動かすな
部屋の中も動かすな
自分が帰って来なければ全て掃って良い
そう言って彼女は屯所から出て行った
目は虚ろで何処も観なかった
その姿はまるで死人の様で
直ぐに沖田は走って彼女を追いかけた
+++
外は雨がシトシトと空から降っているものを受け止め
そのまま頬を伝い地面に落ちるのを
考えずに見ながらとある場所にたどり着いた
「んじゃこんなじか…」
『じいちゃん私いってくる、いきたい。』
「…とりあえず中に入れ、話はそれからじゃ」
ずぶ濡れになっていた事は別にどうでもいい
気持ち悪いとは感じなかった
寧ろ気持ち悪いと感じていたのは
自分の冷静さだけだった
「・・・そうか、使う覚悟は?」
『あるし、息を吹き返した後一週間は皆の記憶を誤魔化す
んでもって殺しに行く敵をジワジワ追い詰めてやるつもり』
「副作用があること、理解しておるんじゃな?」
私が今使おうとしている術は薄狼のみが使える禁忌”蘇生”
夜狼や朝狼の術が半減する代わりに大きな力を持てる様になっている
正し何度も使えないように使用後の副作用は桁違いの話も出ている
その症状は主に≪頭痛、吐き気、倦怠感、情緒不安定、幻覚≫の五つで構成されており
特に幻覚は一番会いたい人の姿が肌として触れられる感覚までついてくる
下手をすればその副作用は永久に続く可能性もあり
今迄の様な俊敏な動きは不可能に近い事は間違いなかった
それでも
『私は土方十四郎が私の所為で亡くなるのは嫌だ』
目を閉じてきつく下唇を噛みしめた
何故私が最近外に出なくなったのか
それは彼らに土方さんに護られていたからだ
無意識に守っていた護られていた
私は亡くした後に気付いて
遅すぎると自身を恨み妬んだ
恐らく今回副長を殺害した奴らは夜狼や狼族の一部
普通の攘夷志士や術使いなら土方さんには効かない
死ぬ迄に至ったと言う事は何らかの溝があった事だ
それが私に関係するのであれば尚更気分が悪い
冷静に物事が分析出来てしまう自分に吐き気が出る
嗚呼、何故彼をそのまま外に出したのだ。
嫌な予感すらも余り感じなかった
危機感を持たない私は、唯のクズと変わりないではないか。
『髪を斬るつもりです、これ位あれば
彼の心臓もすぐに生き返れそうだし
血だって捧げるし結晶もあります』
強いて無い物と出してみるのであれば
それはただ単に”時間がない”だけだ
私は冷静な分析の結果こうするしかないと決断した
たったそれだけだ。
彼は生き返る
いいや、無理矢理でも生き返らせる
例え我が身が滅びようとも
私は彼らを亡くす事は一度たりともしたくない。
何故か、そう強く感じるのだ
そう目で訴えると柏木は悟ったのか
大きな長い溜息を吐いた後
土方らに軽い説明をさせてくれと一言断った
その言葉には何も返事をせずにお辞儀をして足を進めた
柏木の診察している机の裏を一つまみ後ろに引き抜き
小さな箱を手に取り白のチョーカーを取り出した
青い滴のチョーカーは結晶の様な尖った形にも見える
光に照らせば秋空の様な晴れた青の光が目に映る
『いってきます』
そういって私は部屋から出た
++
これからどうするか?
自分の愚問な言葉に鼻で笑った
病院から少し歩いていると後ろから声がかかった
山崎「風邪を引きますよ、未夜さん」
『風邪も何もかもひいちゃうから問題ないよ。
大丈夫、君らの副長は生き返る』
山崎「な、に寝ぼけた事言って!」
『常識なんて私の中に無いんだ
端から亡かった。だけだから』
そうだ、私は元々この場所に存在してイナイ
土方さんが死んで私が生きるのはおかしい話だ。
それなら逆になればいい、全て元通りになる。
嗚呼、そうすればきっときっと貴方だって笑ってくれる。
結局は貴方が笑って私が安心したいだけだと気付いたのは
一体これで何度目になるのだろうかと感じながら
山崎が私の肩に手を置いていたその腕を振り払った
『君らは何にも知らなくていい、入らなくて良いのになぁ』
山崎「みっ、なんだ、これっ・・眠気、が」
『君らの記憶、とても綺麗だね。味方は敵って言うでしょう?』
バタリと自分の肩の方向に倒れた山崎の心臓から小さな光を手に取る
それを持ちながら結晶に触ると綺麗に光を放ちだす
『さて、次はこっちか』
くるりと真選組の屯所内に足を歩めた
嗚呼、時間が亡い。