刀剣ショートストーリー
×××翡翠の約束 3
時間が過ぎて僕の周りを囲んでいた刀たちが落ち着いた頃、やってきた一振りにホッとしていた。
「おや。食が進んでいないようだね。
やっぱり顕現したてでは、ものを食べる
と言うのは違和感でしかなかったかな」
「燭台切さん、、ごめんなさい。
…違和感とかでは無いんです、、」
「じゃあ安心した」
「安心ですか?」
「"…よぉもぉつぅへぇぐぅいー"」
背後から低い声で"ぬよっ"と現れた白い影に僕は「ひやああぁぁぁ!!」と訳のわからない声を上げてしまった。
思った以上の反応だったのか、鶴丸はお腹を抱えて笑っている。
「鶴さん、彼は
まだここに慣れていないんだから…」
「だから、やりがいがあるってもんだろ。
驚きの無い毎日じゃ、
先に心が死んでしまうからなっ!
良い反応だったぞ!」
「…あ、ありがとう…ございます、、?」
咳払いを一つ、燭台切が話を戻した。
「"よもつへぐい" 鶴さんが言った通り、
本来の意味とは異なってしまうけど、
付喪神である僕らにとっては、
その説明が適切かもしれないね」
本来の意味としては、常人が黄泉(よみ)の国の竈門で煮炊きしたものを食べることを指し、それは黄泉の国の者となることを意味している。
つまりは常人が現世に戻れなくなるというこなのだが、付喪神の彼らも、現世で物を食べなければ、現世で生きるに差し障りがでるのだからあながち間違いとは言い難い。
だから、ここで人の姿を保つためには食事が必要だった。
「うーん、そうだなー。
僕はずんだ餅を勧めたいところだけど、、」
「伽羅坊!
そっちにあるずんだ餅持ってきてくれ!」
「鶴さん、もっと消化の良いものの方が…」
「何言ってんだ。光坊自慢の料理が
一番良いに決まってんだろ。
小さくしてやりゃ問題ないさ。」
「な?」と鶴丸は僕に視線を向けるのだったが、やはり何だかしっくり来ないという顔をしている。
「な、何でしょう?」
「いや、なー…。うーん。
やっぱり呼び名が無いと不便だと思ってな」
「確かにそれはそうだね。
あ、加羅ちゃんごめんね。ありがと。」
ずんだ餅を大皿から小皿に移して持ってきた大倶利伽羅は、燭台切に渡すと直ぐに去って行こうとして失敗した。
足には鶴丸がしがみつき、期待をたっぷり含んだ目をしている。
「加羅坊はどう思う?」
「勝手にしろ、、慣れ合う気はない。
離せっ」
「つれないこと言うなよ。
ほら、ずんだ餅食うか?」
「それはお前が持って来いと
言ったやつだろうが!」
「じゃあ俺が向こうで食わせてやろう!」
「断る。俺は長谷部になりたくない!」
「何を言ってる、長谷部は御萩だ。
ずんだ餅じゃない」
「そこは問題じゃない」
離せと言いながら、大倶利伽羅は離す気のない鶴丸を引きずるかたちで去っていた。
「大丈夫でしょうか…」
「だと思うよ。長い付き合いだからね。
はい、どうぞ。無理しないで、
食べられる分だけで良いからね」
差し出された皿の上には、一口台に小さく切られたずんだ餅。
燭台切は優しい笑顔で笑っていた。
「いただきます」
ーーーーーー
審神者は部屋の窓辺に立って空に浮かぶ月を見ていた。そんな審神者の元に現れたのは鶴丸。
その表情は先程までとは打って変わってキリッとしている。
「主、今のところおかしなところはないぜ。
時間遡行軍の回し者って線はなさそうだ」
「…そうですか。」
「何か心配事か?」
「、、最近、あった筈の社の
記録自体が消えたと報告がありました。
その件について、
遠征に行った彼らには追加で一つ調査を
頼んだので帰りを待つばかりですが…」
「…まだわからない事だらけだ。
なんにせよ、必ず近くに誰か置いておけよ。
何があっても、ここまで来させる
気はねーけどな。」
鶴丸は無名を見つけたときのことを思い出すのだった。
2023/09/08(BACK)