君を殺す夢


月の光に照らされた水面が、キラキラと輝きほとりに座り足をつけているなまえの顔を照らす。巨人との戦闘ではリヴァイ同様、前線を任される実力で団員からの信頼も厚い彼女。

「リヴァイもおいで、気持ちいいよ」

壁外では鬼神と例えられるなまえだが、2人で過ごす時間はまるで真逆の女神のようだと感じる。自分にまっすぐ向けられる愛情をリヴァイも受け止め応える。

なまえは強い。リヴァイが守らずとも、何度も死線を生き延び、仲間を守り抜いてきた。兵団にとっては勝利の女神、あるいは守護神か。リヴァイが気に食わないこと、それは常になまえが自分の命より、兵団にとって生き残るべき人間、エルヴィンの命を最優先で守ろうとするところだ。事実、2ヶ月前なまえが肋骨を折った原因は、突進してきた奇行種からエルヴィンを守ったから。

なまえの隣に座り抱き寄せると、甘えるように頭を擦り寄せてくる。

「お前が甘えるなんて珍しいな」
「そうかしら?」

風になびく長髪、深緑の瞳を縁取る長いまつ毛、血色の良い唇は弧を描く。リヴァイにとっては守護神でも鬼神でもない、唯一の愛しい存在。決して失いたくない存在。戦場において自分の身は守れても、配置の異なるなまえの生死は毎回気が気ではない。

「なまえ、お前は幸せなのか?」

幸せとか何か。リヴァイ自身が問われれば答えに窮する質問だ。ただ、今この瞬間。愛しい存在の温もりを感じ、同じ時間を過ごしているこの時は幸せだといえる。

「そうね、わたしはリヴァイに出会えて、愛することができて、幸せだと思っているわよ」

戦いたくない、共に生きていきたいと言って欲しい。なまえが死ぬなんて、自分を置いていなくなるなど考えたくもない。兵団の神などではなく、自分のために生き、自分の帰りを待つだけの存在になって欲しい。リヴァイの願いを知ればなまえは苦しむだろう。だが、このまま兵団に身を置き、エルヴィンの側近として戦闘を続ければその先にあるのは死、良くても退団を余儀なくされる程の身体的欠損

「リヴァイは幸せ?」

ああ、この愛おしい存在は何故兵団の神になんてなってしまったのか。何故彼女だったのか。何故自分だけの存在として閉じ込めて置けないのか。

「俺は、お前を失うことが怖いんだ」

なまえの表情を見る事ができず、強く抱きしめる。その心をわかっているかのように自分を抱きしめるなまえへの愛おしさが増す。

「なまえ、…兵士を辞めてくれ」

エルヴィンの目的を達成させる事はリヴァイにとっては兵団に所属する意味に等しい。だがそれ以上の優先順位にあるのがなまえの生存だ。エルヴィンはなまえの強さ、求心力を兵団の力と見ている。だからこそリヴァイはなまえを兵団から遠ざけたかった。

「それは、私に生きる場所を捨てろという事なのよ?」
「あぁ、そうだな。だが、俺はお前が巨人に喰われていなくなるなんて想像もしたくねぇ」

向き合うなまえの表情は、会話の内容にそぐわず穏やかな微笑。その唇に口づけ、リヴァイは両手をなまえの細首に添える。

「巨人に喰われて終わるくらいなら、俺がその心臓を止めたい」

首に添えられた両手になまえの手が重なる。

「そうだね、どうせ死ぬならリヴァイに殺してもらうのが幸せなのかもね」

自分の知らぬ間に瞳の色を奪われるくらいなら、その瞳に自分を映したままでその命を終わらせたい。なまえを失う恐怖はなくなり、自分を愛した彼女の記憶と共に兵士として生きることが本当の幸せではないだろうか。

なまえの瞳に映るリヴァイは気道の圧迫からくる生理的な涙でぼやけて見える。その瞳を見つめ、満足げに微笑みながら溢れる涙を舌で拭い、手に力を込める。いま自分を見ているのは、鬼神でも守護神でもない。ただ1人の愛する存在。愛するなまえを自分だけの存在とできた瞬間をリヴァイは歓喜の表情で見つめている。





賑やかな笑い声に意識が現実に戻る。
暖かい日差しが入る春の気候。リヴァイは執務室でうたた寝をしていたことに気づき頭を振る。

外から聞こえる笑い声に目を向けると、夢で見たままの姿のなまえと、その横を歩くエルヴィンの姿があった。

上官と副官。2人の関係を端的に表す言葉にすればその通りだが、なまえはもっと違う意味の視線をエルヴィンに向けていることにリヴァイは気付いている。

慕う者の目的のために自らの命を捧げたいと思う彼女を、守りたいと思っている自分はどれほど滑稽か。

決して自分に向くことがない彼女の瞳を想い、淡い夢を反芻するように握った己の手を見つめる。








きみを殺す夢
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