刀剣ショートストーリー
×××翡翠の約束 10
身支度を整え、広間に向かうと今日は寝坊率の高い明石国行も、珍しく朝食の席に着いていた。「おーい!こっちだ、こっち!」
起きた時には既に居なかった鶴丸が大きく手を振って無名を呼び、嬉しいと思いながらも、少し恥ずかしい。
無名から見て、鶴丸の奥隣には三日月が座ってお茶を飲んでいた。
「あの、三日月さん」
「…ん?」
「これ、ありがとうございました」
「・・・・ぁ、ああ。前祝いというやつだ。」
「?、、前、、祝い?」
「鶴丸さーん!
遠征組以外、皆揃いましたー!」
「おぅ!ありがとなっ"ほうき星"!」
ーー、、ほうき星??
「さて、皆に報告だ!」
鶴丸は立ち上がると、笑いながら、無名を見て立ち上がるように手で示した。
「今まで呼び名が無くて面倒を掛けたが、
今日からこいつは"翠羽(すいう)"だ!」
「翠、羽?」
「昨日手合わせして、前の主人が足軽って
割には、思ってたより動きが軽くて
鳥みたいだと思った。
ん?…そのまんまか。足軽ってな」
自分の発言に鶴丸は笑っていると、鯰尾が「そういうの、親父ギャグって言うらしいですよ」などと言って周囲にまた笑いが起こった。
「成る程、本当に雛鳥だった訳だな」
「そう!それでだな!こいつの鞘の緑色が
光を反射して、"かわせみ"の羽の色に
よく似てたんで、翡翠(かわせみ)の羽で、
"翠羽"俺にしちゃ、ちゃんと考えただろ?」
「しかし鶴丸よ。
翡翠(かわせみ)の二文字は其々でも
かわせみの意味となるだろう?」
「流石、小烏丸。よく知ってんなぁ」
「なれど、"翡"は雄。"翠"は雌のそれの
意味のはずよな。彼は男士。
その意味としたいのなら翡の字を
用いるのが自然なのではないのか?」
「ああ、それな。
平安から続く風習に、男子が生まれた時、
悪霊、荒神、鬼から守るための魔除けとして
一定の歳になるまでは女子として育てる
ってのがあっただろ?いわば、
翠羽は生まれて間もない刀剣男士。
魔除けしておいて損はないって事だ。」
「ほぅ。
思っていた以上に考えての名付けよな。
して、そちらは、それで良いか?」
「、、っ!!」
「翠羽では嫌か?」
「とっ、とんでもない!!
名前を貰うのは、初めてだから、、
なんだろう、、その、、
言葉にならなくて…でもでも!
とっても、嬉しいです。」
「良かったな鶴丸よ。
悩み続けた甲斐があったというものだな」
「なっ!!三日月!そういう事は!!」
「おや、秘密だっか?
それはすまない事をした。許せ。」
ーーいつから?
、、そうか、だから「無名」じゃなくて
「未定」と呼ばれる様になってたのか、、
ほぼ、最初から…
「鶴丸さんっ!ありがとう!
呼び名、考えてくれて。」
「……お、おう。
、、これからもよろしくな。翠羽!」
「はいっ!!」
鶴丸が改めて無名を翠羽と呼ぶと、広間のあちこちから、翠羽を呼び、よろしくと言う声が上がっていく。
隣で照れ笑いを浮かべながら、声に応える翠羽の顔を見て鶴丸がほっとして座布団に座ると、隣の三日月が鶴丸の顔を見て再び頬を緩ませお茶を飲む。
「ふふ。良きかな。良きかな。」
「さあ!皆!朝ご飯たべようか!
座って座って!」
「みっちゃん。心なしか朝ご飯が豪華だな」
「御祝事だしね。
こういう時はかっこよく決めないと。」
「違いねぇや。いっただきまーす!」
外では朝露に濡れた草花に光が差し、
そこでもまた、緑が微笑んでいた。
2023/10/06(BACK)