怯える力はお前を殺す

その後、朝狼は消え、姿をくらましてしまったが
白くなった髪の未夜と肩を斬られた土方を見つけた沖田ら一番隊と共に
屯所に戻って夜が明けた


『(私は、違う)』

否定をし続けていた

在り得ない、在り得る訳がない。
私は人間ではなかったのか?
狼族だとは思っていたが、
想いを力そのものに出来るとは聞いていなかった


そうもやもやしている中、戸が開いた
どうやら近藤さんらに呼ばれているらしい

仕方がない、と私はゆっくりと身体を起こした




近藤「昨日狼族の人間を取り逃したとトシから聞いた」

髪の色は既にバレているので、カツラを付ける必要性がない
一応カツラと似たような髪色ではあったが、少々此方の方が
黒っぽい為分かる人には地毛と分かるだろう

よそ見をしていた私はこの時間が無ければ良いのにと思ってしまう
だってバレたのだ、力を使っている処を、真選組の副長と言われる者の目の前で


近藤「トシを救ってくれて、ありがとう!!」

『は?』

いやいやいやマテ待てまて!


『え!?私処罰対象じゃないんですか!?』

思わず裏返り高い声が出る
それに驚いたのか沖田が「たけぇ」と小さな声で呟いた
いや、聴こえてるからな?私高い声抑えていただけだからな?

近藤「幸いな事にトシの肩の傷は浅かったし
それ以前にトシやザキの前に出たそうじゃないか」

正確には土方さんの後ろから打ったようなものだが
まぁ守ったという事にされているらしい
確かに朝狼は生かして取り逃がしてしまっているが…


近藤「女と思った後やけに強いとは思っていたが
まさか狼族の一員だったとは…」

『保護、だなんて私は無理ですよ』


何かを感じ取ると直ぐに行動してしまう
それは昨夜あった時の様に
赤い鮮血に触れた後、フラッシュバックの様に過去に遡った事で知った


全く知らない現実だった筈の世界
在り得る訳が無いと、昨夜から正直寝れてない
その為か、術という術が今使えないので
其処ら辺の女と変わらない、いやそれ以下だろう

近藤「処罰や保護対象にはならんよ、逆にお前さんが嫌なら出て言って貰っても構わんが」

『あんな奴を放って置いて逃げるなんて出来ませんよ』

あの朝狼、並外れた者じゃない
記憶にある書物と前に医者から聞いた話だ
恐らく、いや考えたくはないが…在り得るのだろう

私が力を使いだしたという事が、何よりの証拠である

近藤「そうか、因みに未夜ちゃん狼族のどの位置にいるか教えてくれるかい?」

『…狼族』

それは狼の様に強く孤高な存在
物理的な物も多いが、何方かと言えば術で通っている
昔は物理的な攻撃ばかりだったと聞いているが
今ではそんな事で生きられるとは思っていないだろう

でも、私も正直自分が何処に居るのか分かっていない


『夜狼、だと一瞬思いましたが』

「が?」

『違う、というのが昨日で分かりました』


フラッシュバックで現れた小さな女の子
その子の姿が、強く残っていた
それは、前に聞いた話。
こういう勘は合っている事が多い

「違う?とは」

『昨日朝狼に言われたんです。"未だ幼体ですらないのか"と』

そして殺されるという現実に怯んだ
その怯みで動けずに土方さんの肩に傷が入った
守れない悔しさと動けなかった己の不甲斐なさに
色んな気持ちがごちゃ混ぜになり、怒ったのだろう

