刀剣ショートストーリー

×××翡翠の約束 12



顎に手を当て考える仕草の三日月が口を開いた。
「して、大倶利伽羅が引き続き翠羽の主に
 付き、翠羽はここに戻ったわけか。」
「はい。」
合流する事になっている夕刻が迫り、大倶利伽羅と翠羽はそれぞれ役割を違え、翠羽が経過報告へと戻った。



本当は主の元に残りたかった翠羽だったが、元主へのを思いから歴史に干渉してしまう可能性がある為、残るのは大倶利伽羅となったのだった。

「その、元の主の所に居た翠羽というのは、
 人間なのか?それとも刀剣男士なのか?」
「それが、、分からないんです、、」


ブォンと刃物が音を立てて空を切り、その刃先は翠羽の目の前へと突きつけられた。
刃先に反射した夕陽に翠羽は眼を細め、その瞬間は切先を向けた相手が誰なのか分からなかった。

そもそも、先刻の視線の事があったにしても仲間に刃を向けられるなど想定の範囲外なのである。
やっと薄ら目を開けると、映ったのは大きな体格に薙刀を構える岩融の姿。その怒りが噴き出す眼に翠羽は汗が次々と伝い落ちていく感覚が押し寄せる。

「岩融。それは正気か?」
ただならない気迫の岩融に長谷部が声を掛けるが、岩融の刃先は尚も翠羽の眼前から動かない。
「正気も、正気だ。
 皆がやらぬのなら俺がやるまでのこと。

 今度は大倶利伽羅か?」

「どういう意味だ?」
「それをお前が問うか?

 "へし切長谷部"。」

「!!」

「………へし、切?…何を言っている?」



  パン!!!

張り詰めた空気が、手を打つ音で終止符が打たれた。
「、ちと、蚊が居ったのでな。
 すまん、すまん。

 岩融。もう良いぞ。慣れない事をさせたな」
三日月の声に、やっと翠羽の眼前から薙刀は離れ、岩融の目は和らいだ。
「…はっはっはっは!
 まさか"ほうき星"との稽古がこんな所で
 役に立つとは!
 なかなかに楽しい時間だったぞ!」
「…、、え…?」

「三日月さんよ。大倶利伽羅さんなら、翠羽が
 言う通り、翠羽の元主のこと張ってたぜ。
 俺っちが、一っ走り
 確認して来たから確かだ。」

「薬研、世話をかけたな。」
「いいや、それで翠羽の疑いが晴れるなら
 容易いもんさ」
話は三日月によって収束しているようだったが、翠羽の理解は追いつかない。
「翠羽。試すような事をして悪かったな。
 ここの所、本丸で可笑しな事が2、3
 起きて居ってな。
 念の為。というやつだ。」

「…?」
「がははははー!疑いは晴れたという事だ!
 もう怖がることはないぞ!」
翠羽に肩を組んで、豪快に岩融は笑い出した。

「して。薬研も見て来たのだろう?
 足軽の翠羽とやらを。お前はどう見た?」
「ああ。なんて言うのが正解なんだろうな?
 でも、人間と言うより、俺等に近い。
 そんな気がする…」

"同じ"ではなく"近い"それが示す答えの先は…

「、、、時間、、遡行軍、、」
翠羽は自分の中で何度も思案して、それでも、否定しきれなかった1つの考えを吐き出した。
否定してほしい。それは違うと言って欲しい。
願いを込めて固く拳を握る。
ーーもう既に時間遡行軍が介入しているなら
  もっと前に遡らなきゃいけない?
  じゃあ、主にはいつから時間遡行軍が
  付いていたの?
  僕は、、主を守れないの、、、?

「まあ、何はともあれ、各々引き続き任務に
 専念するとしよう。」
「三日月宗近殿。俺はこの先、翠羽の方と
 行動を共にしようと思う。よいか?」
「そういうことは俺ではなく、隊長である
 長谷部に聞く話だな」

願った答えは手に入らないまま、岩融の発言に翠羽は再び背筋に冷たい物が走った気がした。あの目は演技で出来るようなものではない。
しかし、岩融は長谷部に向かって確かに"へし切"と口にした事を見るに、何かを知っている。三日月と見えない所で話が通っているのかもしれない。

翠羽はそのまま、事を成り行きを見守る事にした。
2023/10/22BACK)
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