刀剣ショートストーリー

×××翡翠の約束 4

「へし切ぃ」
「長谷部と呼べ」
「へし切ー」
「長谷部だっ!」

「日本号しゃんと、長谷部しゃんは、
 いーっつも同じやり取りして、
 飽きたりせんのかねぇ?」
今日は博多藤四郎と畑当番をしていた。
冒頭の日本号と長谷部を見かけたのは、あとは収穫した野菜を厨に届けるくらいの仕事量の頃。
「どうして長谷部さんは、
 へし切と呼ばれるのが嫌なんですか?」
「ああ!無名しゃんは、
 少し前に顕現したんやったとね。
 馴染むとが早うて忘れとった」
「粟田口くん達がいつも気にして
 色々教えてくれたからですよ」
「いつも末っ子扱いしゃれとーけん、
 他の世話をするんは新鮮で、
 みんな楽しんでいただけばい」
「それが有り難かったというやつです」

へへへと歯を見せて笑った後、博多は「長谷部しゃんの事やったね」と話を戻した。


ーーーーーー

ーー命名されたのに、
  直臣でもない家臣に下げ渡されたから。
  か。

夕食、風呂を終えて無名は自室へと向かっていた。
ーー僕なら名前をもらっただけでもきっと…

元主のことが思い浮かぶ。
手の温もり、話しかけてくる声、そして笑った顔。

しかし、それは10も数えないうちに消えていく。手は冷たく、声は無く、青ざめた顔に雨が跳ねる。

ーー冷たい、、冷たい、、
  赤い、、嫌、、

「おいっ!大丈夫か!
 しっかりしろ!」
「………?」
「分かるか?」

線を結んだ視界に映ったのは、なんの偶然か、へし切長谷部その人だった。
無名は思わず飛び上がって距離を取ってしまい、長谷部はきょとんとした。

「あ、あの、ごめんなさい。
 驚いてしまって」
「その言葉そっくりそのままお前に返すがな」

呆れた様な、少しだけ笑っている様なそんな顔に変わって無名はほっとしていた。
「体調が悪いのか?」
「……?あれ?
 何か考え事をしていた気がしますが…
 僕は何を考えていたんでしょう?」
「聞かれても困る」
「ですよね」

「まぁ、悪いところが無いのなら、
 それに越した事はないが、念の為、
 薬研の所に…」
「長谷部さんって、意外と心配性ですね。
 …というかここの皆さんが、
 皆親切なんですよね」
「俺の場合、主が"気にしてあげて"と言うから
 気にしてるだけで、主命でなければ
 世話係に一任して、ここまで気にはしない」

真っ直ぐとしたその目に、この人は本気で言ってるんだろうなと、垣間見た性質を面白く思ってしまった。
「一つお聞きしてもいいですか?」
「まぁ。」
「名前はお嫌いですか?」

「・・・・・・・はぁ(ため息)
 博多が言っていたのはこれか…
 ・・・・・・・・。
 好いてはいない」
「……」
無名の興味が長谷部としては不本意なところではあったが、言葉にしないでも理由を尋ねているような無名の表情に長谷部はため息をついた後、縁側に腰を下ろして隣に促した。
2023/09/11BACK)
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