ルーベルシア。
この世界には、大きくわけて3つの種族が存在している。

人間と、獣。
そして、獣人の3種族である。

獣は、四本足で歩行する全身毛で覆われたものが多い、もっともこの世界で多い種族である。
次いで人間、そして一番希少なのが、獣人であった。

獣人は、人間と獣、両方の力を持つ者である。
人間そっくりな獣人は、獣のような強い力を持ち、また人と同様に知力を持つものが多かった。


フィズレイン、マフィア市コダク森。
人里離れた森にも、二人の獣人がひっそりと住んでいた。


「おししょうさま…」

狼の血をひく獣人・レノは、バタバタと音をたてて、泣きながら家へととかけこんできた。

薬草を積みに行ってきます、と意気揚々に数刻前までいっていた顔が、今では涙でいっぱいになっている。
レノの服はボロボロで、下半身に至ってはなにも身につけていない。
レノ自身も、フラフラと今にも崩れ落ちそうな足取りであった。


レノが家を出る前は、大きめの上着に半ズボンをはいていたのだが、現在のレノはといえば半ズボンをはいてはおらず上着からは艶かしい足が覗いていた。
白い素足に、ねっとりとした液体が伝い、酷く扇情的にみえる。呼吸も荒く、零れ落ちる吐息は酷く熱い。

「レノ…?」

レノのただならぬ様子に、彼の師匠であり、魔道士でもある・リクゼ・ブルクは、慌ててレノの元へ駆け寄った。

「どうしたんだい?その姿」
「ぼく…」
「騒々しいぞ、レノ。なんの騒ぎだ…」
「あ…」
現れた声に、びくりと、レノの身体が跳ねる。

「ジャ、ジャッカル…」
「おまえ…その姿…」
ジャッカルはレノの扇情的な姿に、一瞬、息をのんだ。
ズボンも身に着けておらず、濡れた足。
そして、赤らんだ頬に、荒い呼吸。
レノの尋常じゃない様子に、どんどんジャッカルの顔が険しくなっていく。


「どうしたんだ、その姿は…!なにをした?
誰となにをしていたんだ?なんで、服を着ていないんだ」
レノの腕をとり、がくがくと揺さぶるジャッカル。
きつい声で咎めるジャッカルに、レノは身体を小さくし俯いた。

「あ、あの…ぼく…う…」
「はっきりいえ。なにをどうしたら、こうなるんだ…」

ジャッカルの鋭い瞳に晒され、攻めるように捲し立てれば、レノもレノで落ち着きなく、どもり泣きじゃくった。

「ジャッカル、そんなに怒っていたらレノが話せないじゃないか」
「で、ですが…」
「君の心配する気持ちもわかるけどね」

リクゼは、そうつぶやくと、腰を曲げてレノの視線まで合わせた。


「どうしました?レノ…」
「ぼ、僕…あの…あの…」

リクゼに現状を話そうとするも、嗚咽が止まらず、言葉にならない。
リクゼは、どうしたものか…とレノの身体をまじまじと見やる。


よくよくレノを観察してみれば、剥き出しにされた細い滑らかな足は白い乳色の粘着性のある液体で濡れていた。
その現状を見るに、導き出されるある可能性≠ノ、リグゼは頭を抱えた。


「まさかこの服…リタの森に…?」

リクゼが尋ねれば、レノは小さく震えながらもコクりと頷いた。


「は、はい…」
「馬鹿ですね…リタの森は繁殖シーズンであれほど…」
「ご、ごめんなさい」

レノは泣いている顔を更に顰めて、頭を下げる。
リタの森といえば、レノたちがいる小屋よりも少し距離がある森で、今ちょうど繁殖シーズンの触手達がいる。

その触手達は子孫を残そうと、繁殖シーズンはどの生物にも寄生してしまうのだ。

触手達は、雄でも雌でも穴があれば寄生し、体内に入り、卵を産む。


その卵はやがて寄生者の肉体を壊し外へ出てくる。
つまり寄生されたが最後、卵がかえってしまえば、寄生者はそのうまれたての触手に肉を食いつぶされて殺されてしまうのだ。


どうやら、レノは、卵をうめつけられたらしい。
苦しげに息をはき、えぐえぐとこの世の終わりのように泣いていた



「卵…生み付けられたのですね?」

リクゼの問いにコクリと頷くレノ。
リクゼはやれやれ…と天を仰いだ。

―全く、このドジっ子がまた厄介を…
レノは、大型のものが多い獣人にしては、愛らしく可愛らしい顔をしている。
性格も非常に素直で天真爛漫。いつも笑顔を絶やさない優しい子である。
しかし、非常にドジでありいつも大きなハプニングを起こすトラブルメーカーでもあった。
その度に師匠であるリクゼと兄弟子である同じ獣神のジャッカルは尻拭いに翻弄されるのだ。


