刀剣ショートストーリー
×××鶴丸国永
主に声をかけられて向かった部屋には、知った姿が綺麗な衣を纏って淑やかに座っている。その衣は頭から足先まで白一色。
所謂、白無垢ってやつだ。
「……姫。」
俺は部屋に一歩踏み入れただけ。口からこぼれ落ちた俺の声に、姫はゆっくりと視線をこちらに向け、俺の姿を目におさめると、恥ずかしそうに目を伏せ、一文字に結んだ口を小さく開いた。
「白一色だなんて、
とっても緊張してしまいます」
「大丈夫だ。似合ってるぜ。
俺とお揃いだな!」
「………だから、緊張するんですよ…」
ほのかに赤みが差した頬に、やはり愛らしいと思ってしまう。
「で?俺を呼んだのは何故だい?
てっきり俺は姫に嫌われていると思って
居たんだがな。
主に"姫が呼んでる"って言われた時はきっと
驚いた顔をしてしまったことだろうさ」
嫌味でも恨み言でも何でもない。
ただ疑問を投げかけると、視線を合わせないまま、姫の顔は困った様な表情へと変わった。
きっと本人も不思議に思われても仕方ないと自覚していることだろう。
姫と鶴丸が出会ったのは、姫が10には少し足りない位の歳の頃だった。顕現して本丸を案内されていた鶴丸と、一方、中庭で藤四郎兄弟たちと遊んでいた姫。姫は鶴丸を見るなりその場を逃げ出したのだった。
後々改めて主に挨拶の為に連れてこられた姫だったが、主の背後にしがみつき、その目には涙が浮かんでいた。
特に何もしていない。
驚かせる間すらなかったのだから鶴丸は疑問符を浮かべるばかりだった。
それから今日までずっと鶴丸は一定の距離を保ったまま……いや、、何度かは"構ってほしくて"というのは語弊があるかもしれないが、溝を埋めてみようと、逃げる姫をちょーっとだけ追いかけてみたことはあった。
涙をぼろぼろ流しながら逃げる姫を見て、長谷部や一期一振や、歌仙辺りに怒られたのは言うまでもない。
姫に嫌われているのだと思う事で、いつしか関わろうとする事を鶴丸は諦めていった。
そんな間柄だからこそ、姫に呼ばれた理由も分からなければ、目の前に広がっている姫との物理的距離を縮める理由も見つからない。
今日は特別な日なのだ。
そんな日に泣かせるわけにも逃げ回らせるわけにはいかない。
「少しだけ、お時間頂いても良いですか?」
「何だい。改まって。まぁ、
姫が呼んでるって言われて来た訳だしな」
姫は「ありがとうございます」と立ち上がると一歩足を出そうとして躊躇い、下を向いてしまった。
「……綺麗だなって思ったんです。」
「……ん?」
「…とても綺麗で、、その、、神様みたいで、
って、刀剣男士さん達は皆
付喪神様なんですけどね。」
顔を上げてちらっとこちらをみた姫だったが、視線は合う間も無くまた逸らされてしまった。
「綺麗すぎたんです。貴方が。
綺麗な存在(もの)って、
見惚れてしまうんです。
でも、それと同じくらい綺麗すぎて、
私には怖かった……」
「、、怖い?」
「ええ。
子供心に、そう思ってしまったのです。
いつか神隠しにでも遭わされてしまうとか、
人が触れたら弾けて消えてしまうのでは…
とか、いろんな事を考えました。」
「きみが望むなら、いつでも
連れ去って良かったんだがな」
「お断り致します。
恐れ多くて耐えられないもの。」
「それはすまなかった…って、俺にどうこう
できる話でもないんだが。
……で?
