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誰も助けてくれない。
神様なんていない。
もしもいるならば、こんないつまでたっても終わらない試練なんて僕には与えないはずだから。
神様はいない。
あいつらに囚われた僕は、一生、あいつらの玩具なんだ。
いつしか、僕は諦めのいい人間になっていた。
感情を動かせば動かすほど、奴らは笑って僕を苛む。だから、あいつらを楽しませないために、せめてもの抵抗に感情を殺した。
子供のころに比べたら、ぐっとあいつらの前で泣く機会は減ったと思う。

小学生のころ泣き虫だった僕は、社会人になりあいつらの前だけは泣き虫ではなくなった。
あいつらは、それが気に入らないのか、僕を泣かせようと躍起になっていたけれど。
大人になって、あいつらはその容姿にますます磨きがかかったけれど、僕への執着は大人なった事により、より酷くなっていった。僕への束縛も酷くなり、5人じゃない誰かと仕事以外で話をした日などは、次の日は足腰がたたなくなるくらい、抱かれた。


彼らは僕を強制的に同じ会社(清川の会社)に入社させ、仕事でも僕を自由にはしてくれなかった。おそらく、清川が手を回したんだろうけど、清川の会社以外はすべて落ちてしまって、唯一受かったのが大手企業の清川の父親が社長の子会社だった。


清川の束縛は会社でも続いていて、僕が誰かと仲良くなればその人は遠い部署に飛ばされ、僕が素敵だと思った人はいつの間にかやめている。
奴ら以外の人間は僕に近づくこともできなかった。


清川は、社長の息子であって、この歳で課長である。
立場的に僕の上司だった。
清川は会社でもいたる所で、僕を呼びつけパシリのようなことをさせたり、僕の体を弄んだ。バレたら退職じゃすまないことも、恥ずかしくて人に言えないことも沢山させられた。


何故、やつらはこうまでして僕に執着するのだろうか?
可愛くもないし、感情すら最近は見せなくなった僕と一緒にいて、なにがあいつらを満足させるんだろう。

何が、そんなに執着できるのだろうか。

幼い頃からずっと考えているのだが、未だにその答えは見つからなかった。


     +

「あー、こりゃまた負けだな」

父は悔しそうにそういうとダン、っと持っていたビールを机に置いた。
枝豆を剥きながら扇風機を回し、うちわをパタパタ仰いでいる姿は世の中のだらしない親父らしい姿である。

今年50歳の父親は会社を辞めてはおらず、社宅から出てはいなかった。僕からすると凄く居心地の悪い社宅なのだが、父に言わせればこんなやすくでこんないい物件に住める事はそうそうないらしい。
父は僕と違い、社宅ぐらしをそれなりに満喫しているようであった。


僕はといえば、今現在、社宅には住んでいない。たまにこうして実家にくることはあっても、僕には帰るべき家はある。
どこに住んでいるのかといえば、非常に言いづらいのだが清川名義のマンションに住んでいた。この年で僕は囲われているのである。

一人暮らしでも自由もなく、あいつらがずっと監視のようにそばにいるせいで恋人もいない。
そんな訳で、彼女を作るのも、諦めた。


最近は、誰かを好きになることも、好きになってくれたらいいと思うことすらなくなった気がする。
5人の束縛という檻を壊してくれる人なんて、きっといないと思うから。

少し、父を恨む。どうしてこんな社宅に引っ越してきたのか。
どうして、あいつらの父親の部下なのか。
恨みがましい視線を父に送れど、父は呑気な顔をしながら、ビールを仰ぎ野球を観戦していた。


「……あーあ、またお父さんが好きなチーム負けているわね」
「ああ」

むすりといって、コップをテーブルに叩きつける父に、母はものに当たらないでくださいな…と子供のように癇癪をたてる父を叱りつける。

「いつまでたっても子供っぽいんだから。困ったものね。」
そう言いながら母さんは切ったばかりのスイカをテーブルに置いた。
父はすぐさま、そのスイカを手にとると、何も言わずにかぶりついた。

眉を寄せながら難しい顔をしているところをみると、応援しているチームが試合に負けそうで悔しかったらしい。

ちょうど僕も腹が減っていた為、父の隣に腰を下ろし、スイカを手にとった。
シャク、っと音をたてて、スイカをかじる。
スイカは甘くてみずみずしい。
口の中に、甘いスイカの味が広がっていった。


シャクシャク、とスイカを食べ進める音と、ブゥンという扇風機の音が大きく響く。

冷蔵庫からビールを出してきた母さんは、必死にスイカをたべすすめる僕等を一瞥し、父の隣の自分の定位置に座った。


「また大敗してるのね。このチーム」


母さんはテレビをみて苦笑する。
父さんは唇を尖らせながら、「今日はいい場面もあったんだ」と零した。


「でもねぇ…。いい場面はあっても、こんなに弱くちゃねぇ…」
「今にみろ、絶対このチームはいつか優勝する。」
「無理じゃないかしら。圧倒的に弱いじゃない?このチーム」
「弱いやつらが強いやつらを負かす下剋上がいいんじゃないか」
「下剋上……ねぇ……
こんなに他から虐められてるチームがそんな事出来るかしらねぇ………」
「出来る」

母と父の言い争いが始まった。
こうなったら話は長くなる。二人とも、頑固だから。

僕は二人の言い争いをBGMにテレビに視線を移した。

試合は、馬鹿試合。
10点差以上も差がついていた。
……下克上なんて、無理だよ。だって、こんなに弱いんだから。
絶対に強いやつになんて、勝てっこないんだよ。
一生、1番なんて、優勝なんて無理なんだよ
ずっと、弱いやつはカモにされるんだ。

下剋上。
そんな事、奇跡でもおきなきゃ、絶対無理なんだよ。
気がつけば、僕は父さんが応援していたチームに自分を重ねていた。

もしも、この球団が優勝する時その時は僕もやつらから逃れられないだろうか……。

そしたら………。

シャク、とスイカを齧る音とともに、力み過ぎたのか舌を噛んだ。
口の中に鉄の味が広がる。

美味しいと感じたスイカは、途端、苦々しいものになった。

百万回の愛してるを君に