四字熟語

<老若男女の嗜み>
人は皆、愛を育むものだとDNAに刻まれている。
その習性を発現させるか否かは当人の自由なのである。
というのは、彼女の持論である。
愛を語ることが好きな彼女のことだから、こんな発想の展開になるのも頷ける。
人は、愛する物があると強い。
これも彼女の持論である。
信じるものがある者とない者では、その力の強さに明確な違いが出るそうだ。
実に彼女らしいと思う。
現に彼女は愛を発芽させて強くなった…と力こぶを作っている。
どう強くなったのかは知らないが。
自分は彼女のように、愛について語ることはできそうにない。
柄ではないと言われることもあるだろうが、単に小っ恥ずかしいからだ。
彼女の言う愛に乗っかるのも悪くないな、と思い始めたのは高校に上った頃だった。精神的に成長したからかもしれない。
ソファに座ったまま動かない彼女の横をそっと立つ。
なるべく音をたてないようにホットミルクを作ると、再び彼女の横に戻った。
映画を見ている時はエンドクレジットが流れ終わるまで動かない。
これは彼女のこだわりだった。
このこだわりを邪魔しないまでに自分は彼女に染められているのだなと思うと、
これは愛なのでは
と、自分の中で一つの結論が出た気がした。

<晴耕雨読の試み>
雨が降れば彼はお休みだ。だから家でのんびり過ごす。
雨が止めば彼は外に出る。体を動かすこととテニスをすることが何よりも好きな彼は、晴れの日に輝く。
雨が降れば私は映画を見る。彼が隣にいることはもはや当たり前のことだ。
雨が止んでも私は映画を見る。体を動かすことは彼の専売特許だから。
彼に雨と晴れとどっちが好き?と聞いたことがある。答えは当然「晴れの日」。
それでいい。そうでなければ困ると思った。
だけど、寂しさがないかと言えばそんなことはないのである。

<温故知新の極み>
今までの関係でも俺たちは幸せだと思う。このまま波も風もたてずに平穏に、これまで築き上げたものを大切に、それで万事解決だ。
とはいうものの人生には区切りというものが必要だ。例えばそれは卒業だったり、入学だったり、成人だったり、就職だったり。
それとは別に一人では成し得ない区切りがある。
愛し合う二人が結ばれる、二人のための区切り。
指輪を渡してつけるだけの行為だ。何も怖いことはない。
それなのに、こんなに指が震えているのは何故だろう。

<愛別離苦の悲しみ>
彼は遠いところへ行くらしい。私が到底届かない遠い場所へ。
最初はとても誇らしかった。
だって、彼は選抜メンバーに選ばれたのだから。
その日が近付くにつれて、彼の顔が徐々に引き締まっていくのを見ていた。
なんでもその選抜メンバーは、高校生が練習をしている合宿場で錬成をするんだとか。
彼のいる世界は、私が到底届かない遠い場所だ。
いよいよ明日だね、と電話口で彼に呼びかける。
彼の素直な返事にこちらまで嬉しくなった。
厳しいかもしれないが、自分の力がどこまで通用するか試す良い機会だ。絶対に諦めたりしない。
そう熱弁されると私も誇らしくなって、
あんたは私の自慢の恋人だよ
と柄にもなく言ってみた。
電話の先では何やら咳き込んだり物が落ちたりする音が聞こえた。
急に何だ
と、照れとも憤りとも取れる声で凄んでくるものだから、おかしくて笑ってしまった。
行かないで、とは口が裂けても言えない。
あなたのいる世界は、私が到底届かない遠い場所。
だから、行かないでの代わりに
たまには電話頂戴ね
なんて、彼を私の世界まで引き摺り下ろさぬように、そっと押し上げた。
ああ。もちろんだ
彼の力強い相槌を皮切りに、私はしばらくの別れを覚悟した。