カッとなり気持ちが凝縮したような想いが
手のひらから飛んで行った

山崎「確か幼生とも言ってましたよ」

沖田「妖精ですけぃ」

山崎「ちげぇ!沖田さんそれ全く違う方!!」

未夜は手の平を握ったり開いたりしつつ眼を逸らさない


『幼生、それはとある者達の成長を一括して呼ばれている
赤子状態と言った方が良いでしょうか』

まさか自分がそうだとは思わなかったが
幼生、幼体の会話を聞いて現実味を帯びて来た


『私は、”薄狼”です』



++++


山崎「はく、ろう?」

嘘だ、と言いたそうな顔に沖田や近藤は疑問を抱いていた

沖田「なんでぃそれは」

『薄狼、夜狼と朝狼の間に産まれる子
その子が生まれる割合は稀で、こう呼ばれています』


前世の生まれ変わりだと

その言葉に目を見開く三人否四人か
土方さんが後ろを向いたまま此方に話しかけていない


『薄狼は成長段階が朝狼夜狼ましてや普通の人間と違っており
曖昧な事が多い為か、大きく成長段階の名称として呼ばれています』

山崎「え?でも狼族って狼ってわけじゃないの?」

『それはあくまで周りがそう呼んでいただけですよ
実際は其処まで強いってわけではありません…まぁ解禁される前の話ですし』

狼族は日本古来の生物で、普通の人間とそう変わらない
それが何故かは知らないが、まぁ色々と諸事情があるのだろう

『私も全て知っている訳では無くて、昨日から考えた事で
薄狼だろうなと思ったのが幾つか出たので』

土方「例えば」

漸く口を開いたと思えば、促す言葉か。
そう思いつつも未夜は飲み込み話を続ける


『土方さんが軽く斬られたあの瞬間、色んな感情が溢れて来たと同時に
色んな物を観たんですよ。』

フラッシュバックか?と近藤が促す言葉にうなずいた

『私の幼い頃以外にも、観れたんです。言えませんが』

土方「言えねぇのかよ。」

『言った処で貴方方が信用するとも分かってくれるとも微塵も思ってないのでね』

ある意味敵、と言いたそうな未夜に土方は舌打ちの代わりに煙草を吸い吐いた

『詳しくは言えません。ですが薄狼であった事を
ましてや私が女だったことを隠していた事は謝ります』

術を使えば男なんてなれる者らだ
そう謝って済む話じゃないが…

土方「女は此処に居るもんじゃねぇ、出すべきだろ」

近藤「いや、だが」

別に出しても構わない。
でも、それが真選組として良いのかどうか
私は目を瞑り、手をもう一度見つめなおした

小さな手、小柄な体は哀しくも己のモノで
術の時のような男性であれば、どれ程救われただろう?

『(願っても願っても尽きない、それも含まれるのだろうか)』


沖田「ですが土方さん、こいつの事でぃ
どうせ隊抜けた処で追いかけると思いやせんか?」

山崎「そうですよ!それなら未だ一緒にいた方が…」

近藤「俺もそう思うトシ、この子は未だ此処に置いておくべきだ」

いずれは脱退せねばならない。
そんな感じに、そうだろうなーとは思っていた。
まぁ仕方がない、私が隠し切れなかっただけの浅い気持ちだっただけだ。

それに血を一度観ただけであの揺れ方
異常じゃない程の高ぶりに何度もなっていれば困る
ある程度抑えられる物があればいいのだが

まぁそんな話は置いておいて


『では居て良いと言う事ですね?じゃあ朝狼を抑えに行きたいと思いますがー』

が、少々幾つか教えて置かねばならない事が多い。
そこで未夜はうーんと唸った後、閃いた様にてを片手に押した


++

近藤「…で?このボード何処から出て来たの?」

『企業秘密でーす*』

土方「おいコレあんたの部屋の中にあったんだからな!?
何で憶えてねぇーんだよっつーか企業秘密にする問題!?」

嬉しそうに笑う未夜にツッコミが入るが
全く無視をする未夜に呆れた土方は
そのままソファーに座り込んだ


『それでは、此れより極秘の会議をお話させて頂きます』


それは、簡単な狼族のお話。
此処まで来れば、もう戻れない。


『初めに忠告させて頂きます。
皆さんを巻き込む形になりますが、本当に狼族の事をお話しても?』

例えそれが、無残な死に方になろうとも?

そう未夜は顎を引き、先ほどとは打って違う真剣な顔になる
土方達は目を合わせずとも「無論」と言いたそうな顔に
未夜はため息を吐いた


『では、これより狼族のお話をさせて頂きます。』


それでは、戻れない世界へ。
ごゆるりと。