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 真鍋誠司まなべせいじ、32歳。独身。
職業は、捜査第一課の刑事である。
 主に、強盗犯や殺人犯などを相手にする部署で、資料を見つめてあれこれ悩むより、身体が資本で現場直行が俺の仕事である。
 念願の刑事になれた俺は、日々凶悪犯逮捕に命をかけており、日々仕事のために奔走した毎日を送っている。

 そんな俺のデータはさておいて、今の絶対絶命の状況を先に説明させていただきたい。 
 俺は今、非常に不愉快な格好をさせられている。
 上半身は裸なにもつけてない。そして下は、パンツ一丁。
…どこの変態だ。
けして、俺の趣味ではないということははっきりと言っておこう。

 俺の目の前には、ニヤニヤと口元に笑みを浮かべている男がいる。
顔は暗闇ではっきりとはわからないのだが、僅かに見える口元はゆるゆるに緩んでいた。
目の前の男とは、結構長い因縁の付き合いになるが、こんな事をされたのは初めてだ。
いや、むしろこんなに近くにいる事自体、初めてである。


「…いい格好ダネェ。
刑事サン…。
いつも強気な刑事さんが裸にされて恥ずかしがっていて…。
僕ゾクゾクしてしまいます…」
「はっ…。変…態がっ…」
「そんな強気なところが好きなんデスヨ?刑事サン」

男は俺が動けない事を良いことに、無理やり俺の顎をすくうと上向きに上げる。
凄い屈辱である。
俺は悔しくて、ギリリと歯を噛み締めた。
きっとこんな態度があいつを喜ばせるんだろう。
わかっているのに、冷静になれない。

「ほどけ馬鹿野郎」
「嫌デス。せっかく捕まえたのに。
こうやって、ずっと触れたかったんですヨ?」
男は俺の顎に手をかけたまま、座り込んでいる俺のほうに身体を傾ける。鼻先ほどの位置まで近づけられた顔。


 俺の今の状況は、はっきり言って窮地である。
俺は、日本人の男からしてみれば大柄のほうで職場では熊男、と呼ばれている。熊男の名前よろしく、中学から大学まで柔道をやっていたし、全国大会でいい成績をとるくらいの腕前もあった。
足は他の刑事よりは遅いが、腕っぷしは合ったし俊敏力もあった。今まで凶悪グループにだって1人で立ち向かって壊滅させたこともある。

刑事という職業は、体力あってのもの。
知能なんて、そんなのは別の部署の仕事。
俺は自分に与えられた仕事を理解していたし、筋トレもマメにしていた。
油断大敵、常に凶悪犯の前では油断するな。
その心得はあったはずだ。
それなのに…あぁそれなのに、だ。

 目の前で楽しそうに笑っているこいつ。
こいつは最近この街を騒がせている怪盗である。
名前はブルーキャット。
変装が大得意で誰もその姿を見たことがないとか、なんとか。
むかつくことにこいつが盗みを働く相手というのは、悪人だけ。
大体がだまし取ったものを取り返すため、元の相手に戻すためだったりする。わざわざ警察に悪事を調べさせて、盗みと称して元の持ち主に返したりと…、ニュースではこいつは義賊の英雄扱いされて、俺たち警察は無能扱いだった。

いくら悪人相手に盗みをやっているとはいえ、盗みは盗みである。
俺たち警察は世間の荒波にも負けず、ブルーキャットを追い続けた。
そして、今日
俺たち警察は罠を張りやつを待っていたのだが、俺たちの罠はあいつにはバレバレだったみたいで、逆に利用された。
そして今の状況、だ。
全くもって笑えない。

身ぐるみはがされ、手足は警察の象徴でもある手錠で繋がれ…こんな状況。


「俺の、部下は…?」
「あぁ、邪魔だったんで向こうの部屋に放置してますヨ?
僕、あなた以外興味ないんで」
「俺以外…?」
「ええ」
嬉しいです?と微笑むブルーキャット。
全く持って嬉しくはない。

「なんで俺…」
「だって、あなたと話したかったんですもん。いつも僕を真剣に追いかけてくれる、貴方と。こういうこと、してみたかったんです」

ブルーキャットはそういうと俺に顔を近づけて、俺が反応する間もなく唇を奪った。

「な、なななな、なにを…」
「なにって?キスですヨ?」
「き、キスって…」
「外国では挨拶ですヨ?」
「こ、ここは外国じゃねぇ!」
「細かいことはいいじゃないデスカ」

細かくねぇよ!と突っ込む俺の言葉は、また男の唇に消える。
「やめ…」
「だぁめ」
ブルーキャットは俺の顎を抑えて、角度を変えてキスをしてくる。
俺はぎゅっと唇を噛み締めるのだが、ブルーキャットは俺の口を何度も舐めて、口内へ潜り込もうとする。

「強情ですネ…、仕方ないです」
ブルーキャットは俺の顎もとから手を外した。
ようやくあきらめたか…と、ほっと油断したのが運の尽き。

「隙あり、ですヨ」
ブルーキャットはそういって、俺の乳頭をくにくにと揉みしだいた。

「なななな…んっ…」
乳首を触られてビビっている俺のすきをついて、男はまたキスをする。優しく指の腹でもどかしいタッチで乳頭を撫でられ、口内は激しいキスをされ…これで落ち着いていられるほど、俺はまだ経験がなかった。