今でも俺は怖い存在のままかい?」
姫は首を振る。
「今までっ」
「君はこれから審神者になるのか?」
言葉を遮って鶴丸が問いかけると、姫はまた、しかし今度はキョトンとした顔で首を振る。
「でも、旦那さんの本丸で、彼の刀剣男士の
皆さんと一緒に過ごしていきます」
「そこには、、、鶴丸国永(俺)も?」
やっと視線を顔に向ける事ができた姫の目に写ったのは、なんとも言えない複雑表情の鶴丸。
なんだか拗ねているような、いつもより人に近い存在に見えて、笑いが込み上げてしまった。
「……っふふふ」
「なっ!!」
「だって、、そんな顔しなくてもっ、、ふふ」
「俺だって、複雑な心境にもなるさ。
君のそばに居られる鶴丸国永(俺)は、
俺ではないのだからな…」
遠くからでも良い。
もっと、見守っていたかった。
本当は、もっとこうして話をしたかった。
本当はもっと、、笑顔にしてやりたかった。
もっと。
もっと。
本当はそばで。
「それでも、、」
逃げてばかりで、隣に並んで過ごす事は
少なかったけど、同じ場所で
ともに同じ時を刻んで来た。
生まれて初めて、目を奪われた貴方に
素直な言葉で気持ちを伝える事は
照れ臭くてほとんど出来なくて、、
これが今の私の精一杯。
「私にとって一番の鶴丸さんは、目の前にいる
貴方ですよ。」
『ひめー。そろそろ時間だよ』
部屋の外からの呼び声に、「はーい」と姫が返事をすると、鶴丸はハッとして、もう一度姫の姿を目に焼き付けるように眺める。
もうこれで、旅立ちの時なのだ。
目頭が少し熱かったかもしれない。
唇を少し強く結んでいたかもしれない。
泣き顔ばかり見て来た筈なのに、その記憶がどんどん笑顔に変わって、光で溢れ、
そして白無垢の美しい姫へと移る。
「じゃあ、俺も広間に行ってるな…」
出て行こうと鶴丸は襖に手を掛けた。
「連れて行ってくださいませ」
「……は?」
「『……は?』じゃありませんよ。
旅立ちは、貴方が送り出して下さい。」
振り返るとにこりと微笑んで差し出される手は
鶴丸を待っている。
あんなにも逃げ回っていた姫が、
鶴丸が手を取るのを待っている。
「これは最後の最後に驚きだな。」
埋める理由が無かった距離を埋めて、姫の目の前に立った鶴丸は片膝をついて姫の手を取る。
華奢なその手は少し震えていたかもしれない。
それでも、旅立ちの介添に自分を選んでくれた事に鶴丸は嬉しさが込み上げる。
一度視線を合わせて、姫の「参りましょう」の声で立ち上がり歩き出す。
広間への廊下はやっぱり短くてあっという間に、目的の襖の前に辿りいてしまった。
「鶴丸さん。
今までずっと、ありがとう」
姫を避けながらも、隠れて世話を焼こうとしていたことは、どうやらバレバレだったらしい。
どこまで姫が知っているかは分からない。
でも、それで良い。
それが良い。
鶴の名を持つ俺だから
君の幸せが千年続くよう願おう
「姫。
さぁ。君の大舞台の始まりだ」
姫と鶴丸は
皆が待つ広間へ足を踏み出した。
**********
友達と『推しキャラを現実で、至近距離で直視できるか?(観劇ではない)』という会話がこの話が出来上がるきっかけでした。
私》たとえコスプレ様と分かっていても、私は鶴丸さんから2、3m距離が欲しい(>_<)
美しい鶴丸さんは距離を置いてじゃないと泣いちゃうから無理!
隣に並んで記念撮影されてる方は凄いと思う。
友達》でもキャラ的に、逃げたら鶴丸さんは楽しんで追いかけてくるのでは?
私》逃げる。泣きながらでも逃げる。
美し過ぎて本当無理。好きだけど無理。
というわけだったのですが、逃げられ続けるのは流石に不憫だよなぁ、、と、いう事で、別れ(旅立ち)際に少しだけ勇気を出して歩み寄るみたいな話にしたいなと思いました。
誰のモノローグか分かりにくくなってしまうので、いつも一話の中でモノローグは一人かな?と思うんですが、今回は二人とも入れちゃいました。
分かりにくくなっていたらすいません。
ありきたりなので、書くかどうかは分かりませんが、姫の子どもと遭遇する鶴丸さんのちょっとした話の構想があったりします(笑)
読んでみたい方は、投書お願いします。
2024/01/16(BACK)