「…またお前は、厄介ごとを持ってくるんだな…。本当にお前はいつも俺と師匠の手間をかけさせて…」

「これ、ジャッカル。そんな事いうんじゃないよ…」

ジャッカルの冷たい言葉に、リクゼはと優しく咎めた。


(ジャッカル…)
ジャッカルの言葉にぎゅぅっと胸が痛む。

そもそも、レノが危険を犯してまでリタの森にいったのは、ジャッカルの誕生日プレゼントに、リタの森に生えている『ケプネ草』を取りにいきたかったからだ。

ケプネ草は大変貴重な種で、リタの森にしか生えていない。
ケプネ草はとても綺麗な花で、鑑賞だけじゃなく万病にもきくと言われている。

ジャッカルは、薬草にも詳しく珍しいものを沢山ストックしている。
そんなジャッカルにケプネ草をあげればきっと喜ぶと思い、危険を承知でレノは森へとはいってしまったのだ…


(僕の馬鹿…)
ジャッカルの喜んだ顔が見たかったというのに、また呆れられてしまった。
自己嫌悪で胸が痛む。

ジャッカルは昔から、弟弟子であるレノに対し、すぐに冷たい言葉を浴びせる。
師匠のリクゼには礼節を重んじて、敬語で物腰柔らかく話しているのに対し、いつもレノには距離を置き、冷たく接する。


レノは確かに、秀でたところはない。
獣人で愛らしい顔をしているといっても、本当に愛らしい獣人ばかりの猫型と比べれば劣ってしまうし、何より狼の血を引くのに非力だ。

こんなんじゃジャッカルが呆れ見放してしまう…と、わかっているのに、ミスをしないようにすればするほど意識してしまい更にミスを多発していた。


「僕…治らない…ですか…?」

ペタリ、と耳を伏せて悲し気に呟くレノ。
そんなレノを安心させるようにリクゼは優しく頭を撫でた。


「いや…大丈夫…だよ、うん…」
「…ほん…と…」
「う、うん…ただ…ねぇ…」

リクゼは、対処法を素直にいうべきか言葉を躊躇する。


この触手の卵。
触手の幼虫がかえる前に卵を死滅させればいいのだが…
かえってしまうとなると、取り返しのつかないことになる。

卵がかえる前に死滅させる方法もあるにはあるのだが…


「レノ、どんなことされても、いいかい?」
「どんなこと…?」
「治療は少し、難しくてね。もしかしたら、レノいやがるかも。でも、それしか方法なくってね」
「いいです…ぼく。どんな治療でもうけます…ボクのせいですから…なんでも受けます」
「そう、いい子だね…」

よしよし、とリクゼはレノの頭を撫でて、ジャッカルに振り返る。

「というわけで、ジャッカル…君の身体を借りてもいいだろうか…」
「はっ…え?」
「だから、治療だよ、ち・りょ・う」
「えっと、なぜ、俺が?」

触手に卵をうみつけられたのは、レノである。
なのに、何故自分が治療を受けねばいけないのか。
困惑のままジャッカルが尋ねれば、

「この卵、獣人の精液に弱いらしくてね…
僕は獣人ではないし、卵がかえらぬよう魔力で止めなきゃいけないし?だからね、君の身体を借りたいの」

とリクゼは説明する。

「身体…精液…、つまり…」
「うん、つまりね、レノを抱いてくれないかなぁってこと。
レノの身体に精液をかけてほしいんだよ。卵うみつけられた場所にね…」


とんでもないことをさらりと言ってのけたリクゼに、流石のジャッカルも、はいと返事をすることはできない。

いくら、普段は尊敬しリクゼの言いつけを守っているジャッカルでも、突然の無理難題は素直に頷くことはできなかった。

なにせ、相手は弟弟子であるレノ。
レノを、触手の卵死滅のためにだくなどと…。


「君しかいないんだよ…」
「ですが…」
「だ、駄…目です…」

二人の会話を遮るようにレノが叫んだ。


「ジャッカルは…駄目…」

ジャッカルには嫌われたくない。こんな形で抱かれたくない。

好きだから。自分の好きな人には、迷惑かけたくない。
呆れられているから、せめて嫌なことはさせたくない。


「ジャッカルだけは…」

ジャッカルが好きだから。密かに思うしかできないから。
だからこそ、レノはリクゼにジャッカルに抱かれるのは嫌だというのだが…

ジャッカルはレノの言葉に、ギリ、と歯を鳴らした。


「師匠」
「ん…」
「俺、こいつを抱きます」
「え…っ…や…」

宣言し、ジャッカルはレノの身体を軽々と抱き上げた。

パタパタと足をばたつかせるも、それは小さな抵抗にしかならず。


ジャッカルは、自分の寝室にレノを運ぶと、レノをベッドに転がした。

百万回の愛してるを君に