「俺を、どうするつもり…」
「僕のものにしたい、っていったら、怒ります?」
「おまえの…」
「ハイ。僕のハニーになってほしいんデス」

ブルーキャットは俺の耳朶を軽く噛みながら、妖しくささやく。


「は、はにぃ?…」
「僕は本気、ですよ。…誠司さん」
「な…なんで俺の名前…」

何度もいうが、ブルーキャットとこんな近くで話すのは今日が初めてだ。
名前を名乗った覚えなどない。
ブルーキャットは困惑する俺の頬を撫でて、秘密ですという。

「それより誠司さん…あなたは僕に抱かれたいですか?
それとも抱きたいデスカ?」
「は?」
「だから、僕を抱きたいですか?
それとも抱かれたいですか?
僕どっちも上手いデスヨ?」

何が?と聞くほどもう俺は初じゃない。
それに、俺はその手の男にモテる。
この外見だからかもしれないが、尻を掘ってくれと懇願されたことがないとは言えない。
それにブルーキャットの触わり方。
上半身裸、身ぐるみはがされた状態。


これはもしかして…もしかしなくても貞操のピンチだろう。
嫌な汗が背中を滑る。
抱きたいか、抱かれたいかと言っても得体の知れないやつを抱く趣味はないし、何よりこいつは怪盗だしそして何より


「お前男だよな」
「疑っているのならみます?」
「いやいやいやっ」

俺なんかより、細い体をしているが、声から言って男だ。
変装という可能性もあるが、この男の俺に抱きたいか抱かれたいか聞くって事は…
つまり男の可能性が高いというわけで…。


「か、考えなおせ。
こんな熊男抱きたいか?抱きたくないだろう。うん。
それに俺は自慢じゃないがテクはないぞ?
抱くにしても乱暴だし」

あぁ、全く持ってこんなの自慢じゃないし言いたくないが貞操の危機だ。仕方がない。
俺は、はっきり言ってテクはない。
早漏というわけでもないし、短小というわけでもないのだが、いかんせんめんどくさがり屋なのだ。なので、前戯に時間をかけずやるだけやって、出すもの出すだけ。当然、女には不評で、長く付き合えない。
仕事をしている刑事さんのかっこいいあなたが好きなの(はーと)なんて初めは言っていたのに、いざ付き合ってみると仕事ばかりの男でつまらない、と相手から別れを切り出される。
そんな俺だからここ最近恋人はいない。
所謂右手が恋人、ってやつで。


「僕はタチなんですけど。
でも誠司さんになら…
めちゃくちゃにされてもいいかな〜なんて…。誠司さんになら、どっちでもできる気がします」


ふふふ、と笑いながら、ブルーキャットは俺の胸板に猫のようにすり寄った。

強者現る。


「くっ…。俺はそんな趣味は…」
「駄目ですよ。誠司さんは怪盗である僕の心を奪ったんですから。
責任もって、僕とお付き合いしてください」

そういうと、ブルーキャットは忙しなく俺の体に手を滑らせて愛撫していった。

胸に腹に…更にその下の部分にも。
非常にヤバい。
ブルーキャットの性的な愛撫のせいで俺のモノが…
察してくれ。

「おいッ」
「ん〜」
「おいったらっ」
「五月蝿いですヨ」
「んんんー」

反論虚しく、言葉は奪われる。
巧みなブルーキャットの舌の動きに翻弄され、息を切らす。
ただのキス。
しかも中学生とか童貞じゃあるまいし、キスの一つだ。
なのに、俺はブルーキャットにいいように翻弄され、抵抗ひとつできない。ブルーキャットのキスにじわじわと頬に熱がたまっていく。


「誠司さん、可愛いです…」

うっとりと俺の顔を見つめて、ブルーキャットは恍惚する。
うるせぇ、馬鹿野郎。
そう言えない自分が憎い。
俺は荒い息を吐き、ブルーキャットの腕に抱かれながら、やつを睨みつけた。

「かわいい」
「馬鹿野郎」
寄り掛かっている俺に対し、ブルーキャットは優しく頭をなで
俺とは敵な筈の、怪盗なのに…


「貴方が…ずっと、好きでした…」

一瞬、月の光で見えたマスクに覆われた奴の青い瞳は…
俺をみつめ切なく揺らめいていた。

「好きです…誠司さん…」
囁かれ、またユックリと、顔が近づいていく。

ビービー


「っ…」

けたたましい、警報音。
仲間の誰かが気絶から復活して、応援を呼んでくれたようだ。


「ちっ…」
ブルーキャットは忌々しく舌打ちを打ちと、俺から離れた。
ブルーキャットが離れたことに安堵していると、

「誠司さん…」
先程と打って変わって、ブルーキャットは不機嫌な声を出す。


「な、なんだ…」
「そんな顔、しないで下さい。
監禁したくなりますから…」

か、監禁…。
そんな顔ってどんな顔だ…。

「また、今度…続きをしましょうね、誠司さん」
「ブルーキャット…きさまっ」
「貴方を手に入れる為に、何度も予告状書きますから。
だから、ずっと僕を追ってくださいね。
誠司さん」
「なっ…」
ブルーキャットは名残惜しげに俺の頬をひとなですると、背を翻し、猫のような軽やかな身のこなしで闇夜にとけていった。



 やつと出会って、数か月後。
「誠司さん、本当にブルーキャットに関しては熱心すねー」
「うるせー」


俺は未だにブルーキャットを追っていた。
怪盗だからもちろん捕まえなくてはいけない相手だが…
俺はあれから変なのだ。



あいつの事を考えると頭がパンクしそうになるし、顔だって赤くなるし…
オナニーする時だって、あいつの手思い出しちまうわ、俺は…。


「誠司さん…、顔真っ赤ですよ」
「…っうるせー。
早く行くぞ」

赤く染まった頬がバレナイように、俺は顔を背け不機嫌を装い走りだした。
ブルーキャットが犯行を行う場所へ、あいつを捕まえるために。

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百万回の愛してるを君に