刀剣ショートストーリー
×××翡翠の約束 9
暗い闇の中から声がする。それはまた僕の声。
どうしてここは悲しいばかり?
ねぇ。悲しいは要らないよ。
ほらあっちでも、、
『名前の由来?それはね、三十六歌仙から。
風流だろう?
……しかしね、それは元主人が手打ちにした
人数が36人だったからと言われている…
君も困った顔をするのかい?
まぁ、仕方の無い話さ。』
僕の気配は目の前からパッと消えると、今度は後ろから声した。
ほらあっちでも。
『僕は、かごの鳥と一緒ですよ。
ただあることだけを求められる。
この魔王の刻印がある限り…』
ほら。此処にも。
『僕は、本当は存在しない刀…』
耳を塞いでも、あちこちから笑う声が聞こえ、うるさいくらいに、辺りにこだまする。
ーーどうして悲しいばかりを見せるんだ
ボロ…
耳の辺りで何かが崩れ落ちていく。干菓子が崩れて行く様に粉になって飛んでいくのだ。
「事は急がねばなるまいな」
「、、三日月、、宗近?」
体を丸めて蹲っていた無名が顔を上げると、いつの間にか目の前に立っていた三日月が膝を折って、耳を塞ぐ無名の手を取った。
困った様な三日月の表情に、彼の手に乗る自分の手を見て無名はギョッとした。
その手はあまりにも白く、白すぎたから。
指先を中心に肌が崩れ落ち、骨が見えているのだった。骨を繋ぐ繊維の類が無くなっているのに骨が並ぶというのはおかしな話ではあるのだが、目の前にそれが広がっているのだから仕方がない。
「、、なんで、、」
「雛鳥の物語が崩れ始めている影響だ」
「僕の、、物語、、?」
「……ああ。」
「・・・・・僕は消えてしまうんですか・・」
「消えるでは無いだろうな、、」
「ならっ」
「時間遡行軍に成り果てる。」
「時間遡行軍…」
「まぁ、すぐの話では無い。
そうだ、コレをやろう。その手では
鶴丸が心を痛めてしまうからな」
手の上に乗せられたのは黒い革の手袋。
「さあ、目覚めの時間だ。健闘を祈る。」
「…どういう事?
待って、、待ってっ!、、まっ」
ーーーーーー
「待って!」
目が覚めた時、横になったまま手を伸ばして何かを掴んでいた。視線を向けると手には黒い革の手袋。
本当に掴みたかったものはきっとこれではないのだろう。手をすり抜けてしまったことだけは理解ができた。
額に汗が浮かんでいるらしく、
正直、良くない目覚めだった。
体を起こし、手に残る皮手袋を改めて見て無名はギョッとした。掌から指先まで皮膚が青黒く変色してしまっていたのだ。
『鶴丸が心を痛めてしまうからな』
どこで聞いたのかよく分からない三日月宗近の声。それでも、鶴丸が心を痛めるところなど見たくはない。と、無名は黒手袋をはめ、顔を洗いに起き出した。
2023/09/30(BACK)